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ひとくちちょうだい、と言った女


 大学でよく「ひとくちちょうだい」といってひとくちもらっている子がいる。


 彼女は「ひとくちちょうだい」と言って人の食べかけをもらっても抵抗がない人なんだということがわかった。


 だから私は彼女に「ひとくちちょうだい」と言った。


 すると彼女は驚いた顔をした。


 え、ひとくちくらいいいじゃないかと思ったら彼女は言った。


 「これ、一番安いやつだよ?」


 何を言っているんだろうか、私だってこの学食を使っているからそれくらい知ってる。


「うん、でも量が多くて全部は食べられなくて注文できなくて。ひとくちでいいからさ」


 たったひとくち。と思ったが彼女はなかなか首をたてにふってはくれなかった。彼女はいつも人に「ひとくちちょうだい」と言っているから抵抗なくくれる人だと思ったのだけれど違ったのだろうか。でも、私が口をつけたものも「ひとくちちょうだい」と言ってもらっていったからそれも違うか。


「そうだよ、ひとくちくらいいいじゃん」

「そうそう、たったひとくちじゃん」


 声をかけたのは同じテーブルにいた同じゼミの子達だった。


「ひとくちもくれないなんてケチじゃん」

「しかもそれ量が多いカレーでしょ、ひとくちくらいいいじゃん」


 二人の言葉を聞いて、渋々カレーを渡してくれた。


 私は食べていた杏仁豆腐に使っていたデザート用のスプーンでいっぱいにカレーをとった。


「え!そんなに取らないでよ!!」


「そう?ひとくち分ってこれくらいじゃない?」


 彼女は信じられないものを見るような目で私を見た。


「前に私がプリンをひとくちあげた時、スプーンいっぱいにとっていったからひとくちってこれくらいなんだと思ってたんだけど違った?」

 まだ彼女はよくわかっていないような顔をした。なんでだろうか、プリンをあげてまだ三日も経っていないのに。もしかしてその前コーヒーゼリーやフライドポテト、チョコレートをひとくちちょうだいと言って食べたのも忘れてしまったのだろうか。


「しんじらんない!!」


 そう言って彼女は食べかけのカレーを持って違う席に移動した。


 彼女と同じことをしただけだったのにどうも気にさわってしまったらしい。ひとくちもらうのはよくてもあげるのはイヤだったみたいだ。

 大学ではこれ以来特に話すことも絡むこともなかった。そんなにイヤだったのか。


 彼女から「ひとくちちょうだい」と言われないだけでこんなにストレスフリーになるのかと実感し、私は自分が思っていた以上に彼女のことが苦手なのだとこの時実感した。






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