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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第6章 奪取
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6-1.決意

『惑星“テセウス”、現在の情勢です。独立派ゲリラ“テセウス解放戦線”は目下、主要都市と軌道エレヴェータ3基を勢力下に収めたと発表しており……』


『……現地の駐在員、旅行者など、多数の民間人が拘束または足止めを受けていると見られます。“惑星連邦”政府は声明で、“民間人の安全を最優先に対応する”と……』


 ◇◇◇


『アンナ、ミス・マリィからコールです』


 ナヴィゲータ“ロッド”がアンナ・ローランドへ告げた。

 第2大陸“リュウ”は“大陸横断道”、“ハミルトン・シティ”まであと2日という道程。“テセウス”各都市の情勢が荒れる中、アンナは空路をあきらめて陸路を進みつつある。


「マリィから!?」


 アンナは運転席のイリーナ・ヴォルコワと顔を見合わせた。“アンバー・タウン”以来の接触――この間、各地の暴動騒ぎを耳にしている身としては気色ばむのも無理はない。


『――あ、いま切れました』


 この間、たった1コール。


「え!?」


 呆けたような、アンナの声。かけ直してくるかと期待することしばし、しかし報われることはなかった。


「何よ、期待させて。どこから?」


『えー、』

 コールの発信データを、“ロッド”が要約する。

『“ハミルトン・シティ”、軌道エレヴェータからです』


「軌道エレヴェータ!?」


 聞いたアンナが思わず声を上げた。情勢が荒れるどころではない。独立派ゲリラに制圧されたという、まさにその渦中を発信データが指している。それが意味するところを、アンナは察した。

 つまりこの1コール、マリィが“ゲリラに捕まった”と知らせてきたに等しい。


「あっちゃー……」

 アンナは額に手を当てた。

「あのコだけでもとは思ったんだけどなあ」


「連邦に届け出てみちゃどうです?」

 イリーナが案を呈する。


「まあ、どうせお役所仕事だとは思うけど……」


「この際、猫の手でも借りたいってのは事実でしょう」

 イリーナの指摘は正鵠を射ていた。

「連邦だっていいとこ見せないと立場がないし。“民間人解放”ってのはいいエサになると思いませんか?」


「その通りね。近くで連邦領事館って……」

「“シールズ・シティ”にありますね。ここから2時間てとこですか」

「回線、繋がるかなあ……」


 ◇◇◇


〈ロジャー、〉

 “ネイ”がロジャーを呼んだ。

〈ジャックからコールよ〉


〈繋げ――よう色男、道中たっぷり楽しんだか?〉

『今どこだ』


 開口一番、ジャックから問い。気のせいどころでなく、声が低い。冗談の通じないレヴェル――経験からロジャーはそう察した。


『こっちは今“ウォレス・サルーン”てドライヴ・インだ』

 淡然と告げるジャックに凄み。

『力を貸せ――今すぐ』


「今すぐ……ってお前、」

 ロジャーは小さく笑ってみせた。

「何に?」


『喜べ、相手がの格が上がったぜ。今どこだ』


「格上げ、ね。そいつァ楽しそうじゃねぇの」

 言葉とは裏腹に、ロジャーは不吉な予感を覚えた。

「その前に教えろ。相手ってのはまさか……」


『独立派ゲリラだ』


 エミリィが横から囁いて一言、


「訊いたぜ、覚悟はあるかってな」


「へ、派手になってきたねェ」

 片頬に、ロジャーは歪んだ笑みを浮かべた。

「まさか敵中からお姫様を救い出す、てんじゃあるまいな」


『そんなところだ』

「開き直りやがったよ、おい」


 ロジャーは、小さく舌を出した。


 ◇


「聞いとくことがある」


 ロジャーとの通話を切ったジャックが、正面に座るエリックへ告げた。

 “大陸横断道”上、“ハミルトン・シティ”から東へ100キロほどを隔てたドライヴ・イン“ウォレス・サルーン”――安宿の、その一室。


「答えられることならな」


 安物のソファの上で、エリックが指を組む。ジャックがそこへ問いを投げた。


「お前、命令で動いてたと言ったな?」


「指示を受けて目標を殺してた」

 そこでエリックは親指を自分に向けた。

「自分の情報と引き換えにな」


「記憶がないってのもおかしな話だ」


「じゃ何だ?」

 エリックの声が険を帯びる。

「頭ン中真っ白なままで満足してろとでも?」


「いや――そうじゃなくて、」

 ジャックが思わず掌をかざした。

「操られてるとは思わなかったのか? そいつの名前は?」


「どっちにしろ手がかりが欲しかった」

 答えてエリックの声に棘。

「ケヴィン・ヘンダーソン大佐――知ってるか?」


「……まあな」


 言葉を詰まらせかけて、ジャックは一言だけを吐き出した。実のところ、知っているどころの話ではなかった。因縁の“自由と独立”壊滅作戦――ベン・サラディン暗殺作戦と言い換えてもいい――、その指揮系統の最上位にその名がある。


