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§1.1

「またすごい形のが出て来ましたよ」


 女医が見せてくれた歯は確かに妙な形をしていた。私たちがいつも「歯」と認識している、プリッと丸くて頭の潰れた臼状の部分の下にある4本の歯根が、その足先をぴっと揃えて真横に90°、曲がっている。ブサイクなアイドルの、膝曲げジャンプをそのままカチッと固めてしまったような、なんとも不安定な形状。こんなものが俺のアゴの中に埋まっていたのか…佐藤はえもいわれぬ気分になって、いや、えどころか口の中にまだ女医の指や銀色の歯科器具やらが突っ込まれていて何も喋れないのだが、目をまん丸くして驚きを表した。


「ひとまず、ここのお皿に置いておきますね」


 女医は、清潔の権化のような銀色のトレイの上に、ポツンと歯を横たえた。少しだけぼやけた姿が、真下に浮かび上がっている。今度は緊縛されて放置プレイをかまされているAV女優に見えてきた。

 そのあとも、止血やら消毒やら縫合やらなんやかんやと口の中をかき回されて、ようやっと口がきけるようになり、「ふぅ、ありがとうございました」と、女医にお礼をいう。女医はマスク越しに柔らかい笑顔を作ると「お疲れ様でした」と返してくれる。


「ヲツカレサマデシタ」


 ブワーン、とアップルのパソコンが起動した時のような、電子的な効果音がなって、頭の上にあったモニターの黒い背景の中に金色の輪っかが浮かび上がってきた。女医は佐藤に見やすいように少し角度を傾けてくれ、そして奥のスペースへと去って行った。カルテに処置内容を書き込んだり、処方箋を書いたり、次の予約を確認したり、まぁ色々とあるのだろう。そういう無意味な推測をしたあと、少し緊張した面もちで、モニターに目をやる。


「サイゴノ、ハ、デスネ。ヲメデトウゴザイマス」



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