9、予感
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天井の高い円形の部屋。ジェルセル素材を埋め込みその上に発泡系素材でカバーした壁はスペック的には軽自動車の突撃程度では壊れないという話だ。
だが、今訓練室の奥の病室には。
「うみが……」
「いるよなぁ、あの扉の向こうにお前の娘が」
谷を睨んでも薄い笑みを返されるだけだ。
「――それで? それだけか、東?」
その言葉に画面を見ると、もう一つの物が見えた。
長髪の黒髪、銀のカチューシャ白い貫頭衣、裾は膝程でフレア。
「ひなこ?」
「あぁ、第二世代の最後の生き残り、機械親和性の高い遺伝子を持つ『ゲッツの娘』。俺がちょこちょこ手を加えてるからな、つい先日、後継で優秀なはずの第三世代二人を同時に相手にして打ち勝ったからな」
……どうやればそんな異常がまかり通る?
普通の人間であっても、一人で二人を相手にして勝つなど至難事だ。武器を持っても人間自体の性能は変わらない、ならばお互いに強い武器を持てば持つ程『数』が物を言う。
と思うのだが。
「話としては簡単だろう? 第三世代は義肢を武器として使えてない。雛子は使い方を心得ている。ただ、それだけの違いだ」
くふと、嗤う。
「どうして、そんな差異が?」
「ただ単純に慣れの問題だろうさ、第二世代で生き残ったが故に親和する時間が長く義肢と単純な腕の違いが分かってるんだよ」
そんなことを言われてしまえば、うみは。
「はん、お前の設計が完全なら。その問題はないさ」
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「あ……え?」
警報音は鳴り続けている。これはあーの言っていた襲撃なのだろう。どこに行けばいいのか。その疑問をまた思ったとき、背筋に凍るような感覚を覚えた。
「――あぁ」
赤い。
死が、
見える。
――あ、あぁぁぁあああああああ。
がくがくと体が震える、それは、名前を与えるならば『恐怖』なのだろう。直感している、この場所は死が濃い、と。
病室でもあり寝室でもある部屋。その隣の部屋に、
――何かが居る。
実物はみたことがないけれど、映像で、肉食動物の様々を見せられた、動きの見本としてだが。
その中で水辺の藪から飛び出し角の大きな草食動物の首に噛みついた黄と黒の獣。一撃で動きの基本となる場所であるという延髄を噛みつぶす、そうなると、草食動物は暴れる事も殆ど出来ない。
その映像を見たときに画面越しでも伝わった戦慄と同じ物を隣の部屋から感じる。
離れていても危険だという事が分かるだけの危険度。
けれど……。
――いぃぃっぃん。
特徴的な呼び出し音は何度か聞いた事があるもので他の部屋からの通信の際に鳴る音だ。
「えと、……」
使い方を思い出して、取る。
『はろー、うみちゃん』
「だ、だれですか?」
『俺、俺』
「わかりません。非常事態みたいですからふざけてるなら切りますよ?」
そう言ったところで向こうの空気が冷えた。
『んだよ、東に似てかわいげのないガキだなおい』
……その口調から通信の向こうが誰かが分かる。
「谷……さんですか?」
『そうですよぅ、谷さんですよ。ふふ』
嫌な感じに笑う。
「今の非常事態は……」
『あぁ、東から聞いてるだろう? 侵入者だよ』
「……そうですか」
あーから聞いたという部分を否定するべきなのか、肯定するべきなのか分からなかったので保留した。
『悪い事を教えてやろう』
「え?」
嫌な予感。しかし、聞きたくないけれど聞かない方が悪くなるとそう思う。
『君の大事な東君を預かっている、無事に返して欲しければ東君の研究室まで来たまえよ』
「え……?」
『多分真っ当にはたどり着けないだろうけれど、妨害を乗り越えてきてくれたらいいよ』
そう言って通話が切れた。
「え……」
切れる前の瞬間、通話の後ろから声が聞こえた様な気がする。その声はあーの声で、来るな、と叫んだ気がする。
「……と」
どうしたらいいのだろうか、ともかく大事なのは。
あーの研究室。
行き着くには訓練室を通って廊下を渡り実験室を抜けて研究室に着く。
「――、う」
行かなければと思って、けれど、扉に手をかけるとぞくりとしたものが走る。
「――!」
けれど、開く。
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