「そいつが何か?」

 エリックが問いを投げる。


「何で離反した?」

 投げ返してジャック。


「訊いたのはこっちだぞ」


「――いつか殺してやろうと思ってるヤツだ」

 眼に殺気が宿る、そのさまがジャック自身にも判った。

「これでいいか?」


 エリックは頷いて、

「一向に俺がの記憶が戻らないからだ。命令じゃお前を殺れって話だったが、逆にお前と話せば何か掴めると踏んだ。そもそもお前は何者なんだ? なぜ俺と同じ顔をしてる?」


「偶然じゃなさそうだな」

「答えになってないぞ」

「言ったろう、マリィが無事なら話すってな」


「つまり、」

 エリックが眼を細める。

「今は話す気がないってことか」


「そうだ」

 ジャックは決然と言い放った。

「全ては彼女を取り返してからだ」


 ◇◇◇


「ウチの記者が捕まったの」


 アンナは、連邦領事館に詰めかけた報道陣の中から“コスモポリタン・ニュース・ダイジェスト”の記者証を見付け出した。記者の腕を掴み、自らの身分証を突き付ける。

 

「協力して」


「“捕まった”って……?」

 当惑気味に記者が問う。


「ゲリラによ。“テセウス解放戦線”」

 アンナは目配せひとつ、

「いいネタにならない?」


 相手に答える暇も与えず、記者を最前線――窓口の行列に割り込ませる。


「失礼!」

 アンナは語気も鋭く言い放つ。

「急を要する事案です!」


「それはあなただけでは……」


 言いさした窓口の担当者に皆まで言わせず、アンナはまくし立てた。


「民間人の、しかもジャーナリストが、ゲリラに拘束されています。民間人の安全を図るだけの話じゃありません。ゲリラ連中の道義的な正当性に異を唱えるきっかけにできるんです。連邦の利益にかなってる話じゃありませんか!?」

「ちょっと待ってください。正式な手続きを……」

「待ってたら“テセウス”が独立しちゃうわよ!」


 アンナの視界、窓口の奥――恰幅のいい女が通りすがった。


「領事! 領事!!」

 相手の身分も確かめず、アンナは声を上げる。

「ゲリラはジャーナリズムを敵に回そうとしています! 利用せずに済ませるんですか!?」


 そこで女が振り向いた。


 ◇


 アンナは領事の執務室へ通された。傍らではイリーナと記者の2人が、感心したように室内を眺めている。

 待たされること半時間、副領事を名乗る女が部屋に現れた。


「副領事のヒルシャーです」

 テーブル越しに手を差し出す。アンナはその手を握った。

「独立派ゲリラがジャーナリストを人質に取ったと聞きましたが」


「拘束です。副領事」

 アンナが、携帯端末をテーブルのディスプレイに繋いだ。プライヴェートのポートレイトを表示させる。


「マリィ・ホワイト、」

 ポートレイト、マリィの顔が拡大された。

「“コスモポリタン・ニュース・ダイジェスト”の“記者”です」


「拘束されている、と信じる根拠は?」


「彼女が“取材”中、最後によこした通信の記録です」

 ディスプレイに重なって、マリィからの最後のコール記録。

「この時刻、この場所で起こっていたことはご存知でしょう?」


 場所は“ハミルトン・シティ”の軌道エレヴェータ。時刻は“テセウス解放戦線”がシティを制圧したとされる、その直前。


「これが彼女――ミス・ホワイトが拘束されている証拠になると?」


 副領事が眉をひそめた。


「こうお考えになりませんか――“テセウス解放戦線”には、彼女の無事を証明する義務がある、と?」

 アンナは、人の悪い笑みを作った。

「連邦は民間人の安全を優先していることをアピールできる。ゲリラ側が彼女を粗末に扱えば、民意は彼らに付いていかない――連邦にとって損はないと思いますけど」


 副領事は、慎重な面持ちで頷いた。眼をディスプレイに据えたまま、傍らのスタッフに声を向ける。


「地球へメッセージを。宛先は行政総長、重要度トリプルA、大至急」

 それから、副領事はアンナへ眼を向けた。

「我々としても全力を傾けましょう」





著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://ncode.syosetu.com/n9395da/

無断転載は固く禁じます。

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