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-Rubyの記憶-  作者: 花
6/7

-使者-

「初めまして。俺の名前は流鏑馬 伍樹。15歳で、出身地はアガルタだけど、ここの真逆辺りに住んでいたよ」


ベージュっぽい茶髪に左目に眼帯をしている伍樹は、丁寧にお辞儀をした。


「あたしは、鷹司 由理愛。15歳で伊月とはちっちゃい頃からの友達ね。よろしく」


ちょっと威張ったように握手の手を差し伸べるのは、深緑の髪を左側でサイドテールにした由理愛。

「よろしく」と、潮は由理愛の手を握り返した。その手は潮より少し小さくて柔らかかった。由理愛はその後宮古にも手を出したが、冷たい視線を向けられていた。


「それにしても、驚いたよね。まさか元帥様がこんなに人を呼んでるなんて」


潮は由理愛、伍樹、宮古と顔を見ながら言う。


「あと10人くらい来たりしないよな?」


宮古があからさまに嫌そうな表情でそう言うと、伍樹は苦笑いをした。

由理愛がふと眉をひそめた。


「ところで、2人の名前は?」


「あっ、そうだった」と潮は笑顔で続けた。


「ボクは化野 潮。2人と同じ15歳だよ。住んでたのはすぐそこら辺。よろしくね」


「俺は蜂須賀 宮古。歳は16で、レヴィに住んでた」


「レヴィ!?」伍樹が目を丸くした。


「そんな遠くから来たのかい?」


ああ、そこ?と眉を潜める宮古。


「でも、あんたらもアガルタの端から来たんでしょ?ならそんなに変わらないんじゃない?ただ海を越えただけだし」


「海を越えただけって、だいぶ大変じゃないの?」


そんな感じで宮古と伍樹が話し始めた。

その時潮は、当然、由理愛と話していた。


「由理愛たちは……って、由理愛って呼んでもいい?」


「えっ?あ、うん。別にいいわよ」


何故だか由理愛は緊張したように話しているが、潮はそれに全く気付かずに話を続けた。


「由理愛たちは、元帥様に呼ばれて来たんだろうけど、いつ頃手紙が来た?」


「え?あの、白い封筒のやつ?」


「うん。それそれ」


「それはねぇ〜…」


由理愛は小さな手をぷにぷにそうな唇に当てた。それから少し悩んで、口を開いた。


「多分、2週間くらい前に来てると思うわ」


「やっぱり?」と潮は少し身を乗り出し、それから項垂れるように体を引いた。


「はぁ〜、そっか…」


「でも正確じゃないかもしれないから、後で伍樹に…」


「いや、それはいいよ。そこまでしなくても、大体で平気だから」


そう微笑むも、潮は頭で色々考えていた。

ボク以外の3人はみんな少なくとも2週間前に手紙が届いている。

なのにどうしてボクだけ今日だったんだ?

その時、会話を終えた宮古が境目の森の入り口を見ながらちょっと怒ったような声で言った。


「というか、いつ頃来るわけ?その使者ってのは」


「本当に来るのかしら」


由理愛も便乗した。伍樹は少し不安そうに境目の森の方を見た。


「時間指定は特になかったよね?」


潮がそう3人に聞くと、3人とも頷いた。

それから4人一緒に唸り声をあげた。


「「「「う〜ん…」」」」



✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼



丁度その頃。

境目の森の暗い道を2台の馬車が走っていた。その馬車の後ろには、馬車と同じくらいの銀色の羽を持ったグリフォンが着いて行っている。先頭を走る馬車だけ明かりが付いていた。


「やっぱりアガルタはシャンバラと違って、暗いね〜」


馬車の中からそっと外を見ながらそう言ったのはピンクがかったプロンドヘアの少女。長い髪を右側で三つ編みにしている。左耳にブルーダイヤモンドのピアスをつけた、美麗な女の子だ。


