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第三話 俺はお喋らない人形

再び意識が覚醒する。


周りは少し白ずんでいるので結構寝たみたいだ。


寝起きは悪くない。前は土のベッド、今度は肉のベッド。甲乙付けがたいが、目の楽しみで言うなら今回だ。


ミュールはその才能を余すことなく画家としての力を思う存分発揮し続けていたので意識していなかったが、よくよく見てみるとなかなかに美しい…少女?いや、うーん…若い女?だと言うことがわかる。


髪は明るめの茶色を片側に編みこみ垂らしており、その先を丸い飾りで留めている。

美しい小顔を彩る薄く小さな唇は綺麗な桜色で、そのコントラストを華やかに飾るスッと走る形の良い眉毛に細く長い睫毛。


首元が開いた無地の薄いクリーム色のシャツが柔らかい雰囲気を出しながらもその上に羽織るチェックのベストは胸に押し上げられて少し苦しそうだ。濡らしに濡らした下半身は茶褐色のタイトスカートでフトモモまでスリットが入っており同じ色をしたタイツは所々破れている。そそる。


たわわと言ったがすごく大きいと言うわけではない服が小さいみたいだ。なんで合ってないサイズなんだ?チョイスがへたくそなのか?ちゃんと試着してから買ったほうがいいぞ。


やる事が特になかったのでミュールを観察していた。


スキルやLvを確認しようとして色々やってみたがわからなかったからどうしようもない。


はぁ…あの護衛も死んだみたいだし、ミュールも死んでるだろうな。

すまん、お漏らし女。まだ若いだろうに、こんなところで君の命の華を散らせてしまったようだ。


ボケーっとしていると朝日が昇り始めた。そういえばスキル朝露とかあったが、なんだ?俺は草か何かになったのか?朝露って自分で飲めるんだろうか?


そんな事を考えているとミュールの服にポタポタと何かが降りかかる。


悪いな。俺は動けないから振り向けない。

アンデッドの涎だったらミュールも俺とご同類だな。穢されもの同士、仲良くしようぜ?


そんな事を考えていても一向に何かが起こる気配はない。


なんだったんだ?


ひょっとして、朝露か?まさかな。


「んん…ここは…私…生きてる?」


お?生きてたか。理由はわからないが生きてるなんて運がいいな。


体を起こしたミュールは無意識か俺を握り締めて死屍累累の惨状を見渡すと、うつ伏せで倒れる護衛の姿を見つけた。


「あっ!ダイルさん…嘘っ…!」


ほう、あの護衛はダイルと言うのか。


そんな情報はどうでもいい。俺に体を提供してくれ。お願いだ!


しかし、やはり神は居なかった。


ミュールはダイルの死体を見つめるとギュっと俺を握る。

絞め殺す気か?お漏らし女。いい度胸だ。

ニギニギ…


あっだめぇ!もっと優しくしてぇ!


やっと俺を握り締めてることに気がついたのか何度もニギニギしている。


「えっ…これって…マンドラゴラ?図鑑でしか見たことないけど、なんで私伝説で謳われる植物系の魔物を握ってるの…?」


ほう、その情報はグッドだ。俺はやっぱり植物になっていたようだ。朝露とか自分の意思で動けないとかなんとなくわかってたけど、改めて言われるとしっくりくるってもんだ。


しかも伝説の植物なのか。こりゃお嬢さんよ。大切にしてくれよ?捨てて行かないでね?俺自力じゃ動けないんだからさ。頼むよ?


「うぅ…でも、今はギルドに行かないと…はぁ…赴任早々なんなのよ…」


君、漏らしてた割りに切り替え早いね。そういうの、いいと思うよ。高ポイントをあげよう。ずっとうじうじしてても俺も気が滅入っちゃうからね。


…ミュールに大して切り替えが早いと言うことであげたポイントは取り消しだ。


あれから俺は彼女のお喋り人形と化している。あんな死体の山を見た後だから気持ちはわからないでもないが、俺を握り締めてはじっと見つめて独り言をグチグチ言っている。


やれ田舎のギルドから王都の本店勤務になったのに幸先が悪いだの、やれ冒険者は荒っぽい連中が多くて困るだの、いい男が居ないだの、男は金じゃなくて性格の方が比重が高いだの。


聞いてねーんだよ!もっと明るい話しろよ!最後のは同意するけどな!


ちなみに、俺は彼女に名前を貰った。マンドラゴラから頭と最後の文字を抜いて入れ替えたドラゴンらしい。


いや、それ、違う生物じゃん?植物なのにドラゴンっておかしいだろ?マンドラゴンってか?お前ふざけてんのか?

だが、同じ伝説の生物で掛けちゃいました!気に入った?気に入ってくれてるよね!と花の咲いた笑顔で語りかけてくる彼女に、俺は少し愛着がわいてきている。悪くない気分だった。


道中は緑色をしたブサイクな小人やら狼に追いかけられたりと波乱万丈な二人のアバンチュールを過ごし、ミュールは夜、寂しくなると俺に語りかけ、眠る前に語りかけ、朝起きると語りかけ、道を歩きながら語りかけてくる。つまりずっと喋っているのだ、お喋り女め…。俺も喋れたらなぁ…


当然、ずっと喋っていれば喉を痛める。

だから彼女が喉を渇かしているように声がかすれたとき、俺は彼女が起きてきたタイミングで朝しか使えない朝露を使って水分を出している。


自分では見えないが俺の頭には葉っぱが生えており、そこから水を出しているようだ。汗とかじゃない事を祈ろう。


ミュールはそうやって俺に語りかけ、俺も黙って聞いている。不思議な構図だが、心地良い落ち着きのあるこの時間を俺は気に入っている。


だが、世は無常だ。その時間も終わりが近い事をミュールから告げられる。


「そろそろ王都に着くよ、ドラゴン。」


俺とミュールのランデブーはここまでだ。俺はどうなってしまうのだろうか。売り飛ばされる?それとも磨り潰されて薬にされる?そうなったらどうしようか。諦めるしかないのか?嫌だね。一か八か絶叫してやるぜ。


そんな事を考えていたのだがミュールは透き通るような心地の良い声音で諭すように話しかけてきた。


「大丈夫だよ。ドラゴンは私が拾ったんだもん。私が大切にするからね」


もう、結婚して!俺と!俺もミュール大切にするから!


でも声は出ない。ありがとうな、ミュール。

つり橋効果かも知れないし、俺とお前の出会いは…お漏らししすぎて最低だったけど二人で過ごした時間は宝物だ。俺もお前を護るよ。


「じゃあ行こっか!」


そういって俺を胸にぎゅっと抱きしめるとミュールは城門へと向かって歩きだした。

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