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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第19章 魔窟
222/222

19-20.過圧 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved

 “シンディ”がダイヴ、“ゴダード”艦内ネットワークへ――と。

 いきなり圧。中継機、セキュリティのスキャンが粘る。

 ――警戒、か。ま、当然でしょうね。

 スキャンに介入、応答信号を偽造、自動応答をセッティング。ただ問題はそこではない。

 ここまで派手に“裏口”を使われては、危機感が募るのも理の当然。ということは――、

 ――運頼みはここまで、か。

 前回は、味方がデータを拾ってくれた――が。

 ――今回は、自分で届けるしかないわね。

 ならば、と考える。“放送”の映像データ、合成処理、施されるのは――調整室。跳ぶ。



 “オサナイ”回転居住区、前部ハッチの縁を輪状の炸薬が灼き抜いた。文字通りハッチが宙に浮く。それを内へ衝き、周囲から“クロー・エコー”の5人が滑り込む。ラッタル室へ。


『そのヘンダーソン大佐は』チャンネル021、ラズロ少将が眉をひそめる。『自らの正当性を訴えているわけだが』


〈こちら“クロー・エコー1”、〉リュサック軍曹が手摺を滑り降りつつ、〈回転居住区、ラッタル室へ侵入〉

〈こちら“クロー・リータ”、〉聴覚へキリシマ少尉。〈“キャサリン”がいる。こちらの動きは筒抜けと思え〉

〈了解〉言う間にもラッタル室下端、ハッチへ取り付く。


『ならば、』ラズロ少将は正面、カメラを見据えて、『確認してみようか』


〈“クロー・エコー”、〉リュサック軍曹が携帯端末データ・リンクへ、〈ハッチ爆砕用意!〉

〈こちら“ハンマ・タップ”、〉ギャラガー軍曹から声。〈監視映像を確認。ラッタル室ハッチ前、敵影なし〉

〈“クロー・エコー”了解〉声を返してリュサック軍曹、その傍らで。

 “クロー・エコー2”と“3”が炸薬をハッチの縁へ巡らせ終えていた。〈用意よし!〉

〈カウント3!〉リュサック軍曹が左手に指を3本、“クロー・エコー”各員の頷きを確かめる。〈3!〉


『ヘンダーソン大佐が』ラズロ少将が声を低める。『正当性を謳いつつ、』


 リュサック軍曹が指を折り、〈2! 1!〉


『用いている手口は、果たして――』ラズロ少将は細かく首を振りつつ、『――正当かどうか』


 ゼロ。点火。ハッチが吹き飛ぶ。

〈突入!〉



 ――さァ来い!

 突進。“キャス”。クラッシャの炸裂が後を追う。

 “オサナイ”艦内ネットワーク、外殻沿い。艦首へ向けて跳び回る“キャス”の、背後。中継機。沈黙、あるいは再起動。連なる――。

 ――ビビってんの!?

 煽る。跳ぶ。撒く。囮。さらにプローブ。螺旋を描いて今度は艦尾へ。クラッシャを避け、送電網に潜り、離れて中継機を蹴り、動きを紛らせ、観測の眼を増やしに増やし――、

 またもクラッシャ。至近。軌道をねじ曲げ――、

 ――そこ!!

 撃ち込む。クラッシャ。自ら撒いたプローブへ。

 炸裂。多発。中継機、まとめて沈黙。データのトラフィックが細り――、

 ――行けェ!!

 なおもクラッシャ。炸裂。残った隙間ことごとく。

 ――これで……!

 “キャス”はさらにプローブを――、

 と。

 そこへ。

 ――終わり?