「まあ、森だしな」


そう返したのは少女の向かい方に座る赤髪の青年。癖のある髪で、前髪と首の右側の髪が少し長い。少し目つきが悪く、金色の瞳の美青年だ。


「でも、外灯もないよ」


そう再び疑問を漏らした少女の名前は雨甲斐 憂海。14歳にしてシャンバラの軍事機関コロニーの大尉を務め、同時に1軍に所属している。


「人が住み着きそうな森じゃない。獣が好みそうな森だ」


なだめるようにそう返したのは藤原 成海。憂海と同じくコロニーの戦士で、階級は准将。1軍に所属している20歳の青年だ。

2人は元帥の指示の元、3日前までカインへ出張していた。そして現在、元帥の命令で4人の子供たちを迎えに行く「使者」の役割を果たす為、アガルタの境目の森の入り口へ向かっていた。


「それにしても、成海が前言った通りにちゃんと3日で着けたね」


憂海がふふっと笑いながら言った。それに成海は首に巻かれたチョーカーをいじりながら返す。


「むしろ3日後にしっかり着けなきゃまずかった。日付は指定されてるから、昨日でも明日でも駄目だったんだ」


そっか、と思いついたような表情を見せる憂海。ころころ表情の変わる憂海とは真逆に成海は全く表情を変えない。


「ねぇ、成海」


「ん?」


「私たち、この格好で行って、本当に使者だって思ってくれるかな?」


2人は今、軍服ではなく私服を着ている。憂海は白いニットのワンピースに、軍隊用ではないヒールのあるブーツ。成海は黒いニット一枚にズボンと、この時期には些か寒そうな服装だ。しかし2人とも完全なる私服である。

