☆最終話 走馬灯 ※挿絵有
~????・命の境界
静かだった。
眼前に見えるのは黒。
暑くも寒くもない。
無味無臭な空気。
五感がないように感じる。
そうか俺は死んだのか。
それから何分か経った気がする。
何も感じない。
体を動かしてみる。
しかし全く動かない。
そうかやはり俺は死んだのか。
正直もう生きるのには満足していた。
償うべき事はやったつもりだ。
後は穏やかに去りたい。
それから何時間経ったのだろう。
考える事は出来た。
今までの人生について考える。
俺の人生は褒められたものじゃなかった。
先に生まれた兄貴。
才能や人徳、容姿に恵まれた彼と比較された日々。
兄は正義感や明るさも持ち本当に完璧だ。
友達も沢山いた。
今考えれてみれば神谷が作った別人格JINYA。
それは俺の兄を投影したのだろう。
気がつけば、一日は経っているような気がした。
確認が出来ないから分からない。
一人で一通りぼーっとすると、大抵一日は経つ。
だから一日経ったのだ。
しかし
「死んだ後は何かしら転生する」
とかスミスじいさんはよく言ってた。
ふざけて変なこと言ってたな。
昔の人々が作った物語の話らしいが異世界で名声や金や女を物にできるとか。
はは、思い出し笑いなんて久しぶりだ。
彼は本当俺を笑わせるのが上手い人だよ。
どれも俺には関係の無いことさ。
兄貴は野心家でどれも大好きみたいだったが。
よく身近の女を大切にしろって言って…。
JINYAさんも言ってたな、神谷をとか。
いや、深い意味は無いと思う。
単にあいつ落ち込みやすいから幼馴染が気を使えよって話だろう。
結局最期まで仲が最悪だったから俺は何も出来なかった。
もし生に悔いがあるとしたらあいつが無事か知りたい。
今の俺と同じ状態だとしたら辛い。
二日目かな。
それとも三日目だろうか、または一日も経っていないかもしれない。
俺と兄、速水は親の縁で神谷家と親しかった。
どうやら学生時からの縁らしい。
俺の母親は、神谷の父の初恋相手だったという。
つまり仮想空間でよく戦っていた宿敵。
神谷財閥の創業者兼Vipuumの最高顧問、課金。
それが彼であったのだ。
昔母を幼く失くし一人っ子だった神谷は俺や兄にベッタリだった。
特に兄貴は誰とも仲良くなれる性格で俺と神谷は互いに兄を尊敬していた。
兄貴の話になると熱中して一日が終わる程。
思えば元々神谷とは昔はそんなに仲悪く無かった。
三日目ぐらいか。
意外と死んでも物事を考えることができるのは助かる。
食べ物や睡眠を摂らなくてもいいとは。
何もしなくてももう死んでるからな。
そうだな、もう終わった事なら。
全部思い出してもいいかもしれない。
兄貴を亡くした時は忘れようとしても忘れられなかった。
昔中学生だった俺は受験でイラついていた。
兄貴は地元大学付属の高校に入っていた。
俺は兄に追い付こうと勉強を人一倍頑張っていた。
しかし頭の出来が違いすぎたのか。
いくら勉強をしても平均もいかない。
この時代にはGMによるシンギュラリティが起き、試験結果で学校を強制的に決められている。
進路を選ぶことが出来ない。
だから余計にストレスがかかったのだ。
兄貴を越えられない苛立ち。
それは最悪な事に兄貴、本人に当たってしまったのだ。
単身赴任の母の代わりに部活で遅く帰る兄と自分の飯を作っていた俺。
だが俺は兄貴の分の飯を作らなくなった。
他にも会話が好きな兄貴の話を無視し相談事も無視したのだ。
それでも兄貴はずっと明るく
「受験は大変だからな。
よっしゃ!今日からは俺飯作る!」
とか
「忙しいからまた話は後にするよ。
分からない問題とかあったら教えてや!」
とどんなに当たっても兄貴は優しかった。
俺は馬鹿だった。
それ以上に兄貴が、深刻な悩みを抱えた事に気付いていなかった。
4日目、いや5日目?
始まったこのルーティンは、多分永遠に続くのかもしれない。
そうだ。
兄貴の深刻な悩みについて。
人とのコミュニケーションが苦手だった神谷。
彼女は神谷 亀という本名もあり、凄惨ないじめを受けていた。
俺は勉強に集中して、その件を気付かなかった。
後で聞いた話だ。
その女子間のいじめの恐怖で、速水は女子を恋愛対象に出来なくなったと言う程だ。
兄貴は俺らの学校まで行っていじめを解決しようとしたという。
しかし学校側からいじめは存在しない。
そう言われ、むしろ兄の高校に苦情を通達した。
神谷は大事になると父親の威信にかかるから俺や速水を頼る。
そう言って兄貴の行動を諭した。
だが俺らはその期待に応えなかった。
速水は恐怖に震え、俺は無視した上に兄貴に当たるという事をした。
彼への妬みから起きた行為が最悪な結果を生んだ。
ある日、学校終わりに病院から電話があった。
兄が死んだのだ。
そして遺書には
『/b9』
と書かれていた。
暗号なのかは分からない。
未だによく分からない。
今思えばあれが、初めて人の死に触れる瞬間だった。
何日目なんだ、1週間経つのか?
