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短編集『何かの話』+α  作者: 結城コウ
19/26

『DARKGREY』

これは当時いじめを題材に書いた短編です。

話シリーズとは異なりますが、一応、短編としてこのくくりに入れておきます

この世界は薄汚れていた


灰色がかっていて


僕をいつも苦しめる


そんな事を思いながら


僕は彼らの理不尽な暴力を受けていた


…痛みはある


でも、その事で感情が揺らぐ事は無い程に


僕の感覚は麻痺していた


下衆た笑みを浮かべながら、

彼らは僕を殴り続けた


彼らは気付いていないだろう

僕を殺す気はなくとも

このまま、殴り続ければ、僕が死ぬ事を


そして、そうなった時

彼らは自らで自身の人生を破滅に追い込んだ事を

その時になって気付くんだろう


冷めた頭で僕は


自分が死ぬ事が前提の話を考えていた


別にこんな灰色がかった世界に未練なんてない


僕が死ぬ事で彼らに報復出来るなら、

僕は喜んで命を差し出そう


…しかし


思ったより、僕の体は丈夫に出来ていたらしい



気が付くと、僕はその場で倒れていた


学校の屋上だ


どうやら、気を失っていたらしい


-ゴボッ-


僕は吐血した


どうやら、内臓が目茶苦茶になっているらしい


でも、まだ死なない


過去の経験から判る


(……足りないか、今日も)


僕は自分が死んでいない事に落胆に似た感情を抱いた



いつか、この屋上から飛び降りてやろうか


そう思った事もある


でも、自殺より


彼らに殺されるほうが


彼らにより重い罪を背負わす事が出来る


だから、自分から死のうとはしなかった



…命は何よりも重いと言う


なのに、失いやすい


だから、彼らは僕の命を軽んじ


僕はただ、彼らになぶり殺される日を待つ事になった


もちろん、学校や親に訴えた


でも、学校側の態度は保身を守る事しか頭に無い姿勢がまる見えだったし


親は親で、僕が話をしようとしても

まともに聞こうとせず

こうなったら、不登校になろうとしても

ただ、学校に行け、と

理由を聞き出す事もなく無理矢理放り出され、

サボろう物なら家に入れないと言う始末だった

しまいに僕のほうが嫌気がさして諦めた


その日も"死にそびれた"僕は下駄箱で靴に履きかえ、

家に帰る事にした


殴られた日は靴をどうこうされない事は救いだった


靴を履き、


帰ろうとした時だった



「あ、あの…灰谷君ですか?」


僕に話しかけて来たのは違うクラスの女子だった


『…そう……だけど…』


僕がそう答えると彼女は


「あ、あの…私と……」


語尾が小さくて聞き取りづらい


『え?』

と、僕が聞き返すと


彼女は

「私と付き合って下さい…!!」

と、声を搾り出した


『………』


僕は目を丸くした


「…灰谷…君?」


『……なんだ?

ドッキリかなんかか?』


「ち…違います!

私は…その…灰谷君が…」


『…嘘を言うなよ

なんで、僕なんか…』


「そんな…灰谷君は…」


『………まぁ、いいさ

好きにしてくれ』


「え、それって…」


僕は答えずに


そのまま校舎を出た


(…どうだっていいさ

どうだって…な)







翌日


彼らに弁当を目茶苦茶にされたものだから


どうやら、今日は昼飯は無しになるだろう


そう思っていたら



「灰谷君、一緒にお弁当食べましょう」


『………』


廊下に出た瞬間の出来事だった


『あー…えっと…』


「灰谷君は好きにしろって言いましたよね?

