☆メインストーリー2-1 神谷とBの存在
~現実世界・放課後の学校
「昨日はあの後大丈夫だった?」
今日は不思議とやけに上機嫌だった烏丸先生の終礼が終わり、そそくさと帰る生徒たちの教室。
丁度空いた目の前の席に速水は座って俺、那藤に話しかけてきた。
多分こちらが嘘をつこうとしても彼にはお見通しであろう。
答えを考えていたその時だ。
「お、はやみんじゃん!
ねぇ今日さファミレス行かない?」
三人ほどの速水の女子友達が来た。
どいつも校則が緩いからって髪染めている、正直こういう連中は速水を除いて苦手だ。
他の女子も話しかけてきた。
「お、はやみんの友達の!
名前なんだっけ?
な、えーと?
まぁいいや、なっちっしょ?
よく見ると髪さらさっらだね!」
やめろ、話しかけるな。
こういう連中は適当に踏み込んできて最終的には互いに雰囲気を気まずくする。
それを何度も経験してるから話すこと自体に利益を見出すことは出来ない。
だが無視すれば酷い事になるからどちらにせよ話しかけられた時点で損になるのだ。
速水はこちらの表情を察したのか3人の前に立った。
「いつも帰り付き合い悪くてごめんね。
たまにはファミレス行きますか、はやみんタピオカサラダ食べたい!」
「何度もブーム来てるけどタピオカって何でもつければ良いってもんじゃないよね」
女子とニコニコしながら会話する速水。
助かるよ、俺はやつらとは会話をするのも怖い。
こういう奴らは言葉の表現を一つでも間違えただけでこちらを敵扱いしようとする可能性がある。
一定のコミュニケーション能力が無いやつは大昔のフランス革命時の裁判が如く叩かれ処断される。
すると女子の中の一人がこちらの顔を覗き話しかけてきた。
「ねぇ、なっちも行こうよ!
みんなで食べれば楽しいよ?」
たまにいるよな集団の中で中途半端な善意で人を窮地に陥れようとする奴。
俺は顔をひきつらせて笑いながら精一杯の力を持ち断る。
「はは、俺あんまり飯食わないからさ」
だが奴らは言葉のキャッチボールはとんでもなく早い、直ぐに再び善意という名のナイフが飛んでくる
「なっちいつも飯食べないよね。
でもあそこのファミレスなら美味しいからきっと食べたくなるよ、行こ行こ!」
何故誘いを断った相手がそれをしない理由について考えないのだろうこの人種は。
さすがに速水もその女子の服を引っ張って明るい表情をしながらもやや強い口調をした。
「なっちは今日別の予定があるからまた今度にしよ!
んじゃなっち今日はお疲れちゃん」
だが一人がにやっと笑って後ろを指した。
「あ、分かった!
こいつと一緒に帰るんじゃない?
神谷さんと」
俺は気付かなかったがやはりあいつはまだ帰ってなかった。
驚いたのか机がガタッと音を立てるのが聞こえる。
先程善意で声をかけた女子も冷たい表情で神谷に言葉を投げつけた。
「知ってる!
この子この前なっちの事怒鳴ってたよね。
いつも一人でなんも喋らない癖にいつも帰りなったらなっちが帰るまで後ろに座って
もしかしてなっちメンヘラにしつこくされてるんじゃない?」
やはり曲がった正義感と中途半端な善意だな、タチが悪い。
俺は静かに後ろを向くと机の上に涙が零れているのが目に入った。
「同中だけどこいつ名前が亀でのろまって言われてたから病んじゃってるのかも!」
神谷は未だにそこまで嫌われていたのか。
声もなく涙の雫が落ち机にしみる。
顔を上げれば席を立った神谷の表情は見えるが情けない事に怖くて俺は目線を上げることは出来なかった。
そして更に情けないことに俺はそれを止める勇気がない、逆らえば敵を作るだけなのは知っているからだ。
「ねぇ」
一瞬ドスの効いた声が響き振り返ると瞬間的に上がった眉が落ちニコニコ笑った速水がいた。
「多分最近テストが近いから皆イライラしてるんだと思うの。
今日は1番門限が早い人に合わせてロングトークしましょ!」
速水の雰囲気を察した女子友達は苦笑いして四人で教室を出た。
静かになった夕方の教室。
外の鳥の鳴き声が聞こえ、未だに存在する電車の走る音が窓を揺らした。
早鐘がごとく鳴る鼓動の中、俺は勇気を振り絞りそっぽを向いたまま立ち上がった。
あの時と同じだ。
最悪な時間、互いに最悪な思いをするとどうやら俺は焦った自分なんかより相手を落ち着けさせたくなるらしい。
だからこそ考えもなしに言葉をかけようとする。
そう、冷静さの欠けた言葉をまた。
頭は止めろと怒鳴っていたのに勝手に体が後ろを向いた時だ。
「あれ、ここはどこかな?」
野太い聞き慣れた少年の声がした。
俺は見えもしない自分の瞳孔が開くように感じ息を飲んだ。
見た目はいつもの神谷、ではあるが声のトーンや喋り方が全くまるで別人のようだ。
「そうか彼女に何か強いショックが起こる事があったのか。
君のことは写真でしか見たことはないがかなりあれから成長したようだね」
「お前、誰だ?
神谷は昔からこういう手のおふざけは大嫌いなはずだからお前がふざけた事をまじめにやっているのは分かる」
「僕は……そうだね、彼女がAだとするなら僕はBだ。
多分時間が無いから手短に。
君が淘汰である事は僕は知っている。
その上で僕は襲撃事件の黒幕を知っている。
しかし僕自身に問題があるから君に直接姿を見せることは出来ない、よって近々仮想空間で友達のMr.Bが顔を出す。
察しの良い君は直ぐに全て察するだろうが上手くことを進めたければ時が来るまで秘密厳守で頼みたい。
だがまぁそんなに張り詰めなくてもいいよ」
「お前はBと名乗る別人格って訳か?」
「随分鋭いね。
だが彼女にとって僕は盾であり友人に過ぎないそして……
!?」
不敵な表情を浮かべていたBと名乗る人物であったが細めていた目が突然カッと開きその直後に
「こっち見ないで!」
と普段の神谷の高い声が響いた。
直ぐにバックを持ち上げ走っていく。
この様子だとあいつは切り替わりに気が付いてないな。
俺はこのやりたい放題の状況に舌打ちを打つとタブレットの電源を付けた。
一気に雲行きが怪しくなってきたな。
襲撃事件の黒幕を知る謎の人物について。
奴の仲間と思われるMr.B。
俺の正体を知る神谷の別人格らしき存在B。
さらに事を隠す事への強制。
俺が単独行動を取らないといけなくなる。
情報があまりにも足りない、多重人格自体この世に本当に存在するとは知らなかった。
だがタブレット等を用い情報を集めるとなるとこいつが邪魔だ。
やっと起動した画面にぷち姫が映る。
『電源付けるのが遅いわよ!
何?こっち見つめて』
「スミスに頼むアップデートについてだ」
俺は俺で計画を立てる必要がありそうだ。
バックを背負い暗くなってきた教室を出た那藤。
その後上手く入れ違いに入る者がいた。
委員長と書かれた腕章をつけている。
一人残された教室の中でため息をつくと彼はメガネに指を当てた。




