SS:ゆいのママはとってもかわいい!
運動会の日、ゆいは龍誠にママの魅力を存分に伝えた。
曰く、
「なんといってもかわいらしい!」
曰く、
「おもわずだきしめたくなっちゃう!」
曰く、
「しかもかっこいい!」
曰く、
「かっこかわいい!」
こんな具合に熱弁していたのだが、龍誠には「かわいい」の部分がどうにも理解できなかった。かっこいいはともかく、かわいいは絶対に違うと思った。しかしゆいは、ママのことを「かわいい」と言って譲らない。
――これは、結衣がゆいに水着をプレゼントした後の出来事である。
「早速ですが、着て見せて頂けませんか?」
「かしこまっ!」
体にタオルを巻いた結衣は、体を拭いたばかりのゆいに水着をプレゼントした。ゆいはワンピースタイプの水着に下から飛び込んで、あっという間に着替えを終える。
「いかがでしょう!?」
「はい、最高です。写真を撮りましょう」
「どうぞ!」
いつのまにかケータイのカメラを構えていた結衣。
ゆいはカメラに笑顔を向けながら、様々なポーズを取る。
「はいっ、いいです最高です。次はその場で一回転してください――連写ァ! 私いま撮影ボタンを連打しています! カシャカシャカシャカシャ、あぁいい! 最高です! あっ、この写真は特に可愛いですっ、待ち受けにしちゃいます!」
ケータイカメラを片手にはしゃぐ結衣を見て、被写体のゆいはむふんと鼻を鳴らす。
「ゆい、次は二人で撮りましょう。ツーショットですツーショット!」
「はい!」
「さぁもっと近付いてください……むむむ、見切れてしまいますね。ゆい、膝の上です、もっと密着しましょう。はい、完璧です。それでは、せーので撮りますよ。せーのっ」
ゆいはインカメに映る結衣の姿を見ながら、にっこりと笑う。
その心は、ママかわいい。
そしてこれは、龍誠と結衣が保育園の前で話をした後のことである。
保育園の影も見えない場所まで歩いた頃、ムッとした表情で口を閉じていた結衣は、スキップしながら隣を歩くゆいに声をかけた。
「……聞いてください」
「なんでしょう!?」
結衣は足を止め、不意にゆいを抱き上げた。ゆいは素直に身を差し出し、ギュッと抱き締められる。
「……どうしましょう」
「むむむ?」
りょーくんがママをいじめているように見えたゆいは、その言葉の意味がよく分からない。
ゆいは首を捻ってママの顔を見ようとしたけれど、今の位置からでは横顔しか見えなかった。
「うぅぅぅぅ〜〜〜」
すりすりと頬を擦り付ける結衣。
「うぅぅぅぅ〜〜〜」
とりあえずマネをするゆい。
「うぅぅ〜、うぅぅぅぅぅ〜〜〜」
すりすりと頬を擦り付ける結衣。
「うぅぅ〜、うぅぅぅぅぅ〜〜〜」
やっぱりマネするゆい。
「うぅぅ! うぅぅうぅ! うぅ〜〜〜!」
すりすりと頬を擦り付ける結衣。
「うー! うぅぅー!」
ちょっと楽しくなってきたゆい。
「はい、満足です。ありがとうございました」
「どういたしまして!」
ゆいを降ろしたあと手を繋いで、再び歩き始めた結衣。ふと反対の手を頬に当てて、問いかける。
「少しやり過ぎたかもしれません。大丈夫でしたか?」
「だいじょうぶ!」
「安心しました。ゆいの頬はモチモチでスベスベですね」
「もちすべ!」
「はい、もちすべです」
三歩あるいて、
「あの人きらいです」
「きらい!」
また三歩あるいて、
「……ですが、私に何かあったら、ゆいのことを見てくれるそうです」
「めっ!」
クイッと結衣の手を引っ張るゆい。
「ずっといっしょ!」
「……ゆい!」
再びゆいを抱き上げた結衣。
「本当に良い子に育ってくれました! ママはゆいが大好きです!」
「あたしもママだいすき!」
「うぅぅぅ〜〜〜〜」
「うぅぅぅ〜〜〜〜」
ゆいのママはとっても頼りになる、かっこいいママだ。だけど、たまにこうなる。するとゆいは素直に身を差し出して、子供みたいなことをするママのマネをしながら、かわいいと思うのだった。
有名な言葉がある。
子供は、親を映す鏡であるそうだ。
いつも元気にみさきを引っ張っている戸崎ゆいは、他でもない戸崎結衣の娘なのである。
例えそこに、血の繋がりなど無くとも。




