菌類から始まるダンジョン放浪記
風呂入ってるときに考えたやつ。
我ながらどうかしていると思う。でも真面目に書いてる。
ちょっとでも笑ってくれたらそれでよし。
以上。
輪廻転生という言葉がある。
人はめぐりめぐって生まれ変わることがあるらしい。
だが注意点がある。
「おい、まさかキノコから始まるとは思わなかった」
「喋れるのである」
「キャハハ、キモーイ!」
人は、必ずしも人に生まれなおすとはかぎらない。
◆◆◆
『菌類から始まるダンジョン放浪記』
◆◆◆
「まさか俺と同じようにキノコに転生するやつがほかに二人もいるとは思わなかった」
「うむ」
「キャハハ、キモーイ」
しかもなんかこう、かなりアレだ。うん。
よし、とりあえず現状を確認しよう。
「ここどこだ」
「目が見えん」
「わたし見えるー!」
どうやらやたら渋い声のキノコはまだ目が見えないらしい。
ていうか俺どうやって見てんだ。
まあいいや。
「なんだか薄暗い場所だな」
「お、見えるようになったのである」
ホントどういう原理だ。
「む、毒の匂いがするな」
匂いでわかんのかよ。
「我は前世で薬剤師をしておった」
へえ、頭良さそう。
「どこでやってたの?」
「ダンジョン」
「ん?」
「ダンジョンである」
ダンジョンってなんだよ。
あれか、よくゲームで出てくるモンスターとかトラップとかいろいろあるアレか。
――マジかよ。
「ここはダンジョンと同じ気配を感じる。おそらくかなり深い階層だろう」
なにこのキノコ、妙に頼りがいあるんだけど。キノコのくせに。
「ねー、あっちの方にゾンビみたいなのいるよー」
女声のキノコが言った。
「む、ゾンビキングであるな」
キングて。ゾンビがキングになることでなんかいいことあるの?
「ゾンビキングになると腐臭だけで人を殺せるのだ」
「超おっかねえ」
大量殺戮兵器じゃねえか。
「ところでさ、なんか俺たち同じ倒木に根付いてるし、一応自己紹介でもしておこうよ」
俺たちの体は現在沼地の真ん中に倒れている腐った木に生えている。
俺たち以外にほかのキノコの姿は見られない。
ジーザス、せめてもう少し仲間が欲しかった。
「うむ、そうであるな。言うなればキノコ同盟、一心同体である」
「お、おう、そうだな」
キノコ同盟ってなんだよ。
「我の名はサンマルコ。サンマルコ=ケレスティール=カイザーブラッドである」
名前カッコよすぎだろ。
「わたしはキャシー!」
アメリカのホームドラマに出てきそうな名前しやがって。
「俺の名前はタケゾウ」
「キノコじゃん! 竹じゃないじゃん!」
うるせえ。
「うむ、タケゾウ、良い名前だ」
「ありがとう、サンマルコ」
「わたしキャシー!」
うるせぇわかった黙ってろ。
「で、これからどうするよ」
「ううむ」
「このまま三人で――人じゃないけど――だべって腐るの待つとか悟り開いちゃう勢いなんだけど」
「たしかにこのまま人生を終えるのもいささかわびしいのであるな」
「キノコ生!」
俺たちのキノコ生はこんなところで終わらせるわけにはいかない。
せっかく生まれ変わったんだからなにかしら印を残したいものだ。
「我らはこの先生きのこれるのか」
「きのこるー!」
こいつら結構うるせえ。
「でもさ、キノコにできることってほとんどなくね?」
「せめて歩ければ……」
「わたし歩けるー!」
ふとキャシーの方を見るとピンク色の卑猥な形をしたキノコが足を生やして歩いていた。
なにあれ最高にファンシー。そしてファンタジー。
「ぬっ、なぜ歩けるのだ」
「足生えないかなーって思ってたら生えた!」
お前は魔法使いか。
キノコ魔法使いか。
「よし、試しにやってみよう」
俺も足が生えないかなぁ、って念じてみる。
「あ、生えた」
やったぜ、俺もキノコ魔法使いの仲間入り!