だから、好きにする事にしました」


『はぁ…』


なんだか、間の抜けた返事しか出来ていない


「……あ、私ったら

まだ、まだ名前も名乗ってなかったですね

私は…」


『鈴原…さん…ね』


僕は彼女の弁当の包みに書かれていた名前を指差して言った


「…はい!」


弁当は二人分あった


どうやら、彼女の手作りらしい


何故、彼女が僕に好意を寄せているのかわからない


僕は多少の嘘を見抜く自信はあるが、


彼女が嘘をついているようには思えない


ただ、


それから毎日、彼女と昼食を取る事になった


一緒に登校する事も下校する事もなく、


休みに遊びに行く事もなく、


ただ、共に昼食を食べるだけの関係


それで、彼女に利益があるとは思えなかった


一体、何故、彼女がそんな行為をするのか


ただ、純粋に僕への好意がそうさせているとは思えなかった


そして、どうやらその予想は的中したようだった


偶然、鈴原が彼女のクラスメートと話している話を聞いてしまった





「…で、鈴原

灰谷君とは…どうなの?」



僕は階段の角にいた


あちら側から死角


僕の名前が聞こえたから、

僕は角を曲がらず

そのまま聞き耳をたてた


「……はい

…上手く…言ってると…」


「ふぅん…そうなんだぁ…

……じゃあ、私達に感謝してくれないと、ね」


「え…ええ…してますよ…」



(どう言う意味だ…?)



「私達がアンタに

"しろ"なんて言わなきゃアンタの性格じゃあ…無理だったものね」


(………)


「……は、はい……」


「でも、まさか

本当に告白するとは思わなかったわね

……じゃあ、別れなさい」


僕はその瞬間

振り向いて来た道を戻った



僕は理解した


彼女は彼女の意志で僕に告白したんじゃなく、


周りに無理矢理させられたに過ぎない事を



ただ、昼飯を作ってもらい

一緒に食べるだけの関係


でも、そんな関係でも


…いや、そんな関係だったからこそ


それは偽りだった




結局は…


全て偽りなのだ


僕を繋ぐ


関係など



僕は全てが煩わしくなり

久しぶりに学校をサボった











気がつくと日は沈んでいた


僕は歩道で突っ立っていた


何故、僕はこんな場所で立ち尽くしているのだろう?

と、思うと


「灰谷ぃ」


と、呼ぶ声が聞こえた


ああ、僕はこの声を聞いて

放心状態から我に帰った訳か


そう思い振り向いた


彼らだった


「灰谷く〜ん

今日はサボっちゃって…

不良さんの仲間入りかい〜?」



下品な笑い声が聞こえる


素でこれだとしたら、馬鹿にしか見えないし

ポーズだとしたら、大根役者に他ならない




僕は溜め息をついた


(今日は殺してくれるか…?

………ああ、そうか

なんで今まで気付かなかったんだ)


『…五月蝿いなぁ…黙れよ』



アァ?

と、お決まりの台詞が聞こえる



『黙れって言ってんの

わからないのか?

脳みそ、腐り過ぎて発酵してんじゃないの?』



安い挑発に彼らは乗ったらしい


「ぶっ殺してやる!!」


誰かが言った



『上等だ』


全くの本心だった




僕は気付いた

彼らの怒りを煽ってやれば

彼らのリミッターが外れる事を



こんなもんじゃ足りないと思い


僕はすぐそこのビル工事現場に逃げ込んだ


案の定、追ってきた



中には僕ら以外誰もいない


彼らが人目を気にする事もないだろう



僕は転がっていたパイプ(箱に入った状態で放置されていた中の一つ)を拾い


走り抜け物影に隠れた


彼らは僕を見失い探し回る


彼らが僕のすぐ傍まで来た瞬間


僕は飛び出した


殺さないように、と思い


僕はパイプを一人の脇腹目掛けて振り抜いた


-ベキッ-


何かが潰れる感覚がした


恐らく、肋骨の何本かはイッたのだろう


彼はそのまま、悶絶し、倒れた


僕の奇襲に彼らはア然としていた


(一人じゃ足りないのか?)


