06話 役得
俺の身体はあっという間にというよりも驚異的なスピードで治った。
医者に言わせれば全治1カ月がたったの2週間で回復することなど有り得ないそうだ。日本での俺は特別治りが早いなんてことはなかったし、これも一連の事態の影響なのかと思ってしまった。
そして俺は退院して本間将太と本間きいなのマンションにやって来た。
2LDKの間取りで整理されたリビングにソファーがある夫婦二人にピッタリの空間だった。
(まあ俺素人童貞だから夫婦にピッタリとか分からないんですけどね)
そして寝室も覗いてみたが当然のように大きなベッドが一つだけだった。
「将太ったら身体が治って早々そんなことばっかり考えてるんだから……」
きいながベッドを見る俺に対してそんなことを言ってきたが。
「ち……違うだそんなこと断じて考えてないからな」
「考えてくれていないの?」
きいなが潤んだ瞳で訴えかけきた。
「ともかく記憶が戻って落ち着いてからね?」
なんとかきいなは収まってくれたが、もし今度あの潤んだ瞳で訴えかけられたら彼女を押し倒しまうだろう。
(本間将太さん万が一起きたら哀れな素人童貞を許してください……)
夜はなんとか彼女を説得して俺は別室で寝ることになったが、役得ってあってもいいんじゃないかと常に心の中で悪魔が俺に語りかけてくる。
きいなと今後のことについて相談していた。
警察官としては休職し個人的に厄災について調べてみたいと彼女に伝えたのだ。
当然きいなからはゆっくり休んで記憶を戻して欲しいと言われたが、厄災について調べることが記憶の回復に繋がるかもしれないと押しのけた。
そもそも俺は加藤将太であり本間将太とは一切関係がないから、この家にいるべきではないのだがどうやら俺と入れ替わりで本間将太自体もいなくなっているようだ。
彼女を騙しているので罪悪感しかないが、何かここですべきことがあるんじゃないかと勝手な理由だが俺自身を無理矢理納得させている。
「厄災について何も手掛かりがないんだよなぁ。きいなは厄災ついてどれだけ知ってる?」
「私も厄災なんて全然聞いたことないな。力になれなくてごめんなさい。でも美樹に聞いてみたら力になってくれるんじゃない」
美樹とは将太ときいなの大学時代の親友であり、現在は仙台新聞の記者として働いているそうだ。
(確かに新聞記者なら何か情報を持っているかもしれないな)
現在親友の美樹こと鈴木美樹は同じく親友である須藤恵美と結婚して一生に暮らしているようだ。いわゆる同性結婚で女性同士のパートナー関係らしい。
俺のいた日本でも最近何かと言われているがこの国で同性結婚というのは当たり前らしい。
お互いのい苗字が違うのも夫婦別姓が当然のように認められているそうだ。
きいなが将太と同じ苗字なのは彼女が将太のことが好き過ぎて一緒にしたかったらしい。
(もうお腹いっぱいですね……)
「じゃあ今度美樹と恵美を呼んで将太の回復お祝いパーティーだね」
そうして彼女達をマンションに招待することになった。