ニセモノ
またまた思いつきです。
最近、俺が通う学校では奇妙な噂が広がっていた。
俺がそれを知ったのは昼の時だった。
屋上で昼食を食べていると、一緒にいた俺の旧友である高木が言ってきた。
「なあケイ、お前知ってっか?」
ケイと言うのは俺の事だ。
「何をだよ?」
一体何の事かさっぱりだ。
高木は空になったカフェオレのパックをぐしゃっと潰して言う。
「ほら、最近良く聞くじゃん。偽者だよ」
「あぁ、あの都市伝説みたいなのだろ?」
「そう、それだよ」
偽者……たまにそっくりさんとも言うらしい。
俺も詳しくは知らないが、何でも本人とそっくりな奴が本人に成りすまして、偽者が本人と入れ替わると言う話だ。
その後、本人がどうなるかは不明。
偽者はどんどん本人と入れ替わり、その内世界中の人が偽者になるとか何とか……。
すると高木が真剣な面持ちで言う。
「ケイ、お前は偽者って居ると思うか?」
柄にも無く真剣な高木に、俺は少し戸惑いつつ言った。
「何だよ高木、お前は信じてんのか?」
俺が言うと、高木は一息おいて言う。
「ケイ、お前偽者の特徴って知ってるか?」
「え?えぇと……」
俺は記憶を探って思い出す。
確か、偽者は生物では無い。
偽者は本人の記憶を持たない。
「俺が知ってるのはこんくらいだな」
「ああ、それで十分だ」
「で?何でそんな事聞くんだよ」
「……俺さ、見ちゃったんだよ」
俺は唾をゴクリと飲み込む。
「昨日な、忘れ物したから教室に取りに言ったんだよ」
俺は黙って話を聞く。
「そしたら教室で先生が掲示物を貼ってたんだ。そしたらな、先生が足を滑らして、画鋲が入ってる入れ物に顔面から落ちちゃったんだ」
「……は?」
高木は続ける。
「そしたらな?先生は何事も無かったかのように顔に刺さった画鋲を抜いてるんだぜ?」
「……どーせ嘘なんだろ?」
「……残念ながら本当だ」
俺は、今の話は高木の悪ふざけだと思っていた。
だって信じられるか?そんな話聞かせれても信じられる訳が無い。
だが、この後、俺は嫌でも偽者の存在を信じる事となる。
その日、俺は独りで夕食を食べていた。
母さんは急な用事で、二日間は帰って来ない。
まあ、今は三連休中だから問題は無いが。
すると、家のインターホンが鳴る。
俺は玄関まで向かって言う。
「どちら様ですか?」
「ケイ、私よ。お母さんよ」
瞬間、言い様の無い寒気が俺を襲った。
妙に無感情な声、そしてケイと呼び捨てで俺を呼んだ。
母さんは何時も俺の事をケイちゃんと呼んでいた。
少なくとも、呼び捨てで呼ばれた事は俺が知る限り一度も無い。
俺の額から汗が流れる。
俺は、試しに聞いてみた。
「……母さん、父さんは?」
「父さんなら遅れて来るわよ、早く開けて」
それを聞いた瞬間、俺は裏口へと走った。
あれは母さんじゃ無い。
確かに母さんの声だったが、絶対に違う。
母さんは用事が出来て、今頃は隣町のホテルに居る筈だ。
母さんは俺の事を呼び捨てで呼んだりしない。
そして、父さんは、三年前に死んでいるのに。
俺は急いで靴を履いて、裏口から外へ出る。
すると、パリィンとガラスが割れる音がした。
俺は怖くなって、一目散に走り出す。
俺は高木の家に向かっていた。
高木なら俺をかくまってくれる。
この事を高木に話さなければ。
「高木!俺だ!開けてくれ!」
俺は大声で高木を呼ぶ。
すると、ドアが開いたので、俺は急いで中に入りドアを閉めた。
「何だよケイ、そんなに慌てて」
俺が急に入って来て驚いた様子の高木が、俺の顔を覗き込んで言う。
俺は、助かったと安堵の息を漏らす。
すると、聞き覚えのある声がした。
「何だよ高木、誰か来たのか?」
声の主は階段を降りて来るようだ。
そして、声の主の姿を見て、俺の顔は驚愕と絶望に包まれた。
「ああ、客が来たよ。そうだケイ、紹介するな、あいつはケイ。今日からお前の替わりだ」
それを聞いて、俺の視界は黒に染まった。
お疲れ様でした!