僕はそう思い


再び闇に紛れこんだ


「くっ…灰谷ぃいッ!!」


一人だけ、反応し追って来た



僕は一人じゃ(僕を殺すのは)無理だと思い


今度はパイプで口元狙った


一撃だった


彼の歯は何本も折れ


口は血だらけになり


戦意は喪失したようだ


僕は、角を曲がり


再び彼らの元へ一直線


動揺している彼らの背後を取ると


一人の足にパイプを叩き込み


その流れで前の奴の肩に叩きつけ、体勢を崩したところに背に一閃


前へと走り抜けると


キレて追って来た奴の足をパイプで振り払うと


前に倒れた奴の鼻っ柱に膝を叩きこんだ


気がつくと


残り三人




僕はその事実を知ると


愕然とした



(少なすぎる)


そう、思い


僕は血の昇った頭でゆらゆらと彼らにゆっくり近づいていく


「う、うわぁああッ!」


突っ込んできた一人は


パイプの一降りで、顎を叩き割った


残り二人


(…二人…だとぉッ!?)

僕は急に加速すると


一人の腹にパイプを突き付けた


「ぐぇ…」


なんて間抜けな声を出している間に


もう一人の鼻に肘鉄を浴びせ


足をパイプで砕いてやった


後は、先程パイプを突き付けた相手だけ


彼の顔面は蒼白になっていた


「は…灰た…」


『黙れ』


僕は彼の膝をパイプですくった



彼は不様に倒れ


その腹を足で押さえ付けてパイプの先を彼のこめかみに突き付けた



なんて事だろう


僕は今まで


武器を持ってるとは言え、たった一人の相手に多数でありながら敗れるような奴らに殴られ続けていたのか


…もう…いいや


『殺すか…』


僕はボソリと言った


そして、パイプを振り上げ…


脳天目掛けて、振り下ろした


…刹那、鈴原の顔が浮かんだ


『ッ……』


僕はパイプを彼の顔のすぐ横に振り下ろした


「ひっ……」


『…黙れって言ってるだろ』


僕は彼の脇腹に一発蹴りを入れて


パイプを放り


『…何だって…クソッ…』


その場を後にした











翌日、彼らは学校を休んだ


警察沙汰にはならなかった


彼らが訴えなかったから


そりゃ、そうだろう


元は自分らのイジメなのだ


その結果として


一人に大勢で負けた


そんな事をプライドだけは高い彼らが言うはずがない




そして、その噂は学校中に広がっていた


僕に向けられる周囲感情は見下しから畏れへと変化していた


そんな中



「灰谷君、お昼一緒に食べましょう」


『………』


何故か、鈴原だけは変わらなかった







-屋上-


『……鈴原』


「はい?」


『……僕と別れるんじゃなかったのか?』


「え……

わ、私はそんな事…」


『…聞いたよ、昨日

廊下で話していたのを』


「!!!」


『…ふぅ…

素直に言ったらどうだい?

僕の事なんて好きでもなんでもないって』


「…ち…違います!!」


『違うって…?』


「私は…最初から灰谷君が好きでした!」


『え……?』


「…それを知ったあの人達は…私に無理矢理…

…でも!

私は灰谷の事は本当に…

本当に好き!」


『鈴…原……

な、なら、昨日の事はなんなんだ…!』


「…灰谷君

私は…虐められてます」


『………』


(ああ…そうか…この娘は…僕と同じ…)


「でも…でも

やって灰谷君に気持ちを伝えたのに…今更…そんな事って…

灰谷君は…このグレーみたいな世界から私を救ってくれたのに!」


『…鈴原…

…だったら…一緒に行こう』


僕は鈴原の手を取った


「灰谷…君…?」


『僕とそいつらのところに

一緒に…決着をつけに行こう

そして、この灰色みたいな世界から抜け出そう』


「…灰谷君…

…はい!」


『よし、決まりだ』


「…でも、その前にいいですか?

灰谷君」


『何だい?』


「…今度から…

もっと、恋人みたいにして下さい」


僕は一瞬沈黙すると


『…もちろん』


と微笑みながら答えた







-END-


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