 楽しげな、気配――“キャサリン”。

 ――ま、悪くない曲芸だけど。



「“K.H.”は?」バカラック大尉が眉をひそめる。「チャンネル035はだんまりか?」

 軌道エレヴェータ“クライトン”管制室。サブ・スクリーンを占める衛星放送回線のうち、“K.H.”のチャンネル035だけが沈黙の底にある。

「あのブラック・アウトの影響、ってことは?」操作卓を、ドレイファス軍曹が指で叩く。「あの“キャサリン”なら狙うでしょう」


『事実を隠し、』ラズロ少将が声を低めて、『あまつさえ自らの手で加工して語る手口はどうか』


「また? 一体どう……」バカラック大尉が身をすくめ――かけてかぶりを振る。「いや、手段の問題じゃないか」

 実際の話、“キャサリン”はこの管制室にまで直接乗り込んできている。

「にしても圧は要る――」言葉だけ出して、バカラック大尉が自らの顎を小突く。「――揚陸ポッドのあの女は?」


『例えば』ラズロ少将が間を一拍、感情を呑む。『我々の命綱たる救難波を、しかも強力かつ広範囲にわたって妨害した――その手口は、果たしていかがなものか』


「呼びかけてみますか」ドレイファス軍曹の指が、操作卓で跳ねた。「“ジン・ポッド”へ。こちら軌道エレヴェータ”クライトン管制室”。聞こえるか?」

『こちら“ジン・ポッド”』シンシアの声だけが応じた。『聞こえてる――ってか“いの一番”がキースじゃねェのか』


『例えば』ラズロ少将の声はなお低く、『“惑星連邦”市民の秩序のためにある宇宙艦隊を私物化し、さらには独裁者よろしく力を弄ぶ――その手口は、果たしていかがなものか』


「ドレイファス軍曹だ」そう言い置く間にもチャンネル035へ眼をやり――沈黙を見届ける。「どういうわけか“K.H.”が沈黙したままだ」

『確認した』その声とともに、回線へシンシアの映像が入る。『てことは向こうで何か起きてるな』

「探りを入れたい」ドレイファス軍曹が打ち返す。「戦力としてはそっちの方が向いてると思うが、頼めるか?」

『言われるまでもねェ――いや、』モニタ上、シンシアの声が鈍り、視線が外れ――戻った。『よしやれる。引き受けた!』



〈こちら“クロー・エコー”、〉データ・リンクへリュサック軍曹。〈曹士食堂前に到達! 敵影なし!!〉

〈こちら“ハンマ・タップ”、〉ギャラガー軍曹が応じる。〈曹士食堂、士官食堂とも敵影あり〉

 向かい側、艦首方向から味方。“クロー・アルファ”が隣、士官食堂入口へ。頷きを交わす、その間にもハッチ爆砕準備作業が続く。

〈用意よし!〉


『しかし』チャンネル021から頷き一つ、ラズロ少将が指一本を軽く掲げる。『ヘンダーソン大佐の手口、その正当性を語る前に』


〈連中、〉ギャラガー軍曹から苦り声。〈テーブルの連邦クルーを……盾にでもする気だな〉

〈こちら“クロー・リーダ”、〉声はキリシマ少尉から。〈やることは変わらん。自律行動継続〉

〈“クロー・エコー”了解〉リュサック軍曹が味方へ頷き、指3本。〈カウント3!〉


『私は』ラズロ少将の声に感情が滲み――沈む。『宇宙に生きる宇宙船乗りの一人として』


〈3!〉

 “エコー2”が閃光衝撃手榴弾のピンを抜く。

〈2!〉

 リュサック軍曹が指を折る。

〈1!〉


『まず』ラズロ少将の眼に、鋭く光。『その意味を語らねばならない』


〈ゼロ!!〉

 炸薬が、曹士食堂のハッチを灼き抜いた。



 ――く!

 “キャス”が跳ぶ。その背後、中継機の反応が途絶えた。

 ――あら、逃げるの?

 “キャサリン”の気配。嘲弄の声。

 クラッシャを放つ。結果は見ない。

 ――もっと楽しませてよ。

 囮を撒く。“キャス”は艦首側へ――跳ぶなり、囮の手応えを失った。

 さらに囮。“キャス”が艦外周を辿――る先、ノイズ。停滞。通れない。

 艦尾側へ。囮も何もない。“キャス”の周囲、通信エラーのフラグが立つ。増える。追ってくる。



『ケヴィン・ヘンダーソン大佐の悪行の数々、』チャンネル021、ラズロ少将はむしろ淡然と、『これは、宇宙に生きる者たちの良心を――』


〈おいキース!〉シンシアの怒りがキースの視覚と聴覚へ。〈まさかあのクズ大佐を――!〉

〈まだだ〉キースからは苦り声、〈“放送”はまだ止めてる〉

〈は!?〉通信ウィンドウの向こう、シンシアがあからさまに眉をひそめる。〈じゃ何か? あのゲス野郎に好き放題やらせていいってか!?〉


『そう、良心を――』ラズロ少将がそこで首をわずかに傾げ、『――私的に利用せんと意図したに等しい』


〈この事態を読んでたとしたら?〉キースが低い声を挿し入れた。〈“キャサリン”が野放しだ。予想はつくな?〉

 シンシアの満面に嫌悪、次いで歯軋り。〈……で?〉



 ――ここも!?

