- 新人作家のシリーズものについて - 1
「迷ったときには、基本に返る……」
広げたノートを目の前にして、頬杖をついた。
「軸になるのは、オッドアイの青年、もしくは女性。それか性別不詳……読者まかせっていうのもありかな……」
別の年代にするなら生まれ変わりにするか、いっそのこと不老設定?
「職業……っていうか稼業? 人知れずに請け負っている闇の仕事的なもの? それとも代々続いている陰陽師一族的なもの? どっちもありだな~」
どっちの設定でも協力者というか、陰から支える人とかいるといいかな……。
「そうすると桜の木の役割は……護る? 番をする? あ、門番! 異世界……よりは和風にして……あの世だ! こっち側の入り口を護る門番の役割を持つ古木が全国に植わっていて、それを人知れずに管理している家の当主と補佐する影衆!」
カリカリと思いついたことを新たに書き込んでいく。
わたしは白石真紀。ピチピチ、ではないが女子大生である。
思わぬ幸運で作家の末席についてから、一年余りたった。
(あ、一応ペンネームで出版されています)
あれから、単発作品を二冊出版し、次作のプロットを携えて編集者との打ち合わせ場所に行ったのだが……。
「これはこれで面白いので、このまま進めてください。それとは別に、そろそろシリーズものを書いていってもいいと思うんですよ。できればあのデビュー作の世界観を書いてみてください」
あの作品結構人気あるんですよ~。シリーズ化になったら益々いいですよ~。是非是非お願いしますよ~、私もあのイケメン好きなんですよ~、と猛プッシュされてしまった。
完全オリジナルではないが、わたし自身もあの作品は続きが書けるなあ、いずれ書いてみたなあと思っていたので、二つ返事で引き受けて帰ってきたのだが……。
「ああー、やっぱりなんか違~う」
ポキッと芯が折れたシャーペンを放り出すと、考えを放棄してぼすっとベッドに横たわった。
天井をぼんやりと見つめながら、デビュー作を持ってひいおばあちゃんが眠るお寺に行ったときにすれ違った女性を思い出す。
まるで啓介の生まれ変わりのような容姿、砂のように消えていった不思議な色の桜の枝――そして現れた手紙と啓介のみが消去された過去の写真。
あの日の出来事は、作家の妄想力をかきたてる要素がいっぱいだった。実際あの直後に、続編のようなものを書いてみたりもした。
でもなんか――ボタンを掛け違えたかのように、しっくりこなかったため、途中で断念してしまったのだ。
新人賞をもらって、二作目を続編にしてみませんかとも言われたのだが、他にも書いてみたい話もあって(一応見せたプロットも気に入ってくれたので)、一旦保留ということにしてもらったのだった。
「どうしようかなー」
もう一度、あの女性に会ってみたいなー。会えたら閃くかな~。
眠気が徐々に増してくるなか、ふとそう思った。