婚約破棄される悪役令嬢(ガチ)なお嬢様と奴隷の話
あるところに一人の奴隷がいた。
奴隷の主人は身分がとても高く、誰が見ても美人というほど綺麗な女性であった。
しかし、主人はとんでもない悪党だった。
ある時、学園でお嬢様を悪口をこそこそ話す令嬢がいた。
「あの女、気に入らないわね。奴隷いつも通りやりなさい」
「はい。お嬢様」
いつも通り相手の従者を洗脳魔術で操り、令嬢をおびき寄せ、暴漢に見せかけキズモノにした。その後、噂を徹底的に広める。次の日から令嬢が学園に通う事は無くなった。
「完了しました。お嬢様」
「よくやったわ!そこに四つん這いになりなさい。褒めてあげるわ」
「……はい」
奴隷が床に両手を着ける。お嬢様は腰に常備してる鞭を取り出すと、奴隷の背中を叩いた。
「ぐっ……」
痛みから苦悶の声を洩らす。
お嬢様はそれを聞くと妖艶な笑みを浮かべる。男がこの表情を見る機会があるならば、必ず惚れてしまうと感じる程の美しさだ。
「いい……とても良いわ!やっぱり貴方は最高の奴隷よ。手に入れて良かった!」
鞭で叩かれるたびに、奴隷の衣服は破れ、体に赤い線が作られ、肉が裂ける。
「ぐっ……ぅ……」
痛みに耐えきれず、床に崩れ落ちる。お嬢様はハァハァと息を荒げていた。顔を赤くして髪が乱れ、汗をかいている。
「ふぅ……今日はここまでね。風呂に入るわ。準備しなさい!」
「……はい」
奴隷はのっそりと立ち上がった。痛みからうまく動く事が出来ない。
「早くなさい。汗でドレスが張り付いて気持ち悪いわ」
胸元を大きく開け、扇子で扇ぐ。上気した顔で行われる行為は、誘っているのではないかと思わせる。
「……。」
奴隷は無言で風呂へと向かった。お嬢様は部屋に一人になった。
「奴隷も喜んでたし今日も楽しめてもらえたかしら!殿方ってこういうのが好きって聞いたけど本当なのね。本当に馬鹿みたいだわ」
恋する少女のような顔で独り言をいい始める。
お嬢様は奴隷が大好きである。奴隷は数人持っているが側に
近づくのを許可しているのは先ほどの奴隷だけだ。
トントンとドアが叩かれた。
「コホン、入りなさい」
「準備が完了しました」
「そう、早いわね」
奴隷は着替えたのか、真新しい執事服になっていた。
お嬢様を連れ、風呂場に着くとメイドに任せて待機する。痛みから背中を擦り――― 「ヒール」。奴隷の手が輝き、背中の傷が塞がっていく。
「やんちゃも程々にして欲しいよ……いてて」
完全に塞がると体の動きをチェックする。
「奴隷紋が無ければ……な」
奴隷はみな付ける事が義務付けられている。これを刻まれた者は主人に逆らう事が出来ず、自らの意思とは関係なく体が動く。消す事が出来るのは王だけだ。
そしてそんな日々が続き―――
学園の卒業式。
「貴様と婚約を破棄する!」
「どうして!あんなに愛し合っていたのに……!」
お嬢様の婚約者である王子は舞台に立ち、宣言した。
「貴様の数々の悪行は許すことは出来ない!」
「私が何したって言うのよ!!」
「これでもまだしらばっくれるか!貴様のせいで修道院送りになった令嬢を忘れたとは言わせんぞ!この学園の男女比率は2:1……どれだけ競争が激しくなっているか分からないのか!」
「私以外の女なんて学園に必要ないわ」
お嬢様は心の底からそう思っている。生まれながらにして王の素質を持ち、上に立つ存在。世界の中心は自分であると確信している。
「もう我慢ならん貴様を処刑する!これは王にも許可を取っている。観念するんだな……」
「許可って……あり得ないでしょ!」
「罪人を連れてこい!」
「えっ、ちょ、何よ!!!!」
お嬢様の腕を左右からガッシリと掴みあげる騎士達。バタバタと慌てているが日頃から体を鍛え上げ、鋼の肉体と化した騎士にはビクともしない。
そして舞台に上がる。
「処刑するのにギロチンを用意した!一瞬で首を落としてくれる優れものだ。私の婚約者だったお前に最後の慈悲だ。せめて苦しまずに逝け」
「いやぁああぁあああ!!助けてよ!誰か私を助けてよ!!!!」
屈強な騎士達によって断頭台に頭が固定される。諦めてしまったのか、体から力が抜けている。
「う、うぅ~……奴隷!奴隷何処行ったのよ……今までの礼を返しなさいよ……」
「よーし、首を落と―――」
「お待ち下さい」
処刑する直前に現れたのは、奴隷であった。
「奴隷、信じてたわ!早く助けなさい!!」
お嬢様が話しかけるが奴隷は見向きもしなかった。「後で覚えてなさい」と呟くと奴隷はニコリと微笑みかけた。
「何よ~。奴隷の分際で……///」
お嬢様は顔を赤くした。
「誰だ貴様は?私が王子だと知っていて、発言を遮ったのか?」
「申し訳御座いません。私はお嬢様の奴隷をしております。火急の用事でしたのでお許し頂ければと……」
「奴隷だと……?用事を早く言え。その後に処刑してやる」
「はい。ではこちらを」
奴隷は王子に手紙を渡した。内容を確認した王子は「馬鹿な馬鹿な」と仕切りに呟いている。
「こんな事があってたまるか!!」
手紙は王子によって破り捨てられた。
「俺は認めない……。認めないぞ!」
「王が決めた事です」
「王の権限でこのクズを許すなどありえん!貴様……何をした……?」
「いえ、全ては許されていません。最後までお読み……破り捨ててしまいましたね。お嬢様は私の奴隷になりましたので返して頂きたい」
「はぁー?誰が奴隷よ」
「……この後を楽しみにしておいて下さい」
奴隷は笑顔であったが、とても恐かった。笑顔とは本来、攻撃的なものである事をお嬢様は思い出した。
「……少し出たわ」
「くそ……くそっ……撤収だ!撤収!!ギロチンを片付けろ!」
王子は地団駄を踏みながら騎士達に命令する。速やかに舞台の上の小道具の片付けが完了した。
「よくやったわ。奴隷!帰ったらご褒美よ!」
「……。」
お嬢様はニコニコと奴隷に話しかけるが、普段と違い、奴隷は返事をしない。仕方なく命令した。
「返事をしなさい」
「……。」
しかし、奴隷は無言のままだった。
「……あらっ?おかしいわね……。奴隷紋の不調かしら……?」
微笑むだけの奴隷が急に怖くなったお嬢様は目線を外し、一歩下がった。
「……先帰るわ」
「奴隷が一人で出歩いては危険ですよ」
「な、何よ!さっきの会話は嘘でしょ!嘘だと言ってよ!」
「残念ながら……いや私にとっては喜ばしい事です。先ほどの会話は本当です。お嬢様を助ける為に王を直接洗脳しました。今の私は男爵です」
「私を助けるためなら奴隷にする必要ないじゃない!これから修道院送りになった令嬢達みたいにキズモノにする気でしょ!」
「……まずは奴隷紋からですね」
「答えなさいよ!」
お嬢様は奴隷に担がれ、学園を後にした。
その後、男爵の屋敷から毎晩鞭で叩く音が聞こえるようになったとかいないとか……。
めでたしめでたし