成海は袖をまくりながら答えた。


「まあ、こんな服装でもグリフォンを引き連れたり剣を持ち歩いていれば、一目瞭然じゃないか?」


「あ、そっか!」という憂海の傍には銀色の剣が置かれていた。

また、グリフォンは一般人に飼育することは困難で、所有できるのは軍人のみと決まっている。

憂海は暇なのか、また口を開いた。


「はぁ、長いなぁ〜」


「しょうがない。もうそろそろ着くだろ」


「3人いるんだっけ?」


「いや、4人だよ」成海はポケットから書類のようなものを出しながら言う。「当初の予定は3人だったけどな」


「2週間前ぐらいまでは3人の予定だったが、それから1週間経った頃に追加が1人。それで4人だ」


「なるほど、だから馬車は2台なんだ。でも、それに私たちを合わせて6人しかいないのに、なんで2台もいるの?」


「4人中1人は女らしい。だから男と女で別れればいいと思ったからだ」


「お、女の子と、2人っきりかもしれないの?」


「……………………………何か躊躇う点があるか?お前だって女の子だろ?」


「あ、あんまり、知らない人と2人っきりて、なったことないから……不安かも…」


「…まあ、いい経験だ。慣れろ」



✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼



「俺にはどうしても許せない事がある」


潮、宮古、由理愛、伍樹は地面に座り込み、輪を描くように向き合いながら話し合っていた。


「これから来る使者の条件のことでだ」


宮古はそう熱のこもった声で話し続ける。


「ひとつは年下であること。コロニーから来る使者ということは俺よりは強いのはよくわかってる。年上で強いのは尊敬できる。が、年下だとどうも納得できない」


結構本気で熱弁する宮古を見ながら潮と由理愛と伍樹は苦笑いを浮かべる。


「そしてふたつめ。それは女性。女性に負けるというこれ程までの屈辱はない。綺麗な年上の女性ならちょっと我慢するしかないけど、年下ならこれは本当に許せない」


「え、それは偏見なんじゃない?」という潮の意見をガン無視で続ける宮古。


「最後、三つ目は、あからさまに見下す態度をとること。これは本気でイラつく」


「確かにそれは私も気に入らないわ!」という由理愛。


「この条件全てをクリアする人なんていないとは思うが、いたら俺は絶対に心を開けないね」


「ということは、由理愛が宮古より強ければ、宮古のその条件にそのまま当てはまるね」と伍樹が楽しそうに言った。


「はぁ!?私はあからさまに見下す態度なんてとってないわ!!」


「…なるほど。確かにそうかもな」


「宮古まで!失礼でしょ!!」


「まあ、別に心配しなくていいよ。あんた俺より強そうには見えないし」


「むきーー!!あんただって人を見下してるじゃない!!」


「俺はいいんだよ。それに俺はあんたより年上だし。俺が認められないのは俺より年下で強くて見下す態度とる女が絶対に認めらんないって言ってるの」


宮古より年下で強くて見下す態度をとる女性のイメージを頭で想像して、潮は苦笑いを浮かべた。


「そんな女の人がいたら、普通に嫌われそう…」


「「「確かに」」」


その時、森の中から音がした。4人はピタッと話すのをやめ耳を澄ませた。

沈黙の中で聞こえたそれは馬の蹄の音だった。


「やっと来たかねぇ〜」


伍樹がゆっくり立ち上がりながら言った。それに続くように潮たちも立った。


「あ〜!楽しみだなあ」


潮は体を伸ばしながらちょっと大きめの声で言った。それを聞いて、他の3人も笑ってくれた。

森の中に灯りが見えてくる。それは蹄の音と共に徐々に近づいてくる。4人の期待と緊張もどんどん高まってくる。

そしてついに馬車が姿を現した。黒に金の装飾を施された美しい馬車を2頭の馬たちが引いている。室内は明るかった。その後ろからさらにもう1台現れた馬車の室内に灯りは点いていないようだ。馬たちは馭者の指示通りに歩くのをやめ、2台の馬車は潮たちの前で停まった。


「すっごい…」


唖然とする由理愛に、潮は頷き同感の意を示した。すると、森の中からもうひとつ足音が聞こえた。それは馬のものではなかった。暗闇から姿を現したのは、銀色のグリフォン。4人は同時に飛び上がる。しかしグリフォンは大人しく、灯りの灯っている前の馬車のそばへ歩み寄っていった。


ガチャ


その音と共に馬車のドアが開く。中から出てきたのは赤髪の綺麗な青年だった。ニット一枚の寒そうな服装の、鋭い目つきが怖い男の人だった。彼はグリフォンの嘴を少し撫でながら馬車からゆっくり降りてきた。それからこちらへ歩いてくる。


「かっこいい…」


伍樹が目を輝かせながら言う。


「うん、ほんと」


潮は男の人から目を逸らさずにそう言った。

そのあと馬車から出てきたのは赤い髪を右側で三つ編みにした女の子だった。グリフォンは嘴を少女の脇へ差し出し、少女が降りるのを手伝ってやる。

宮古が露骨に眉をひそめたのがわかった。見た感じ、明らかに宮古より年下に感じる。

しかし、潮は純粋に可愛い子だと思った。とても綺麗だったのだ。が、同時に別のことが頭に浮かんだ。

あの子はどこかで見たことがある気がする。

けれど、誰だったかが思い出せない。


「悪い、待ったか?」


青年がそう言いながら前まで歩いてくる。宮古より普通に背が高い。

「……女の人みたいに綺麗」と由理愛が潮の耳元でボソッと呟いたが、青年の質問を無視するわけにはいかないので、一旦由理愛は無視した。


「いや、大丈夫です」


「ああ、ならいい」


低い声でそういう青年。その青年の隣に少女が歩いてきた。2人はちらっとアイコンタクトを取った後、青年が口を開いた。


「シャンバラ国軍事機関コロニーの元帥の命によりお前たちを迎えに来た。藤原 成海だ。階級は准将。よろしく」


成海はそう言って軽くお辞儀をする。それに宮古と伍樹が深くお辞儀をしているのを見て、潮と由理愛も慌ててお辞儀をした。


「同じくお迎えに来ました。雨甲斐 憂海です。階級は、大尉です。よろしくお願いします!」


成海同様に、ぺこりとお辞儀をする憂海。潮たちもお辞儀をしたが、宮古が真っ先に頭を上げ、口を開いた。


「すみません。失礼だとは充分承知の上ではありますが、お二人は今おいくつでしょうか?」


潮ら3人は宮古を凝視した。伍樹はとっさに宮古の頭を引っ叩いたが、宮古は表情を変えずに成海と憂海に顔を向けていた。成海と憂海はというと、成海は表情を変えず、憂海はちょっと困ったような表情をしていた。

