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鉛筆キャップのはなし

作者: 美守

この作品単品でも全く問題はありませんが、前作の「マキチャン」を読んでからこの作品を読むと、更に楽しめる?かも知れません。



「鉛筆キャップのはなし」


3年1組には魔物が潜んでいた。

魔物の名前はマキチャン。

マキチャンはとにかく横暴だった。

マキチャンはキックボクシングを習っていた。

マキチャンは自分に逆らったやつの悪口をいったりハブったりしていた。

だから、みんなマキチャンが怖かった。

みんなマキチャンには逆らえなかった。


しかし、そんなマキチャンに気を取られるあまり、私は気がつくことができなかった、3年1組の、もう一体の魔物の存在に。



「みもり、筆箱から色々盗まれてるよ」


私はある日、仲良しのかなちゃんにそう言われた。

最近何となく筆箱がスカスカすると思ったらら、ああなるほど、そういう事か。


小三のわたしは激ニブだったため、かなちゃんに言われるまで「盗まれている」ことに気が付かなかった。


しかし、泥棒をした犯人には目星がついていた。

マキチャンだ。

マキチャンは人のものをよく盗む子だった。

しかも、それを別の人に転売(という名の物々交換)をしていたからもっとタチが悪い。


転売ヤーによる転売が原因で、クラスの女子の間で、度々いざこざが生まれたりもした。


その日私は、家が真隣で幼なじみのユキちゃんと一緒に、マキチャンの盗みぐせについてあーだこーだ言いながら帰った。


帰宅後、しばらくしてお母さんが帰ってきた。

お母さんに言うかは悩んだが、金銭も関わってくる問題である、これはもう言うしかない。


「お母さん、私、筆箱から色々盗まれてたみたいなんだ」


「あら、やっと気づいたのね〜」


予想外の答えがかえってきて私は動揺した。

ん??ナンダナンダ???筆箱の持ち主は気づいてないのにその母親は気づいてたってこと???え、そんなことある????


「アンタは鈍いからねえ、わたしは盗まれていることにすぐに気がついたわ、でも知らぬが仏ってこともあるからね、黙っていたのよ」


どうやら私が鈍いのは血筋のせいではないらしい。

今日は驚きの連続だ。

でもお母さんの方が先に気がついていたのなら話が早い。


「盗まれないようにする方法、何かないかな」


お母さんのとの念密な作戦会議の結果、「持ち物のありとあらゆるものに油性マジックで名前を書く作戦」が決行されることになった。


小学三年生、多感なお年頃である。

持ち物に名前を書くのは正直恥ずかしかった。

けれどそうも言っていられない。


私とお母さんは、傘、キーホールダー、消しゴム、鉛筆削りなど、学校に持っていくものには何から何まで名前を書いた。


そうして持ち物という持ち物にあらかた名前を書いた頃、

不意にお母さんが尋ねた。


「鉛筆キャップには、名前を書く?」


鉛筆キャップ。

あの小さな小さな筒状のブツに名前を書くのは困難を要するだろう。

しかし、このクローバーの柄がプリントされた鉛筆キャップは私の大のお気に入りだ。

絶対に盗まれたくはない。


「お母さん、これにも書いて。でも、できるだけ目立たないような場所に書いて欲しい。」


そう言って私は鉛筆キャップをお母さんに差し出した。

お母さんはそれを受け取り、悩みに悩んだ挙句、手をプルプルさせながら油性マジックの細い方を巧みに扱って、キャップの内側に「みもり」と書いてくれた。



結果として「持ち物のありとあらゆるものに油性マジックで名前を書く作戦」は成功をおさめた。

名前を書いた日からパッタリと、盗まれることが無くなったのだ。

さすがのマキチャンも人の子である以上、名前の印字されたものを盗むということはできなかったようだ。

ものを盗まれなくなったわたしはルンルンだった。


私はそのまま、4年生になった。



4年生になった私は、その日もルンルンでユキちゃんと一緒に帰った。

途中、学校で出た課題の話になって、ユキちゃんの家で一緒にすることになった。


ユキちゃんの家は真隣だ。

ユキちゃんの家は、自分の家から歩いて30秒、走って10秒くらいで行ける距離に位置している。

記憶もないくらい小さい時からユキちゃんとはよく遊んだ。

だから一緒に課題をやるのも別に珍しいことじゃなかった。


わたしは家にランドセルを放り投げ、中から課題のプリントのはいったファイルだけ取り出し、急いでユキちゃんの家に向かった。



ピンポンもせずにユキちゃんの家に入り、私は定位置に座った。


「ユキちゃん、テレビつけてもいーいー?」

「いいよー」


わたしはユキちゃんが台所でなにやら作業をしている間、テレビを見ていた。

ユキちゃんの家はアニマックスがはいる家だった。

うちは入らないから、わたしはよくユキちゃんの家でアニメを観させてもらった。

でもわたしはテレビ没入型で、テレビが付いているとそれを観ること以外なにもしなくなるタイプの人間だった為、ユキちゃんには度々テレビを途中で消された。

時にはそれが原因でちょっとしたケンカをすることもあった。

今思うと、これは私が全面的に悪い。


そのうちユキちゃんがコップに麦茶をくんで持ってきてくれた。


「はい、じゃあテレビおしまいね」


そう言って、テレビを消された。

残念だけど、今から課題をやるのだから仕方がないか。


「あ、筆箱忘れた」


私は急いで家を飛び出してきた為、肝心の商売道具を忘れてきてしまったのだった。

全くどうしようもないアホである。

残念ながら、私には今も、変なところで抜けている節がある。これはもはや、不治の病みたいなものかもしれない。


「もー、しょうがないなあ」


そう言ってユキちゃんは引き出しの中から一本の鉛筆と消しゴムを取り出し、私に貸してくれた。


「ごめんねえ、ありがとユキちゃん」


そう言って私は鉛筆と消しゴムを受け取った。

これでようやく準備が整った。

さぁ、課題をやろうじゃないか。

そう思った矢先、私は鉛筆にはめられているキャップに目がいった。

なにやら見覚えのある、クローバーの柄のキャップである。


いやでも、そんなまさか。


瞬間、背筋が凍った気がした。

なにやら良からぬ考えが頭をよぎる。

しかしそんなはずはないと、それを即座にうち消す。


キャップの内側を見るのが怖かった。

見ないでおこうかとも思った。

けれどユキちゃんを疑ったままなのは嫌だった。

このもやを、どうにかして晴らしたかった。


私はありとあらゆる可能性を考えた。

そうだ、マキチャンは転売ヤーだったじゃないか。

マキチャンが転売したキャップが巡り巡って、ユキちゃんの元にたどり着いたのかもしれない。


結局私は、見ることにした。


横目でユキちゃんが課題と見つめあっているのを確認して、私は恐る恐るキャップの内側に目を向けた。



キャップの内側には、名前があった。



しかしそれは、「みもり」ではなかった。



キャップの内側にかつて書いた「みもり」の上には、油性マジックで二重線が引かれていた、そしてその隣には、綺麗な字で「ゆき」と書かれていたのであった。



それを確認した私は、何事もなかったかのように、目の前の課題を黙々と進めた。

ユキちゃんの方が先に課題を終え、テレビを付けたが、テレビの音は一切耳には入ってこなかった。



ちなみにユキちゃんとは、今も会ったら気軽に挨拶をする仲である。









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― 新着の感想 ―
[良い点] ゾッとしました。魔物という表現は決して喩えではなくて、主人公には本当にそう見えていたに違いないでしょう。 [気になる点] あらすじが冒頭そのままなので重複感があること。 ジャンルがエッセ…
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