表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/10

⑦ 二十年前の真実


 卒業パーティー、壇上に立つ王太子、王太子に寄り添うピンク色の髪をした愛らしい少女、黒い髪に黒い瞳をした悪役令嬢……

 二十年前の王太子と侯爵令嬢の婚約破棄騒動と全く同じシチュエーション・・・

 

 そうです。

 私達はあの有名なお芝居と同じ設定の状況を見せられたので、今回も同じような話の展開になるのだろうと、無意識に思い込んでしまったのです。

 

 ピンク髪の転入生と浮気していた王太子殿下が、彼女を新たな婚約者にするために、幼い頃からの婚約者を貶めて婚約破棄するのだと……

 

 先ほどエリス嬢が私の失敗談を面白おかしく話していたのも、それは別に私を馬鹿にしたり、私を貶めるつもりではなかったようです。

 

 なんでも市井においては熱愛カップルをネタにして盛り上がるのが普通なんだそうです。

 特に女の子のかわいい失敗談を暴露するのが一番人気なんだとか……

 ドジっ子の恋人を必死に守る彼氏という話が胸キュンするのだそうです。

 いまいち私にはよくわかりませんでしたが・・・

 

 エリス嬢が『貴女は王太子の婚約者には相応しくない』と私を断罪?いや馬鹿にしようとしているのではないか……そう思ったのは勘違いだったのです。

 

 実際の王太子殿下は私を北の隣国で治療を受けさせるために、一時的に婚約を解消すると告げただけだったのに。

 そしてその後で、ご自分が卒業した後を引き継ぐ新しい生徒会長を紹介しようとしていただけだったのに……。

 

 王太子殿下はこの卒業パーティー会場にいる者達全員に、意図的に誤解をさせるように仕組んだのです。

 恐らく国王陛下や兄もご存知だったのでしょう。

 そうでなければ卒業式ならともかく、卒業パーティーにまで王族の方々がいらっしゃることはまずないでしょうから。いくらご子息や妹が卒業するからといって。

 

「ルーリックは掟破りなどしていないから、廃嫡する必要なんてないよね? 

 それなのにレイモンドを王太子にしようとするなんて、君は一体どういうつもりだい?

 寧ろ、レイモンドの方がルーリックよりも色々とやらかしているみたいだけれど?」

 

 国王陛下が側妃と自分の二番目の息子を見つめながら言いました。

 すると側妃は、自分が思わず口に出してしまった事の重大さにようやく気付いて震え出しました。

 

「お許しください。

 私は二十年前に自分が断罪された事を思い出し、その恐怖でおかしくなっていたのです」


「陛下。確かに妹の発言は大罪です。

 しかし、どうか御慈悲を与えて下さい。元はと言えば貴方が昔、妹を冤罪で陥れた事がトラウマになっているのですから」

 

 ベルウルブズ侯爵である父がガタガタと震える妹を支えるように抱き締めながらこう発言すると、父の隣にいた兄がそれに反論しました。

 

「それは違いますよ、父上。

 二十年前の婚約破棄騒動は叔母上の冤罪などではありません。

 巷で知られているあの小説や芝居の通りなのですよ。


 陛下が学園の学生だった当時、叔母上は陛下と同じ生徒会役員だった王妃殿下に散々嫌がらせをしていたんです。

 それは妃殿下が平民でありながら叔母上よりも上位の成績をとり、周りの友人達からも慕われていた事を妬んでいたからです。


 しかも叔母上は王妃殿下だけでなく他の平民の生徒達を苛めていました。

 その中には学園を追い出されたり、恋人との仲を引き裂かれたり、やってもいない犯罪の賠償を請求されたりして家を破産させられた者達もいます。

 叔母上はかなり歪んだ選民意識の持ち主ですからね。


 王妃殿下は自分のことではなく、そういった困っている友人を助けたくて陛下にご相談していただけで、お二人は浮気をしていた訳ではなかった。

 しかし当時の学園の生徒達の多くが、叔母上には絶対に将来国母になって欲しくないと思ったんですよ。そのために、陛下と叔母上の婚約を破棄させたかった。


 だからみんなで噂を流したんです。叔母上は悪役令嬢だと。あの噂は嘘ではなく真実だったのです。

 しかし、噂というものは勝手に面白く話が作られていくものらしく、いつの間にか、この悪役令嬢の噂が王太子殿下と平民の美しい娘の真実の愛を邪魔する存在なのだ!という話になってしまったのです。

 人は恋愛話が好きですからね」

 

「レイチェルが苛めをしていただと? あの悪役令嬢の話は本当だというのか? そんな馬鹿なことがある訳ないだろう!」

 

「叔母上が悪役令嬢だったと信じていないのはベルウルブズ一族だけですよ、父上」

 

「なんだと!」

 

