11、独りよがりと鳥肌
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構えはない。我流という言葉にも届かない。
運動の前段階は溜めという言葉だけを表している。
――まだ、次の次を考えるような段階ではない。
――相手の動きにはその場で応じるだけ。
まずは自分が動く事だけを考える独りよがりの攻撃だ。
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一歩の距離を攻撃でつぶすには反動をつける、もしくは。
(――踏み切りを!)
右足を後ろに放るようにしながら、床面を噛むように押すと。
「――!」
体が前に跳ぶ。速度は景色が後ろに落ちていくよう。
けれどその速度は――。
「低速」
速度を持って体を前に運んで突き出した肘は鉄鋼の硬度を持っているが、同等速度の腕のいなしで方向転換をさせられる。
流された体は雛子の懐に入るが、
「――っ!」
と雛子は表情を曲げる。それはしまったと言う表情。
追撃は来ずに体は流されて再度相対する。
(――今のは)
考える、雛子の懐に入ったにもかかわらず攻撃が来なかったのは遠心を発揮出来ない射程だったからだろう。
つまり、と思うのは攻め方だ。
雛子の遠心攻撃は体の中心から一定の距離で攻撃力が最大になる。それよりも内側では攻撃力が落ち、それより外だと射程外。
内に入って連撃を重ねられるのなら、危険は一度だ。
「熟考?」
問う声と風。接近の風。
う、とひるむ瞬間に雛子の顔が目の前に来る。
一撃は遠心を用いない直突きだった。
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「雛子の腕は……」
長い、うみの腕と比較すれば拳二つ分以上は長いだろう。
「そうだな、アレは特注品。師匠の趣味だが義腕は刀工の名をつけたシリーズ名だ。うみのものは『長船』というシリーズ名。雛子の腕は長船の基礎フレームを使ったカスタマイズで『物干し竿』と言う」
古い技術の加護を願ってつけたとも、中二病を発症していたとも言われる師匠の名付け。
「有り体に言えば攻撃特化の腕だ、長く軽くしかし先端には重さをそして、しなりを持たせ遠心に反発を加算している。フレームが優れているので採用したが本来の『長船』とは逆の理念だ」
知っている、なぜなら長船は俺が企画書を出した物だ。フレームの組み方を変えて出力を増すように同時にその出力に耐えられるように瞬間圧力に対しての強度を上げた。が、それは余剰部分であり本来の目的は防御能力を上げる事。短く固く重く、防弾可能な骨組み素材撃たれても通さず、打たれても揺れず、と言うのをコンセプトにした。
けれど、……と谷は口を開く。
「相性としてはお前に不利だ、『物干し竿』は『長船』を砕くために作ったものだからな」
「遠心か」
「そうだ。重さ固さを投げ回すように使う、フレイルに近い使い方だな。脚部もそれを最大限生かすように作ったからな」
特注品、オートクチュール。
「……けれど、多分、うみは負けない」
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――がっ!
――つ、ばん!
音は耳が捉えた、立てたのは私の骨と床の擦れ。
ごろごろと床を転がされる。
「不審」
雛子の声が遠くする。
疑問なのだろう。先ほどの突きに対しては受けようとした私はその場で受けて肋骨に痛みを受けた。しかし今度は派手に吹き飛ばされて、しかし、すぐに復帰して立ち上がる。
「――浮身?」
疑問に解答を得たようで雛子は口にした。――そして、それが正解だ。描いた理想とは違うが半分は正解。止まろうと思う事で衝撃を受けるのではなくて、打たれた方向に吹き飛ばされることで衝撃を逃がす。
受けたのは腕だ。換装した腕は殆ど痛みを生じないが衝撃は脳を揺らしはした、視界に波のような物がある。
背中をうつ痛みも揺れる視界も、生きていると思える感覚だ。
「あはははは」
笑い、ざん! と雛子に対して半身で構える。
「無策」
雛子は言って跳ぶ。視界は雛子を捉えないが、
「――ちぇい!」
腕を振るうと反動が来る、命中を示す反動だ。
「――愕然」
声音には意味程の驚きは感じられない。が、表情には驚きが在る。当たらないと思っていたのだろう。だが、という言葉で雛子の驚きを否定する。
「あはははは」
当然だから。なぜなら、スピードを憶えたからだ。見えないということは居ないということではない。当たる場所にいれば当たる。
今の一撃は防がれた。攻撃を受けたときに攻撃力に転化していた雛子の腕の硬さは守るときにもその意味を発揮していた。
構えていた筈の腕を引き戻し防御した反応は驚くに値する、が。
振り回した腕はぎしんと痛んだ。骨格フレームが歪んだのだろう。右手を振ると、ぎしぎしと歪みの音がする。
――指は動かない。
が、振り回すには不足無し!
驚きの表情の儘で一歩引いて、そこから消える移動をする雛子。
けれど、あの動きは多分意識の隙を突いているだけ。此方の呼吸や瞬きなどからタイミングを読んで、だ。
だから、嗤う私の呼吸からは読みにくい様で消えると言うより掠れるに近い。
見える、それを、予測で補う。
――せっ!
振り回しで廻転。掠れて下から突き上げる軌道の雛子を墜とすように、左手を振り下ろす。
がつん!
腕に来る反動は岩を殴ったよう。
「――失敗?」
雛子は見上げる視線で問うてくる。攻撃は雛子の腕で止められている。その腕には動きの残滓がなく、恐らくはじめからその位置で構えていたのだろうと分かる。
失敗かと問うたのは、――移動法の失敗なのか、私の攻撃の失敗なのか。
しかし、防御の姿勢をはじめからしていた事から移動法の失敗ではないと思う。だったら。
けれど、上からの攻撃で姿勢の沈んだ雛子は速度は落ちて。
(――拙ぃ!)
速度が落ちた事に戦慄を覚えたのはその速度の低下が激しすぎたため。止めたと思った攻撃は――止まったのだ。踏み込みと停止で足から上がったエネルギーは慣性則で体を前に進めようとする自然に対し、技術として流れを変えた。
グリップの効いた足裏がねじりの動きで廻転を生む。
――ぞ。
と鳥肌の動きを感じる。
見えたのは背中。
ぶぅん、とうなりと共に腕が来た。
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