「よし、我もできたのである」
隣に生えていたごつごつしたピンク色のキノコにも足が生えた。
いやぁ、改めて見るに堪えないものがあるな。
ていうか今さらだけどお前もピンクか。――待て、じゃあ俺もか。
「さて、これで移動できるようになったものの、ここが本当にダンジョンだとすれば、我らの安全を確保するためにはどういう手段を取るべきか」
キノコごときになにができるというのだ。
匂いだけで人を殺せるモンスターがいる階層で、たかがキノコが生存闘争を勝ち残っていけるとは思えない。
「まずは自分たちがどんなキノコなのかを知るべきじゃないか?」
とりあえずという感じで俺が言うと、サンマルコがうなずいた。だからやめろ、その姿で首を振るな。
「しかり、ではまず互いを食べてみることにしよう」
サンマルコやべえええ。
キノコに適応するの超はええ。
「わたしさっき自分の体食べてみたけどおいしかったよ!」
キャシーからサイコパスの波動を感じる。
「この調子だと口も作ることができそうだ」
サンマルコがぐむむ、とうなりながら体を震わせる。
だからやめろって、卑猥だって。
「よし、できたぞ」
サンマルコの体にギザギザ歯のついた口が生まれた。
そろそろ本当にキノコなのか怪しくなってきた。
「キャシー、体をよこせ」
「はーい」
「あ、じゃ、じゃあ俺も……」
徐々にこいつらの適応スピードについていけなくなった。
「うむ、美味」
美味、じゃねえよ。笑わせんな。
「あ、うまいわ」
不覚である。
「しかしなんの効能もないな。毒キノコではないらしい」
「やっぱわかんの?」
「うむ、ダンジョンの毒キノコは独特な味がするからな」
え? なに? 食ったことあんの? 毒キノコを?
「サンマルコ式薬効調査は体当たりが基本である」
それ百発百中で自分が砕ける体当たりじゃね?
俺、どうしてこいつが死んだのかわかったわ。
「あ、おいやべえ、ゾンビキングこっちにくるぞ」
「む」
「キャハハ、キモーイ!」
すると向こうでふらふらと歩いていたゾンビキングがこちらへ向かってきた。
「逃げようぜ」
「……無理だ」
急にサンマルコが神妙な面持ちで言った。
いやキノコの表情とかわからないから声音で判断したんだけど。
「ゾンビキングは走ることができる。意外と骨がしっかりしている」
ジーザス、骨粗しょう症であって欲しかった。
ゾンビは走っちゃダメって暗黙の了解があるだろ。
「じゃあなんだ、俺たちも走って逃げるしかないってことか」
「ゾンビキングの最高時速は二百キロに達する」
「スポーツカーかよ」
詰み申した。
「大人しく食われるしかないってか……」
「良い人生であった」
サンマルコ諦めるのはええな。
あと人生じゃなくてキノコ生な。
「キャハハ、キモ――」
とか言ってる間にいきなり加速してやってきたゾンビキングにキャシーが食べられた。
ていうかゾンビって食事すんのかよ。
その時点からもうゾンビっぽくねえよ。
「――イ」
「ん?」
キャシーの最後の「キモーイ」が途中で途切れたかと思ったら、どこかから尻切れだった「イ」が聞こえた。
「キャハハ、クサーイ!」
驚くなかれ。
「マジかよ」
「ぬぬ」
キャシーを食ったゾンビキングからキャシーの声がするのだ。
「あれ? なんか身体動くよー!」
そのとき俺とサンマルコは確信した。
「もしかしてさ……」
「うむ……」
「俺たち食われた生物に成り代わるキノコ……?」
「で、あるな」
とんでもキノコだった。
「あ、向こうから別のやつ来るぞ」
「ジャイアントスネークとアメイジングキノコだ」
またキノコかよ。
ちょっと大きくなった同じキノコじゃねえかよ。
「蛇、頼む、蛇」
そして俺は寄ってきたダンジョンモンスターに捕食された。
「ああっ! やっぱりキノコかー!!」
アメイジング。
俺の苦労の絶えないダンジョン放浪記がこのときから始まった。