「僕やエディーナは幼い頃から叔母上の本性に気付いていましたよ。

 それなのに貴方は妻や娘がご自分の妹に虐げられていても全く気付かなかった。それでよく一国の宰相なんかやってこられましたね」

 

「・・・・・・・」

 

 父が絶句しました。

 父と叔母も私達兄妹のように早くに母親を亡くしたので、二人手を取り合って生きてきたのでしょう。

 しかし父は妹をただ甘やかし、好き放題にさせました。お妃教育で大変なのだからと。

 娘の私に厳しかったのは、多少なりと妹の扱いに失敗したという思いが無意識にあったのかも知れません。私としては不条理に感じますが。

 それを知っていた兄は同じ轍を踏まないように、私には優しく、それでいて時に厳しく接してくれていたわけです。

 

「嘘よ、そんなの。私は悪役令嬢なんかじゃないわ。

 あんな小説はデマを勝手に膨らませて作ったフィクションよ!」

 

 叔母は兄の言葉をまだ認めずにこう言い張りました。

 すると、壇上にコールリッジ先生が登場してこう言いました。

 

「いいえ、あの小説は恋愛話以外は全て真実です。

 何故なら自分達の目の前で繰り広げられた出来事を、私が生徒会のメンバーと共に書き上げたのですから」

 

「「「えっ?」」」

 

 叔母や父だけでなく、この場にいるパーティーの参加者全員が、コールリッジ先生の思いもかけない暴露話にあ然となった。

 

「何故そんなことをしたのかといえば、先程グレアム卿がおっしゃった通り、レイチェル嬢を将来の王妃、国母になんかさせたくなかったからですわ。

 しかしその為にフランク様(現国王)とメアリード様(現王妃)に多大なご迷惑をおかけしたこと、心から申し訳なく思っております。

 まさかあの悪役令嬢の話から婚約破棄の断罪劇になるなどとは思ってもおりませんでした。

 ですから国家転覆罪で罰して欲しいと願い出ましたが、フランク様はなんと私を見逃して下さいました。

 私はその温情に感謝し、教師として若者達の選民意識をなくせるように、皆平等に学べる環境を作りたいと邁進してまいりました。

 しかし残念なことに、レイチェル嬢憎さで、グレアム卿やエディーナ嬢を偏見の目で見てしまうという過ちを犯しかけ、ルーリック様にお叱りを受けたこともございますが……」

 

 コールリッジ先生はかつての生徒会メンバーである国王陛下と王妃殿下に深々と頭を下げた。

 するとお二人はにっこりと微笑まれた。そして王妃殿下がこうおっしゃいました。


「気にしないで、フレイヤ。

 確かにいきなり卒業式のダンスパーティーで陛下の恋人にされた時には仰天し、逃げ道を塞がれた時には落ち込んだけれど、今では私達は本当の夫婦になっていますから。

 これって『瓢箪から駒』『嘘から出た真』っていうのかしら? 

 元々陛下を嫌っていたわけじゃなかったし」

 

「私は君を以前から好ましい女性だと思っていたよ。君は同級生の中で誰よりも美しかったからね。

 だから君には申し訳なかったが、レイチェルと婚約破棄した後でもし廃嫡になって平民になった時には、君に側にいて欲しいと思ったんだ。

 まさかあの状況で王太子のままでいられるとは思っていなかったしね」

 

 国王陛下が王妃殿下を見つめてこう惚気られました。

 陛下は国のためを考えて廃嫡覚悟であの茶番劇をしたようです。

 たしかにあの当時我がベルウルブズ侯爵家の父は相当でしたから、ああでもしないと王妃の座から引きずり落とせなかったのでしょう。

 まあ、結局叔母を側妃として迎えざるを得なくなってしまいましたが……本当にお気の毒でした。

 

 

 その話を聞いた叔母は鬼のような形相で叫びました。

 

「誰よりも美しかったですって?

 学園時代のその女はいつもみすぼらしい格好をした惨めな女だったじゃない。

 顔だって私と違って平凡でパッとしなかったわ」

 

「へぇー、君にはメアリードがパッとしない女性に見えたんだ!

 いつも勉学に燃え、友人の為に親身に相談に乗り、どうにかして助けようと走り回っていた彼女の姿はとても眩しく輝いていたのにね」

 

 叔母が絶句した。叔母と陛下の美の基準が違うのだからどこまでいってもわかりあえないだろう。

 まあ、いくら容姿が整っていようとも、叔母を美しいと思える人の方は少数派だろうが… 

 

 シンプルなドレスに身を包んだ王妃殿下は、今も聖母様のように眩い輝きを放ち、周りの者達に幸福感を与えています。

 それに比べて今の叔母は贅沢なドレスと装飾品を身に着けてはいますが、醜悪そのものでした。

 父もようやく妹の本性に気が付いたのでしょう。

 抱き締めていた妹から身を離し、まるで汚物でも見るかのような目で彼女を見下ろしていました。

 読んで下さってありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