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第四話 真のアイドルは俺だ

ミュールは俺を握ってあちこちに視界を動かしながら色々と説明をしてくれる。


端からみたら人形…野菜?遊びをする綺麗な女性と行ったところだ。


俺のミュールに変な視線を向けるんじゃない。寄生するぞ。


「ドラゴン!ちゃんと聞いてる?」


あ、はいはい。ちゃんと聞いてますよ~


「それでね、ここが私の新しい職場がある王都ベルステンだよ。大きいよね~私、田舎の人間だからドキドキしちゃうよ~ドラゴンも楽しみだよね?」


そうだな、動けないからなんとも言えないんだけどな!


視界に入る王都は白く高い壁に囲まれており、壁の周りには大きな堀、中は川が流れている。


遠目に見える城は天を衝くように聳え建ち、小さな尖塔がいくつもある。


荘厳で、壮大。そんな言葉がよく似合う。


「あ、そろそろ入り口だよ」


俺を握る手がじっとりと汗ばんでいる。


なに、そんなに緊張する事はないさ。


「ようこそ、王都ベルステンへ。お一人ですか?」


「私は冒険者ギルド所属受付担当ミュールです。ここへ来る途中山賊の襲撃に会い、護衛に着いていた冒険者パーティーCランクの鉄の先端(アイアントップ)が交戦。私を残して両者壊滅しました。確認と回収の兵をお願いします。身分証はこちらになります」


胸の谷間から小さなカードを取り出すとぶぅんと音を立てて何かしらの確認を取っている。

なんてところにものを仕舞ってるんだよ。何か隠せる程は大きくないだろ?あぁ…だからパツパツの服を着てたのか?


「確認致しました。ようこそミュール様。すぐに兵を派遣致します」


「よろしくお願いします。それでは」


なかなか様になってたじゃないか。凛々しかったぞ。


「はぁ~緊張した~もう汗で背中がビショビショだよ~」


さっき言った事は取り消そう、このポンコツめ。お前はいつもどこか濡らしてるじゃないか。

俺は知ってるぞ?夜心細くて寝ながら泣いてるのをな。起きればお漏らし寝たら夜泣きで緊張したら冷や汗か。水分は大切にしろ。


「本当なら体綺麗にしてから人前に行きたいけど、仕方ないよね…報告急がないとだし…」


まぁポンコツでも女心はあるだろう。俺たちは数日の間、体を洗うことなく王都へ向かって歩いていたのだ。目に見えて汚れているのはミュールだが俺は元から心が汚れているし、体はオッサンに穢されたからな。


嫌だなぁ嫌だなぁとうわごとのように繰り返される独り言に多少うんざりしつつも手汗でしっかりと俺を湿らせて綺麗な石畳をコツンコツンとロングブーツを鳴らして歩く。


道は覚えてない。なぜかって?握り締められていたからだ。ものなんて殆ど見えてなかった。


「すー…はー…着いちゃったね。私達の目的地、ギルド本店!」


息を整えたミュールは胸の前でしっかり人形している俺を握るとギィギィと音を鳴らすスイングドアを開けて中に入った。


「うわぁぁ~…」


やめろ、ミュール!完全におのぼりさんだ!見てみろ!先輩?受付嬢がお前を見てクスクス笑っているぞ!気づけ!


「すごいなぁ~綺麗~」


きょろきょろと周りを見回しているミュールはまだ気がつかない。


ねぇドラゴン?すごいね?ね?と語りかけてくる。だめぇ…もう恥ずかしいのぉ…


あっちはクエストボードで、あっちが待合のバーだよ!うわぁ…!ご飯屋さんまであるよ!


明るい声で話しかけてくる彼女を誰が止めれるだろうか。


「お客様、本日はいかがなされましたか?クエストの発注でございますか?」


彼女のはしゃぎっぷりに笑いを堪えたパツキンストレートロングヘアーのチャンネーが声を掛けてきた。


完全にお客様扱いだ。でもな、実はこいつはここの従業員なんだぜ?優しくしてやってくれな?


「ごめんなさい!私はラジャ村の地方ギルド支部から王都ギルド本部への赴任となっておりましたミュールと申します。道中アクシデントにより護衛パーティー鉄の先端(アイアントップ)のメンバーと山賊が交戦。両者壊滅となり時間がかかりました事、報告申し上げます」


「それは、大変でしたね。お疲れ様でした。報告書は後日纏めて上げてください。寮は空きがありますのでそちらを。それと、その…先ほどから気になっていたのですが…ドラゴン、とは?」


やめろよ?余計な事を言うなよ?


