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人生ゲームを作った日(5)

 * 5日目 *


 朝だ、朝になった。

 いよいよ残り二日。あと二回の朝を迎えて、その後の夜がタイムリミット。


 進捗は、ゼロのままだ。


 今日明日は休日。ニート同然の俺には無関係だが、普通の人からすればラストスパートを仕掛ける大チャンスだ。


 そのチャンスの上で、俺は、パソコンを開くことすら出来なかった。


「…………」


 考えている。ずっと考えている。しかし何も思い浮かばない。解決の糸口すらも掴めない。


 だから俺は、現実逃避――みさき観察をしていた。


 みさきは嬉しそうに算数ドリルを攻略している。わざわざノートを使って、丁寧に問題を書き写しながら解いていた。


 ここ数日、みさきは本当に楽しそうだ。

 パッと見では、いつも口を一の字にしている。だが慣れれば微妙な違いが分かる。ゆいちゃんとの出会いは、みさきに良い影響を与えたらしい。


 それを嬉しく思うと同時に、情けない感情も胸を叩く。


 ……差を付けられちまったな。


 みさきを育てるどころか、みさきの方が賢くなっている。子供の吸収力とか、内容の難しさとか、いろいろ差し引いても、俺はみさきにボロ負け状態だ。


 ……ほんと、情けねぇ。


 ダメだ、どんどんネガティブになる。


「りょーくん」

「……お、どうした?」


 軽く唇を噛んで、返事をする。

 分からない問題でもあったのだろうか。


「……なに?」


 みさきは算数ドリルを指差して言った。

 

 5 = 3 + □


 みさきの小さな指先には、簡単な算数の問題が記されていた。


「……さん、たす、しかく?」

「これは、四角に何が入るかって問題だな」

「……んー?」


 首を傾けるみさき。

 かわいいなチクショウ。


「なんでもいい。好きなもの入れてみろ」

「……りょーくん?」


 かわいいなチクショウ!!!


「俺は入らねぇかな」

「……んー?」


 なんで、と言いたそうな目。

 俺は、少し困ってしまった。ヒトは数字じゃねぇんだから、足したり引いたり出来ないに決まってる。だがみさきは、そんな当たり前のことも――


 待て、待てよ。

 ヒトを足したり引いたりしたらダメだと?


 そんなの誰が決めたんだよ。

 ……そんなルール、どこにもねぇだろ。


 そうだ、そうだよ。

 ルールを作ればいいだけじゃねぇか。プレイヤもルーレットも何もかも、□に捻じ込めばいいだけだ。


 いける、これならゲームを作れる!


「……愛してるぜ、みさきぃ!」


 勢いでみさきの両脇を掴んで持ち上げる。

 急なことでジタバタ驚いてるが、そんなこと関係ねぇ……っと、あぶねっ、天井にぶつけるところだった。


「……んー!」


 あはは、本気で嫌そうだな。

 まあ、あんまし好かれてねぇからな。


「悪りぃなみさき、興奮しちまった」


 そっと下ろす。みさきはサササっと離れて、部屋の隅っこで丸くなった。


 ……余計に嫌われちまったか?


 苦笑して、悩んだ末にパソコンを開く。


「……」


 目を閉じる。

 直前に思い浮かんだ考えを整理する。


 プログラムで出来るのは計算だけ。

 ルールを決めて、数字を操るだけ。


 ルールってなんだ?

 なんでもいい。自分で決めるものだ。


 ……残り二日。いけるか?


 ロリコンはクソ生意気な顔で言った。僕は二日で終わらせた。あの変態野郎に出来て、俺に出来ない理由は無い。


 俺にはステータスが足りてない。経験も実績も何もない。今頭にあることが正しい保証なんて、どこにもない。不利な勝負だ。客観的に考えて、勝算はゼロに近い。


 上等だ、やってるよ。


 ルールを自分で決めるなんて、俺がずっとやってきたことじゃねぇか。クズにはクズなりの経験値がある。舐めんじゃねぇぞ!

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