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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第6章 奪取
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6-4.策動

「難癖だな、これは」

 惑星連邦の発した声明に、ハドソン少佐は改めて苦笑を洩らした。

「行方不明者を我々に探させるつもりか」


 オオシマ中尉も苦く笑う。

「まあ、ミス・ホワイトの居場所は向こうにも判っているわけですが」


「何か考えがありそうだな」


 ハドソン少佐は中尉へ眼を向けた。その眼を、オオシマ中尉が見返す。


「連中に、くれてやっては?」


「ほう?」

 ハドソン少佐が片眉を躍らせる。


「彼女は例の“駒”2人と連れ合っていたわけでしょう」

 ジャックとスカーフェイス、2人のことを中尉は示した。

「連中が取り返しに来るとは思いませんか?」


 ハドソン少佐が眼を細める。

「彼女をエサにおびき出すと?」


「民間人を巻き込むのは気が引けますが」

 少佐の心中を代弁するかのようにオオシマ中尉。

「まあ、価値は充分あるでしょう」


「彼女の身が連邦に渡ると知って、連中が安心するとしたら?」


「少佐のほうがよくご存知でしょう」

 オオシマ中尉は片頬を釣り上げた。

「連邦は全面攻撃の口実を欲しがってる。我々どころか、連邦の方こそが彼女を謀殺する可能性ってのは、連中も充分に考え付くんじゃないですか?」


 ハドソン少佐が、声を低めた。

「確かにな」


 ◇


「“テセウス解放戦線”が声明を発表しました」


 領事執務室のアンナの目前、領事にスタッフが耳打ちした。領事が頷いて、アンナたちを示す。スタッフがアンナに向き直った。


「“テセウス解放戦線”が声明を発表しました。“保護したジャーナリストを引き渡す”とのことです。場所は軌道エレヴェータ“クライトン”、期日は5日後」


 やや遅れて、アンナの“ロッド”も声明を捉えた。視界の片隅、声明文を映し出す。


 ――ジャーナリズムを阻害する意志は“テセウス解放戦線”にはなく、むしろ真実を広く市民に届けることこそ本意である。ゆえに、決起時点で身柄を保護したジャーナリストについては、本人の希望に応じて“惑星連邦”への帰還を援助するにやぶさかではない。


 予想を超えたスピードでの反応。アンナは安堵の溜め息を洩らした。が、正面、領事の表情は冴えない。スタッフの声が続く。


「見返りとして、“グリソム・インポート”、“ベルナール・エクスプレス”に対する制裁を解除するよう求めております」


 領事がはっきり溜め息を付いた。


「ご提案の件に対しては、対応させていただきました。以後は上からの指示を仰ぐことになります」


「ミス・ローランドにミズ・ヴォルコワ」

 領事が何気ないふりで問いを向けた。

「宿はどちらに?」


「いえ、まだ決めていません」

 答えたのはアンナだった。

「こちらに直行したもので」


「では、」

 領事がスタッフに頷きを投げた。

「部屋を用意させましょう。外は危険です」


 確かに、いわゆる“地球人”の正体が割れたら穏やかで済まない情勢ではある。

 ただこの特別扱い、アンナは引っかかるものを覚えた。覚えたが、口には出さない。


「別室にご案内しますので、おくつろぎを」


「ありがとうございます」

 副領事とスタッフに礼を返しつつ、アンナは執務室を出た。


 ◇


「忠告ですが、」

 イリーナが口を開いたのは、口実を設けて入り込んだトイレの中。

「彼ら、あれはミス・ホワイトを駒としてしか見てませんね。黙ってても無事に返してくれるなんて思わない方がいいでしょう」

「辛口ね」


 そう言うアンナも意外そうな顔はしていない。


「探偵なんてやってると、」

 イリーナは後から入ってきたスタッフを見て声をひそめつつ、

「人の表情一つ取っても汚いとこばかり見えて来ますからね」


「実は私も同意見」

 アンナは小さく頷きを返す。

「マリィの名前を引っ張り出せたとこまではうまく行ったと思うけど」


 下手をすれば黙殺されて終わり、という可能性もあり得なくはなかった。それだけに、連邦とゲリラを土俵に上げたのは一つの成果と言えば言える。

 ただし、それをもって終着点とするかどうかはまた別の話になる。


「ま、指くわえて見てるつもりもないけどね」

 アンナはイリーナに向かって声を低めた。

「“彼ら”にコンタクトを取るわよ」


 ◇


「“クライトン・シティ”ときたか」


 ジャックが口の端に呟きを乗せた。視界には、“テセウス解放戦線”の声明がある。

 マリィを含め、連邦の名指ししたジャーナリストがまとめて身柄を引き渡されるところまでは予想通り。ただ、軌道エレヴェータを持つ3都市のうち、“ハミルトン”、“サイモン”のいずれかなら、陸路で行ける。が、星都“クライトン”となると第1大陸“コウ”――すなわち、海を越える必要が出てくる。


