ひとくちちょうだい、と言われていたのを見てた女
よくひとくちちょうだいと言ってくる女がいる。
同じゼミだとか、とっている授業が同じだとかそういうことはない。
仲がいい、ということもない。
でもお菓子を食べている時や、飲み物を飲んでいる時、学食でご飯を食べている時にやってくるのである。
「ひとくちちょうだい」と言ってやってくるのである。まるで私とあなたは仲がいいからくれるよね?という声が聞こえそうな表情で。
最初はひとくちくらいなら、と思っていた。だけど、何度も何度も回数を重ねて行くと不満がたまっていった。
そんな私の不満をなんとなく察知しているのか、彼女は次第に「ひとくちちょうだい」と承諾をもらうとすぐとっていくようになった。
他の人には「いいよ」と言われてからもらっているのを見てしまったことから、人を選んで計画的に行っているんだということを確信している。
いやだ、と拒否しても「ケチケチしないで!」「全部食べたら太るよ?」なんて言ってくる。
くれっていうそっちの方がケチでしょ、ひとくちあげたからって私が痩せるわけじゃないし。なんて思ったし、いってやろうとした。
なんでやらなかったのか。それはひとくちちょうだい女に、ひとくちちょうだいしたやつが出てきたからだ。
そう、学食で「ひとくちちょうだい」とあの女に言った子がいる。
同じゼミの子だ。おとなしくていい子だ。だからあの女に「ひとくちちょうだい」って言われそうな子だとも思っていた。
その子があの女に「ひとくちちょうだい」と言ったのだ。私たち他のゼミ生もいるテーブルで。
その時ゼミの集まりが昼前におわったから流れでみんな一緒に学食に来ていたのだ。あの『ひとくちちょうだい女』はその中にやってきた。自分で食べるカレーをもって。
ひとくち被害に遭っている何人かが露骨にイヤそうな顔をした。しかし、当の本人はどこ吹く風である。
「わー!このメンツでいるの珍しいね!」
だからなんだよ。昼飯あさりにきたのか?と口に出さなかった自分を褒めてやりたい。
「あ、その鯖の味噌煮美味しそう!」
何か言われる前に鯖の味噌煮を持っていった。なんて早業。と感心してはいけない。なんの返答も聞かずに人のご飯をさらっていく姿に引いた。いや「おいしー!」じゃないのよ。いやすごいな、どこぞの達人かと思ってしまうほどの早業でもっていった他人のご飯を味わって食べれるのか。
ドン引きしていた時だった。
「ひとくちちょうだい」
とあの子ははっきり口にしたのだ。はじめ、ひとくちちょうだい女は自分に言われているとは思わなかったようだった。しかし、あの子がひとくちちょうだい女をしっかり見て言っているから自分に言っているのだとワンテンポ遅れて自覚したようだった。
「これ一番安いやつだよ?」
いや、みんな知ってるよ。安くて量が多くて美味しいっていうので人気のカレー。でも、まず「ひとくちちょうだい」って言われて言うことが「これ一番安いやつ」って。なんか自分は他人から高いものを「ひとくちちょうだい」してるって言っているように感じた。自分の気にしすぎだと思いたい。
「うん、でも量が多くて全部は食べられなくて注文できなくて。ひとくちでいいからさ」
確かにあの子は食が細い方だ。今だって杏仁豆腐をちまちま食べているだけだ。でもひとくちちょうだい女はどうもひとくちとはいえカレーをあげるのがいやなようだ。でも周りの目があるから「イヤだ」とは言えないようだった。よし、ここは一肌脱がねば。
「そうだよ、ひとくちくらいいいじゃん」
「そうそう、たったひとくちじゃん」
おっと、私だけかと思えばもう一人言ってくれた。ああ、あなたこのまえパスタ持っていかれたね。
「ひとくちもくれないなんてケチじゃん」
「しかもそれ量が多いカレーでしょ、ひとくちくらいいいじゃん」
ケチ、ひとくちくらいいいじゃん。いつもあんたが言ってる言葉。でも、その表情を見ていると自分が言っていることをそのまま言われているということに気づいてはいないようだった。あんなに言っていたのに他人に言われるとわからなくなるものなんだろうか。
私とパスタ取られた子にそう言われてようやく、渋々、仕方ないな。という体でカレーを差し出してきた。
するとひとくちちょうだいと言った同じゼミの子は杏仁豆腐についていたデザート用のスプーンいっぱいにカレーをとった。
「え!そんなに取らないでよ!!」
そんなこと言ってもデザート用の小さいスプーンだ。カレー用の大きいスプーンでとったわけではない。
「そう?ひとくち分ってこれくらいじゃない?」
側から見ててもそう思う。
「前に私がプリンをひとくちあげた時、スプーンいっぱいにとっていったからひとくちってそれくらいなんだと思ってたんだけど違った?」
おっと、あの子も大分鬱憤が溜まっていたんだ。わかるよ、その気持ち。
「しんじらんない!!」
ひとくちちょうだい女にはこの気持ちは伝わらなかったようだった。
あの女は自分がさも被害者かのようにしてカレーを持って違う席に去っていった。
あー、スッキリした!!
そう思ったのはパスタをもっていかれた子と他のひとくち被害者も同じだったようで私たちはひっそり笑った。
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