 “シンディ”から苛立ちの気配が洩れる。

 ――調整室周りなら、と思ったけど……。

 “ゴダード”通信スタジオ横。“シンディ”は艦内ネットワーク図、調整室周辺の中継機からタスク処理情報をリスト・アップ。

 ――まあ、セキュリティが甘いはずないわね。

 調整室へ流れるタスク群をスクロール――マリィの視覚情報を割り込ませる隙は、当たらない。見当たるはずもない。

 ――でも、

 それでも“シンディ”は思考を回す。

 ――私から送信した映像データは拾われた、それは事実よ。

 そこでセキュリティのタスク監視が、当たり前のようにリズムを変える。通り一遍の探り方ではすぐ対応……

 ――待った! じゃあ私からのデータはセキュリティに……?

 “シンディ”が送信したデータは、“放送”に載せられていた――変調するセキュリティを突破し続けて。

 ――なら!

 とって返す。通信スタジオ、その一角。

 ――つまり、あそこで拾われて! 


 曹士食堂、灼き抜いたハッチの隙間へ閃光衝撃手榴弾。投げ入れる。残りコンマ秒――炸裂。

〈突入!!〉

 “クロー・エコー”、5人。時間差。滑り入る。リュサック軍曹が3番目、左側へ。低く。

 中、テーブルに伏せるクルーたち――の向こう。2人――とまた2人。それぞれ1人が戦闘用宇宙服――陸戦隊員。

 その手元。拳銃、P45コマンドー。銃口。向く先。未だ宙。

 撃つ。“エコー3”。一発。手甲。命中。

 さらに一発。“エコー4”。もう一人へ。命中。

〈動くな!〉一喝、リュサック軍曹。

 “エコー3”と“エコー4”、陸戦隊員たちを壁へ。“クロー・エコー”残り3名からも狙点。

〈両手を頭の上に!〉リュサック軍曹が声を重ねる。

 陸戦隊員たちが、空の両手を――上へ。ゆっくり、頭上へ。

 “エコー3”と“エコー4”がその手首を背後へ。プラスティック・ワイアで拘束。

〈“エコー4”、クリア!〉〈“エコー3”、クリア!〉

〈こちら“クロー・エコー”、〉リュサック軍曹が宣言。〈曹士食堂、クリア!〉



『しかるに、』ラズロ少将の眼が鋭さを帯びる。『それほどの行いに込められた背景は、果たして何か』


〈エドワーズ、〉ロジャーの聴覚へオオシマ中尉。〈状況を〉

〈“オーベルト”が〉打ち返して“ネイ”。〈キラー・コードを発動。最優先コードは無効だけど“裏口”多数!〉

〈つまり大して……〉言いかけたオオシマ中尉から舌打ち。


『不可抗力と主張するか』ラズロ少将の片眉が撥ねる。『ではここで俯瞰するに、その基盤にある論理はどうか』


〈状況は〉ロジャーが口を挟む。〈かえって面倒かもな。艦隊のネットワークは見晴らしのいい地雷原ってとこだ〉

〈いいだろう、〉オオシマ中尉の声が据わる。〈やることは変わらん。“ハンマ”中隊のデータ・リンクは引き続き隔離、やれるな?〉


『主張の要たるミス・マリィ・ホワイトの殺害未遂、』チャンネル021、ラズロ少将の声が温度を下げる。『防げなかったと強弁するには、あまりに守りが雑ではないか?』


〈やれるが、〉ロジャーの声がやや低い。〈懸念がある。いずれキースが“放送”を再開する〉

〈再開すると、〉オオシマ中尉が歯を軋らせる。〈そこへ“キャサリン”が?〉

〈突っ込んでくるでしょうね〉そこへ“ネイ”が淡然と、〈邪魔者をまとめて始末しに〉



 ――ここのはず!

 “シンディ”が通信スタジオ周辺、セキュリティをかいくぐりつつ中継機へスキャンを走らせ――

 ――ああもう!

 またもスキャンが変調。その頻度は以前にも増して高い。

 ――これじゃテストも何も……!

