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第一話 誰の体って?俺のです

視界のレンズを通してのみ得られる俺の世界は既に何度巡ったか数えるのもやめてしまった。


わかるのは小汚かったオッサンは更に自分磨きをしてモテモテのナイスダンディーに…というわけではなく内臓をバクテリアに分解され、体の一部を土へと返しながらも中途半端に残る臓物を引きずり、虚ろな目をしてうろついていると言う事だけ。


アンデッドと言うやつだろう。なかなかにグロテスクだ。


歩くたびに腐肉と汁を撒き散らし、土壌汚染をしながら最初とは違う湿った音をさせながら覚束ない足取りであっちへふらふらこっちへふらふらと散歩している。


俺は自分の体の確認すらできないってのに、暢気なものだ。


あーやだやだ!と自分の心の醜さか、嫉妬かわからない嫌味を言う。

勿論、あれから声は出ていないので心の中だけだ。


しかし、本当にやる事がない。自分の記憶を漁ろうとしてもモヤがかかったようにはっきりしなかったりして気分が悪くなるのでそれもやめてしまった。

せめて俺が喋れなくても語りかけてくれるような優しい誰かと仲良くしたいよ。


なぁ、オッサン俺が悪かったよ。ゾンビみたいに怖い顔してないでさ、ほら謝るからさ。仲良くしようぜ?


口から血の混じった涎を垂らしていつの間にか俺の顔を覗き込むオッサン。


うわあああああ!汚い!汚いいいいいい!ひいいいいいい!


へへっ今度は俺が少女みたいな叫びを上げる番になっちまったな?だからやめろおおおおおおおお!


そんな俺のソウルシャウト(心の叫び)も功を成さなかった。


うぅ…俺、穢されちまったよ。こんな心も体も汚れた俺を貰ってくれる人なんてこの世にはいないのね。

ヨヨヨ…と諦めの境地で寸劇を打つ。それくらいしかやる事がないんだ。


はぁ、とため息をついたのだが今日のオッサンは一味も二味も違った。


おもむろに俺の体を掴みあげると顔に近づけていくじゃないか。


歯が所々抜け落ち、下顎は大きくズレており落ち窪んだ眼窩には目玉がひとつしかない。


本来大事なところを守る頭蓋骨は半分から陥没し、脳味噌が剥き出しだ。


喰われる…だが俺に抵抗することはできない。体は相変わらず動かないし、言葉も出ない。それに俺はお喋りな性格みたいだ。誰かと話したくて仕方ないのに喋ることすらできない苦痛は、このまま続けば心が耐えられない。


ならば、一思いに俺にむしゃぶりついてくれ。痛く…しないでね?


オッサンはそんな俺の気持ちを知ってか知らずかゆっくりとした動きで俺を食べ…ずに脳味噌に俺を突っ込んだ。


なんだ?この辱めは。てめぇ、俺がいつまでも寛容だと思うなよ?


ぶち殺して…ごめん、もう死んでるよね。

なんでアナタはワタシを置いて先に逝か(イカ)れてしまったの?


狂っている!何もかもが!ちくしょおお!と嘆いていたのだがオッサンの脳内はなかなか快適だった。


ふらふら動かれるたびにクチャクチャと音を鳴らすのは気持ち悪いのだが体の芯から温まるような…そう、オッサンを俺の中に感じるって言うのかな…へへっ。もう俺たち、一心同体(マブダチ)、だよな…!


なんて言うと思ったか?気色が悪いぜ。どうせならおっとり系の母性溢れる大人の女性か余裕あるアンニュイだが面倒見のいい魅力溢れる大人の女性か、心の純粋な美女がいいに決まってるだろ。

誰が悲しくて腐りかけのオッサンの脳味噌なんかに漬かるんだよ。

墓穴に片足突っ込むどころか墓穴ぶち破って死体に足突っ込んじゃってるわ!


ちくしょうが!!また俺の心の闇が広がってしまった…んん?なんだ?


心の闇が広がったからか?体がおかしい…


チーン!

『スキル:肉体支配を獲得』


なんだ?!肉体支配?その影響か四肢の感覚、と言った方がいいか。動かない体は痛みもなければ痺れもなかった。それなのに今はなんと言うか、意識が引き伸ばされて行く感じがする。じんわりと暖かくて、何かが体に沁み込んでくる…!


う、ああああああ!


オッサンの体がビクンビクンと痙攣しているのがわかる。感覚が、わかる!


原因はわからないが体だ!手に入れたぞ!俺は体を手に入れたんだ!!オッサンのだがな!ありがたく使わせてもらうぜ!サンキューオッサン。


今ならば俺の滾る獣欲を持て余す事なく発散することができる。やってやるぜ!


「ア゛ァ~」


まぁ落ち着けよ。何かしたわけじゃない。()っただろう?俺はお喋りさんだってな。


言葉が喋れるようになったかと思ったが死人に口無し、と言うやつだ。口はあるけどね?声帯がないんだよ。分解されちゃって。


しかし…ふむふむ、悪くない。自分?の足で歩くってのはいいものだ。生きてるって実感できる。

世界が一つ大きく広がったな。


だがやはりゾンビの足と言うべきか、歩くたびに腐った肉が千切れ、骨が軋んでいる。走ろうものなら一瞬で足は千切れ跳ぶだろう。


「ア゛~」


仕方ない。のんびり行こうじゃないか。空を延々と眺め続けたさっきまでとは違うんだ。

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