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-Rubyの記憶-  作者: 花
7/7

-使者II-

「…ぅおえ〜……」


規則的にゴトゴトと揺れる馬車に、伍樹が完全に酔っていた。


「大丈夫か?」


伍樹の隣に座る成海が伍樹の背中をさすっている。伍樹の顔色は真っ青だ。

それとは裏腹に、潮は眠たくなってきていた。規則的な揺れがまるで揺籠のようだからだ。椅子のクッションは何気にふかふかで、余計眠気を誘う。


「ああ…だんだん目がショボショボしてきたよ…」


潮が隣に座る宮古に寄っ掛かりながら寝の体制に入ろうとすると、宮古が反射的に突き出した肘がこめかみにクリティカルヒットした。


「痛い!痛いよ!」


「気持ち悪いんだよ!寝るんだったら降りろ!」


こんな感じで、各々が自分勝手。そこで成海がパンパンと二回手を叩いた。


「全員うるせぇ。一回黙れ」


成海の声がちょっと低めだったので、潮たちはぴっと姿勢を正した。伍樹は呻きながら成海の方を向いた。


「よし。それじゃあ、最初は軽い自己紹介をしてくれないか?元帥様から資料は頂いたが、本人たちから聞く方がいいだろうからな」


成海はそう言いながらどこからか取り出した3枚の紙をパラパラめくる。そして有無を言わさず伍樹の方を向いて、


「お前が最初だ」


「ええっ!?…無理です……気持ち悪──」


「これから先はまだちょっとかかる。元気なうちに済ませてくれ」


成海が前かがみになり、伍樹の書類を読む。


「流鏑馬 伍樹。15歳。アガルタのウドムルと言う村で生まれ育った。間違えはない?」


「……ゔ…は、はい……」


青い顔をしながらも返事を返す伍樹。だいぶやばそうだが、成海はそれをガン無視。


「家族は父、母、妹の3人で、父は現役のアガルタ国兵士。母は教会に勤め、妹は村の学校へ通っている」


「……はい………その通りです…」


「お前自身も妹と同じ学校へ通っていたようだが、今回なぜ勧誘に応じた?」


「……自己紹介のわりには全部説明してますけど…」


「早く答えろ」


伍樹が初めて顔を上げた。


「ウドムルの人たちは優しいんだけど、村自体はすごい貧困で、若者たちはみんな外へ必死にお金を稼ぎに行ってる。そこでまたまた俺のところへ手紙が来たもんだから、コロニーへ入って、お金を稼げるように頑張るって決めたんです…」


潮はとても感動したが、宮古はちょっと不満そうに眉をひそめた。成海は、そうか、と言い足を組んだ。


「それはまあ、頑張れ。次だ。恐らく、それはお前の目的達成の為の大きな弱点となるだろう部分だが、その左目はどうした?」


その質問に、伍樹はとても暗い顔を見せ、黙ってしまう。成海はそれを辛抱強く待った。しばらくすると、伍樹は口を開いた。


「…………俺が9歳の時、カタストロフが村を襲ってきて、その時に受けた傷です…」


言い終わると伍樹は俯き黙ってしまった。潮は伍樹をちらりと見たが、その暗い表情を見てすぐ目を逸らした。宮古が指の関節を鳴らし出す。成海は伍樹を見ることなく質問を続けた。