「それはですね!道中で拾ったマンドラゴラのドラゴンです!」


ザワッと騒がしかったギルド内が一瞬で静まり返る。


あちゃ~…やっちまったな…こいつ、俺を売り飛ばしやがった…このポンコツが…


「えっ…?本当に、マンドラゴラ?」


「私の支部は暇でしたのでずっと薬草図鑑を眺めていたので間違いありません!」


「あの煎じて飲めば若返りに不老不死にさえなると言う…?」


「はい!」


もう、喋るな。やめろ。


伝説級と知っていながら簡単に人に話すな。周りの冒険者を見てみろ。

目を血走らせてお前を殺してでも奪おうと言う意思がありありと伝わってくるぞ?目の前の受付嬢でさえ獲物を見る獣の目つきだ。


と言うか俺ってそんな凄い植物だったんだな。敬え!


「え?え?皆さんどうしたのですか?」


このポンコツめ…本当に理解してないのかよ。純真すぎるだろ。

だけどな、俺は約束は守る植物だ。しっかりと俺をお守り人形にしろよ?


「とりあえず、真贋を確かめましょう。よろしいですか?」


「はい!」


「それでは鑑定の水晶をお持ちしますので待合室に行きましょう」


ミュールは何の疑いもなく受付嬢の後について行く。

罠じゃないだろうな?罠だったからといって俺が反撃したら多分ミュールも死ぬ。


どうしたものかな…


そんな俺の気苦労も知らずに軽いノリで連れられてきた部屋のソファに腰掛けて待っていると、先ほどの受付嬢とは違う耳が長く尖り、緑の髪をアップで纏めたデキル女って感じのやつとハゲ散らかした爺さんが入室してきた。


「初めまして、ミュールさん。私は本部の副ギルド長をしている、リュリュエラ・デル・イルリアと申します。こちらが本部ギルド長の万魔の異名を持つザド・マイルです」


「初めまして、ギルド長、副ギルド長。私はラジャ村地方支部より参りましたミュールと申します」


ほう…ギルド長と副ギルド長ね。お偉方が揃って御出ましとは。まぁあれはそうそう収まる事がないから何かしらの手は打つべきだよな。


と言うか爺さん、こっちを見るな。気色が悪いわ。

できればデキル女の方に見つめられたいんだが?変な事したらてめぇの頭にキノコ生やすぞ。


「マスター?どうですか?」


「確かに、これはマンドラゴラのようじゃ…じゃが…」


なんだ?俺に熱い視線を送ってたのは何かやってたのか?


「どうされました?」


「うーむ…ちょっと待っておれ」


「マスター?」


二人で勝手にうんぬん言ってどっかに言ってしまった。


その間ミュールと俺はほったらかしだ。おいおい、俺たちはお客様?だぜ?茶請けの一つでも出さんかい!


そんな俺の怒りも余所に、副ギルド長は何事もなかったかのように喋りだした。


「あのクソ爺…また勝手な事を…私がいつもどれだけ…!」


あ、こりゃ駄目だ。刺激したら駄目なやつ。ヒステリックな女はドラゴンより怖い。


「大丈夫ですか?えっと、リュリュエル?さん」


「リュリュエラです!それと、私はエルフ族ですのでリュリュエラが母の名前、デルが氏族名、イルリアが私の名前です。エルフ族は女なら最初に母の名前がつき男なら父。最後が自分の名前です。人間族にはわかりにくいと思うのでリアと呼んでください」


「すみません、リアさん。ところで、私はどうしたら良いのでしょうか?」


「先ほどのマスターの鑑定によってそれがマンドラゴラである事は確認できたようですが詳しい事はわかりません。詳細不明でもマンドラゴラである事から売却を求められるでしょう。応じれば豪邸を買い、一生暮らしていけるお金くらいならば容易に手に入ります。強制ではありません、しかし貴女は既に大勢の前で公言してしまっており、顔と名前を覚えられていますので考えられる事としては様々な人間が貴女を殺してそのマンドラゴラを手に入れようとするでしょうね」

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