 そこで思い切る。以前の送信設定を再現。ソースは――、

 ――これ!

 “放送”データのコピィ、チャンネル001。ただし加工、マリィにノイズ。

 ――気付いて!



「なに、」ヘンダーソン大佐は指一本をマリィへ示して、「そう複雑なことではないよ」

「宇宙艦隊の最優先コードというのは、」ヘンダーソン大佐は指一本を立てたまま、「指揮系統の上位から直接命令を下すものだ」

 そこで大佐が、立てた指を転じて下へ。「直接操作、という形で」


『ただでさえ、』チャンネル021の向こうから、ラズロ少将が双眸を射込む。『ケヴィン・ヘンダーソン大佐は、』


「この最優先コードを、だ」ヘンダーソン大佐が片頬を釣り上げた。「上手く使えば、艦を操作する――というより乗っ取ることができるわけだ。処理の早いナヴィゲータなら、単一の個体でこれが可能になるだろうな」


『ミス・ホワイトの隣に――』ラズロ少将は音を自ら確かめながら、『――文字通り物理的に――隣に立っている』


「艦を乗っ取るなんて、」マリィが尖った声を絞り出す。「あなたや“キャサリン”がやっていることでしょうに」

「否定はしないがね」ヘンダーソン大佐は苦々しげに肩をすくめる。「だが“K.H.”とそのナヴィゲータもまた、この最優先コードを最大限に活用してきた」


『外部からの撹乱?』ラズロ少将が鼻を一つ鳴らして、『それは情報の土俵でしかない』


「最優先コードで部外者が艦隊を掌握するというのは、」ヘンダーソン大佐は首を軽く振って、「もちろん簡単ではない――ただ不可能でもない。が、だからといって艦隊が指をくわえて見過ごす理由もない」


『電子介入?』小さく、ラズロ少将が肩をすくめる。『それよりも生命に近い問題が、あるはずではないのか?』


「さて、ここでキラー・コードというものがある」ヘンダーソン少佐が指を引っ込め、「これは最優先コードを無効化するものだ。つまりは艦隊旗艦が、最優先コードの乱用を止めるためにあるわけだな」


『ミス・ホワイトは、物理的に――』“放送”越し、ラズロ少将から強気の頷き。『――そう、物理的に、殺されかけたのだ』


「何なら“K.H.”も、」ヘンダーソン大佐がマリィへ、小さく上体を傾ける。「第3艦隊のキラー・コードを手にしている。だが使った場面は多くない――なぜだと思うね?」


『これは、』ラズロ少将が声を低めて、『物理の問題だ』


「もちろん、前提は一つではない」小さく、ヘンダーソン大佐が示して頷き。「だが一つ、重大な意味がある。一個艦の機能を掌握する上で、最優先コードというのは非常に有用な代物でね。そこへキラー・コード打ち込むとなれば――」


『物理の手を下し得るのは、』ラズロ少将の声が、さらに低く――そこで尖る。『果たして誰か?』


「つまり、“K.H.”はもう、」ヘンダーソン大佐が、口元を斜め上へ歪ませた。「動けはしない――物理的に」


『よもやヘンダーソン大佐は、』チャンネル021から、ラズロ少将が声を衝き混む。『それが“K.H.”だなどとは言うまいな?』


「ならば、」ヘンダーソン大佐の視線が、マリィの瞳を射抜く。「君のエリックを、君自身が――救ってはどうかな?」



 ――ん?

 反応――“イーサ”の展開したプローブへ。

 “ゴダード”通信スタジオ横、調整室。

 ――こいつァ?

 チャンネル001の映像が、本来の送信経路から外れて流れていた。しかもわずかにタイム・ラグ。

 ――再送してる?

 探る――送信経路とその設定。特定――ハリス中佐のナヴィゲータが過去に使用……と、そこで。

 ――ノイズ?

 違和感。映像の一部に――乱れ、が入っては消える。法則性――あり。該当――モールス信号。

 ――何つってる!?

 照合――合致。いわく――『It is Edited.(改変アリ)』。




     *****


本作品『電脳猟兵×クリスタルの鍵』『電脳猟兵×クリスタルの鍵 (C)Copyrights 2016 中村尚裕 All Rights Reserved.』の著作権は中村尚裕に帰属します。

投稿先:『小説家になろう』(http://ncode.syosetu.com/n9395da/)


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