成海はぴくっと眉を動かして、ちょっと不審そうに宮古に目を向けながら渋々というように答えた。


「……20だ」


「ありがとうございます。本当に申し訳有りません」


そう言うと、宮古はキッと憂海の方を見た。


「で、貴女は?」


宮古の声色が明らかに変わる。潮たちがハラハラしながら宮古を見ていることに気づいた成海は、宮古を見て、書類のようなものを見て、憂海を見て、宮古を見て、納得したような表情を見せた。

しかし成海のように勘のよくない憂海は困ったように笑いながら答えた。


「あ、わ、私?」


「ええ、貴女で間違いないですね」


「え、えーっとね……あ、あれ?な、なんて質問だったっけ?」


宮古の視線が怖すぎて、憂海は完全に怯えている様子だった。

無理もない、あんな目でガン見されたら怖いに決まっている。

瞬きさえしていない。

それを見兼ねたかのように、成海が口を開いた。


「憂は14歳だ。宮古、お前のふたつ下だよ」


成海が何故宮古の名前と年齢を知っているのか疑問に思うところだが、潮たちには宮古が何かしかねないか心配でそれどころではなかった。

宮古はすっと目を細め、ジトッと憂海をみながら、


「ああ、ありがとうございます。よろしくお願いしますね」


と低い声で言い放つと、それっきり憂海とは全く目を合わさなくしてしまった。状況を全く把握出来ずにオロオロしている憂海の元へ由理愛が向かった。


「大丈夫?」


由理愛がそう言うと、憂海はちょっと困ったように首をひねった。


「え?あ、うん…なんか、あの人になんかしちゃたみたい」


「いいのよ、気にしなくて。あんなニンジンのこと」


「ニンジン」発言に思わず潮と伍樹は吹き出してしまった。恐らく、宮古の髪が橙色だからイコールでニンジンなのだろう。

当の宮古は凄まじい形相で由理愛と憂海を睨む。


「あ?もっぺん言ってみろよクソ女」


「はぁ?ニンジンには変わりないでしょ?かっわいそうに、2つも年下の女の子いじめるとか、最ッッッ低!」


「いじめる?いじめた覚えなんてありませんけど?」


「しっかり態度で示してたでしょ!!ニンジンは黙ってうさぎにでも食われてればいいのよ!」


しかし、これから口論が激しくなりそうというところで、突然グリフォンが吼えた。潮ら4人は驚きと恐怖から、そのあと声が出せなかった。憂海が慌ててグリフォンの側に駆け寄った。憂海の身長はグリフォンの前足程しかなかった。グリフォンが頭を下げ、憂海は嘴を優しく撫でてやる。


「成海、もう時間かも」


憂海がまだ唸り声をあげるグリフォンを撫でながら言った。成海は頷き「そうだな。ありがとう、グライフ」と言い馬車の方へ歩き出した。


「よし、4人とも時間だ。男子は前の馬車、女子は後ろの馬車に乗れ」


成海の指示で、宮古、由理愛、伍樹の3人は、自分の荷物を運びだした。しかし潮は、手荷物がランプと元帥からの手紙しかないので、そのまま成海の後ろへ着いて行く。みんながきちんと着いてきているか確認するために後ろを振り返った成海は、真後ろに潮がいることに少し引いた様子。


「…お前、荷物ないのか?」


「え?あ、はい。必要ないって言われたので」


「……そうか。まあ、乗れ」


前の馬車に男4人と、後ろの馬車に女子2人が乗れたところで、馬車は走り出した。

【コロニーの説明】

・シャンバラの軍事機関。

・55軍あり、定員は3〜20人。

・実力重視のランクづけ。

・隊長1人が1班持つことができる。

・隊長になれるのは55人。

・余った1班はコロニーきっての若い天才たちを集めた第1軍にあたる。


元帥 1

大将 3

中将 2

少将 2

准将 2

大佐 3

中佐 2

少佐 2

大尉 3

中尉 3

少尉 4

准尉 4

曹長 7

軍曹 7

伍長 10

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