兄の死以来神谷は俺に執拗に接触した。
兄貴を追い詰めた俺に気を遣ったのだ。
俺に責めたり、復讐をするのではなく。
それはこの上もなく苦痛だった。
物理的ではなく、経験した事もない精神的苦痛だった。
「兄を殺したのは人間の心だ」
俺は兄の遺体に対面した時、神谷と速水の前で自分に対して怒りに震わせ言った。
それを勘違いしたのか。
死に追い詰めたのは神谷をいじめた奴等だと。
だからこう言ったんだ。
「兄貴を死に追い詰めたのは俺が原因だ」
その言葉を神谷に話して以降絶交した。
しかし相変わらず彼女は目が合うと俺を蔑みながらも執拗に関わろうとする。
速水も最初は嫌悪を見せたが、寧ろ気にかけるようになった。
どんなに足掻いても、皆俺に相応の反応を示してくれない。
気付けば俺は廃人となるまで壊れていた。
飯を見ると兄を思い出し吐く。
ストレスに過度に弱くなり頻繁にパニックを起こすようになった。
人の心は他者を殺す脅威。
さらに自らも追い詰める事すらある。
兄を殺した妬みの感情、それは恐ろしいものだった。
1週間は越えただろう。
普通の人なら動けないから、おかしくなるかもしれない。
だが俺は人生の後悔が人一倍にあるようだ
彦星が地球から人間を除去しようとしたのも分かる。
このような心を持った人間同士が殺し合うから戦争が無くならない。
俺も自分が人間の姿でいるのにトラウマを感じた。
ある日自分の行いにケジメをつけ、仮想空間においてステータスを全て捨てた。
全ステータス1となってまで動物になったのだ。
それがあのパンダの姿。
不意に視界が開けた。
すると目の前にとある人物がいた。
淘汰「……」
那藤 太郎「お前は仮想空間の俺?」
信じられなかった。
俺の声は本名として表示される。
目の前には仮想空間での俺の姿。
それが勝手に動き姿を見せた。
淘汰「/b9」
那藤 太郎「それは!」
聞いた事のある声。
仮想空間で設定した淘汰の声ではない。
淘汰「い…ろ
だい…じ…」
なにか伝えようとしている。
俺は口を閉じて耳かを傾けた。
淘汰「だい、じょう……ぶ。
たろう、おれ、つた……え、たい、こと」
パンダの姿が解ける。
中から兄貴の顔が現れた
まさか、兄貴を模したアバターが喋っているのか!?
淘汰「おま、えの。
そば、いれ、た。
う、れ…しか、た」
アバターに意思があったのか。
その正体が兄貴なのか、それは分からない。
言葉も断続的で懸命に、伝えようとしてるのが分かる。
淘汰「きに、する、な。
おまえ、いき、てる、だ、け
でうれ……い
だから、い……ろ。
い……」
那藤 太郎「淘汰、何を伝えようとして」
淘汰「……生きろ!」
兄貴の姿を模したアバターは俺を睨む。
俺はその一喝にハッとした。
那藤 太郎「それを伝えたかったんだな」
それが本物かは分からない。
勝手な思い込みかもしれない。
でも兄貴なら、そう言ったかもしれない。
トウタ「また、な」
彼は満足した表情で光に包まれた。
那藤 太郎「兄貴……」
すると突然後ろから聞き馴染みの声がした。
GGM「ずっと、逢いたかった」
淘汰「!」
そしてGGMの表記に飛び上がった。
GMの中の最高権力者。
シンギュラリティを起こした者だ。
驚いて振り向くと
GGM「戻るの?
消えるの?」
なんとそれは大人の姿となった織姫だった。
瞳の色が七色に光っている。
那藤 太郎「お前は、織姫?」
しかし彼女は首を振った。
GGM「全く質問を質問で返すなんて、ナンセンスね。
先に私の質問に答えなさいよ。
戻るの?消えるの?」
彼女は俺に手を差し出した。
俺が投げかけた質問の答えは出ていた。
こんな独特な返し方する奴は、あいつぐらいだ。
俺は手を握り返す。
那藤 太郎「戻って、死に物狂いでも生きてやるさ」
2050年7月7日に起きた不思議な邂逅。
そこから始まった、人間と電脳生命体の関係。
命懸けで戦った少年は、兄の言葉に感化され生を選んだ。
再び目を開けた時、彼は新たな世界と相対する。
今回で『205X』シリーズ第一作品
『2050~ステータス1の廃人』
は終わりです。
次回作は第二作目
『2055~ステータス0の亡者』
を投稿する予定です。
今後も205Xシリーズをよろしくお願いします!
シリーズのリンク:
https://ncode.syosetu.com/s7420f/




