少女と男の話
男は何をする訳でもなく
その場にたたずんでいた
ただ、時々空を仰ぎ
その度に溜息を漏らす
季節は変わりめ、移りめといったところで
暑くもあり、寒くもあり、暖かくもあり、涼しくもあった
しかし、男は余程寒いのか
コートを羽織り、マフラーを巻き、ニットをかぶり、手袋をはめ
なのに、震えるような仕草をした
男に一人の少女が近寄ってきた
男とは対象的で
白いワンピースだけを着用し
防寒具と言えるものは何もなかった
少女はほんの気まぐれで自分とは対象的な男に興味を持ち
その気まぐれで話しかけた
『こんにちは』
「ああ…こんにちは」
『一つ聞いていいですか?』
「なんだい?」
『お兄さんは泣いているのですか?』
男は一瞬言葉につまった
てっきり自分とは対象的な格好について何か指摘されるのだと思ったからだ
『………そうだね
君がそう見えるのなら…きっとそうなのかもしれない』
しかし、男は涙など流してはいなかった
「なら、何故泣いているのですか?」
『…さぁ…僕にはわからないなぁ…
きっと、君のほうがわかるんじゃないのかな?』
少女は一考して
今度は別の質問を投げ掛けた
「…お兄さんにとって、幸せって何ですか?」
男は答えに詰まった
それは少女の質問が唐突で抽象的だったからじゃない
わからなかったからだ
「………さぁ?
いつの間にか見失っていたよ」
『そうですか…』
少女は一瞬、空を仰ぐような仕草をすると
男にこい別れを告げた
『…それじゃあ、お兄さん
私はこれで
またいつか逢いましょう』
「…うん
また、いつか…」
少女は去っていくと
男は再び
空を仰ぎ
震えるような仕草をした
…少女と男が再び逢う事はなかった