「ほー。完全に視えないのか?」


「……いえ、少しは…」


「わかった。以上だ」


成海が別の書類を手に取った。潮は次がどっちかドキドキしていた。


「次…は、お前だ。宮古」


成海がちらっと宮古を見ながらそういった。潮は内心ほっとした。宮古が「はい」と返事をした。


「蜂須賀 宮古。16歳。レヴィのノースという街で生まれ育った。間違えないか?」


「はい」


「家族は?」


さっきは即答だった宮古が一瞬言葉を詰まらせる。その質問に、潮も内心驚いた。成海は一切表情を変えずに視線だけを宮古へ送っている。


「いません」


「なるほど」


そこを深く探らないのは必要ないからなのか、宮古の心境を気遣ってなのかは、成海の表情からはわからなかった。


「次の質問だ。悪いが隠そうという考えだったかもしれないが率直に聞こう。お前、変異種だな?」


今まで通り全く表情を変えない成海とは違い、潮も伍樹も目を見開いた。宮古は成海から目を逸らし、俯いた。少し眉をひそめ、目は泳いでいる。

潮の心に少し恐怖心がちらついた。何しろつい昨日、変異種に襲われたばかりだったからだ。潮は宮古が見れなかった。


「……どうしてわかったんですか?」


宮古が強ばった声でそう言う。しかし、成海は声色も顔色も変えずに返した。


「そういうもんだ。何となくわかる」


「……はぁ…」


「知られたくなかったか?」


図星だというように、宮古が顔をしかめた。成海が目を伏せて続けた。


「残念だが、憂海も気付いたぞ」


「………凄いですね…」


「そうだな。お前、自分自身が変異種であることをどう思う?」


「………………………………」


宮古は黙ってしまった。そこで何故か伍樹が口を開いた。


「あの、成海さん」


「なんだ?」


「変異種ってなんなんですか?悪い奴の事ですか?いまいちしっかり理解できてなくて」


「変異種は、先天性の病気のようなものだ。遺伝子の突然変異で起こってしまう。身体能力の向上等、良い点もあるが、人から忌み嫌われた点は、悪食だな」


「……悪食」伍樹が呟きながらちらっと宮古を見たのを潮は気付いた。


「だが、コロニーとしては、変異種は歓迎だな。変異種だから元帥様に呼ばれることは多い」


成海のその発言に、宮古はぱっと顔を上げた。


「な、何故ですか?」


宮古がちょっと早口で聞く。成海は少し眉をひそめた。


「何故って、普通の人より優れているからだ。コロニーの敵であるカタストロフという組織の殆どの構成員が変異種だ。普通の人と変異種なら変異種が勝つが、変異種同士ならこちらにも勝ち目はある」


「………」


「隠そうとしたのかもしれないが、別にいいそんなことする必要はない。シャンバラには優しい変異種は沢山いる。心配しなくて平気だ」


そう言われて、宮古は少しほっとしたようだった。潮も安心していた。しかし戸惑ってもいた。


「そうだな。じゃあ、次の質問だ。どうして今回の勧誘に応じた?」


成海の質問に、宮古は怖い顔で答えた。


「…どうしても、殺したい人がいるからです」


「兵士になれば人殺しが許されるわけじゃないが」


「ただの人が殺したいわけじゃありません。カタストロフにいるある男を、なんとしても殺したいんです」


「名前は?」


「…ロバート=ランバート」


潮にはそれが誰のことだか全くわからなかった。恐らく人の名前だということはわかっても、潮の知り合いに漢字を使わない名前の人はいなかった。同様に伍樹もよくわかっていない表情だが、成海はすっと目を細めた。


「…その、ロバート?って、誰なんですか?」と伍樹が聞いた。


「やっぱり、カタストロフの一員なんですか?」


「ああ」と成海が返した。


「一応、俺はコロニーの1軍と呼ばれる一番強い軍隊に属させてもらっている。その1軍の、俺たちの1つ前の代をほぼ全滅させた男だ」

【カタストロフの説明】


カタストロフとはエデンにある犯罪組織団体の事を指す。

心臓の真上に当たる胸に蝶の刺青を入れる事で、

自分たちがカタストロフであることを示す。

赤い林檎の刺青を入れている人は貴族でそれだけ強い。

構成員は基本的には変異種だが、稀にレプストピアやただの人間が入ることもある。


アルブレヒト家 Aibrecht

ブラウナー家 Brauner

チェンバレン家 Chamberlain

ダクルーズ家 Dacruz

エタンセラン家 Etancelin

ファーニバル家 Furnivall

ゴールズワージー家 Galsworthy

ハラー家 Haller

ユリアーノ家 Iuliano

ジェンキンズ家 Jenkins

カラファーティ家 Kalafati

ランバート家 Lambert

マルティネス家 Martines

ナイトハルト家 Neithardt

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