「5日後、ね」

 ロジャーが視界に地図を広げた。

「お姫様は空路で運ぶことになるわな」


「空港に潜り込むか?」

 腕を組んだエミリィは、ロジャーに言葉を向けた。


「非常事態宣言か、戒厳令か……」

 ロジャーは頬を掻いた。

「条件付きでも、空港に出入りできるようになりゃな。どうせお前さん達2人は、」

 と、ジャックとスカーフェイスに顎を向ける。

「“メルカート”に追われてる。空港に入るのも海を渡るのも同じだよな」


 ジャックの表情に怪訝なものが浮かぶ。

「同じ?」


「まあ、」

 ロジャーが人の悪い笑みを浮かべた。

「ここは一つ、ツテを頼るとするさ」


「まさか、」

 ジャックは眉をひそめた。

「巻き込むつもりじゃないだろうな」


「何を今さら」

 ロジャーは肩を一つすくめて、

「“ネイ”、アブドゥッラーにコールだ」


 ジャックは、額に手を当てて天井を仰いだ。構わずロジャーが話を続ける。


「――ああアブドゥッラーか。急で済まんがね、ちょっと手を貸しちゃもらえないか?」


『いつもの手か』

 アブドゥッラーは開口一番、

『こっちの都合なんぞお構いなしだな。ここがどうなっとるか知らんわけじゃあるまい』


「承知も承知」

 ロジャーは慣れた調子で、

「こっちァ今“ハミルトン・シティ”の近くだ」


『何を考えとる?』


「シティに忍び込みたくてね」

 ロジャーはジャックに視線を投げた。

「ジャックが女の尻追っかけてんだ」


『おいおい、何の冗談だ?』

 アブドゥッラーの声に懐疑が乗る。


「いやアブドゥッラー、俺だ」

 たまりかねたジャックが回線へ割り込んだ。

「シティに潜入したい。手を貸してくれ」


『……長生きはするもんだな』

 アブドゥッラーに小さく、感嘆ともつかぬ呟き。

『“メルカート”から賞金がかかったのは知ってる。何をやった?』


「難癖だよ」

 ジャックはスカーフェイスへ眼を向けるが、言葉には出さない。

「アブドゥッラー、頼む。あんたの力が必要だ」


『なるほど、切羽詰まっとるのは解った――今どこだ?』

「郊外だ。“ウォレス・サルーン”」

『シティのどこへ潜り込むって?』

「空港。もっと正確に言えば、その中のチャータ機か輸送機だ」


『賞金首が? 今から? “ハミルトン・エアポート”へ? 無茶言いやがる』

 言いつつも、考えるような間が空いた。

『まあ全く希望がないわけじゃない。ちょっと待て』


 ジャックはロジャーと眼を見合わせた。


『――空港に入ってからはそっちで何とかしろ。空港まではなんとかツテが使えるかも知れん』


「助かる」

 ジャックが本心から礼を述べた。


『安心するのはまだ早いぞ』

 人の悪い、笑みを含んだ声。

『冷凍食品にでも化けてもらうことになるからな』


 ◇◇◇


「大胆に出ましたな」


 “ハミルトン・シティ”庁舎、市長執務室に入ったヘンダーソン大佐は感心の色を声に乗せた。


「当然の手だ」

 執務机のハーヴィック中将は平然と指を組んだ。

「連邦側としては揺さぶりをかけてきたつもりだろうが、逆手に取るまでのことだ」


 ジャーナリストを解放する旨“テセウス解放戦線”が公表した声明のその陰で、“惑星連邦”行政府へ秘密裏に送られたメッセージがある。新たに“テセウス解放戦線”指導者の座に就いたキリル・ハーヴィック中将が直々に起草したそれは、“テセウス解放戦線指導者“K.H.”の名で発せられた。


 いわく――主要都市制圧とともに拘束した“テセウス”総領事を始めとする政府関係者の身柄と引き換えに、指定する人物を“テセウス解放戦線”側へ引き渡すこと。


「しかし、」

 ヘンダーソン大佐は苦笑を隠さない。

「ご自分をダシになさるとは」


 引き渡しを求める、その筆頭には他ならぬハーヴィック中将の名前が挙げてある。


「単純な話だ」

 中将の言葉に特段の高揚はない。

「連邦は政府関係者を引き上げたい。我々としてはタダでくれてやる道理はない」


「ただし取り引きに応じる相手でもない」

 後の言葉を継いだヘンダーソン大佐が口の端を苦く歪める。

「故に無理難題ですか」


「いずれ成立しない取り引きなら、形にこだわることはない。何も眼の前の果実に手を伸ばすことが最善とは限らん」


 “惑星連邦”側の切り札だったはずの“フォックス”・ハーヴィック中将は、これで“ゲリラの内通者だった”ことになる――過去に遡って。その衝撃は“惑星連邦”内部に疑心暗鬼の種を蒔く。“あの”ハーヴィック中将ですら“最初から”ゲリラだった、ならば他に同類がどれだけ潜んでいることか、と。


「辛辣でいらっしゃる」

 大佐に、苦笑を通り越して楽しげな笑みが踊る。


「貴官が言う科白か」


 突き返された言葉に、ヘンダーソン大佐は片頬を吊り上げた。


「なまじ戦闘が停止してしまえば、“ゲリラ狩り”でもやり出しかねませんな」


 そしてジャーナリストの解放が宣された以上、その結果を見届けるまで双方とも無闇と戦火を交えるわけには行かない。事実上は一時停戦に突入したも同然の状態だった。


「これからだ」

 ハーヴィック中将が静かに指を組んだ。

「やるからには勝ちに行く」

著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://ncode.syosetu.com/n9395da/

無断転載は固く禁じます。

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