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-Rubyの記憶-  作者: 花
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-元帥-

「ああ、久しぶりだねえ。淡海」


突然現れた黒髪の少女は微笑みながら淡海にそう言った。淡海の尾に貫かれた際の穴が胸にぽっかり空いているが、まるで気にしていない様子。しかし反対に淡海はとても慌てたように少女に駆け寄った。


「…そんな…貴女が……一体何故ここに?!」


混乱の表情の淡海に少女は可笑しそうに笑い、首を傾げた。


「おや、それを聞きたいのはこちらなんだけどなあ。どうしてここにいるの?」


はっと息を呑む淡海。少女は表情を崩さずに見つめた。その時、少女の黒い瞳が一瞬キラリと紫色に光ったのを、淡海は見た。

すると、街灯に照らされて伸びた少女の影が淡海に貫かれて空いた胸の穴へ向かっていった。影は穴を埋めるように胸の中で渦を巻くと、その影は少女の体と一体化してしまった。胸の傷は瞬く間に治ってしまった。そして着物まで再生されている。

ありえない状況に潮は固まってしまった。淡海も驚きのあまり口を開いたまま少女を凝視している。

すると少女がくすりと困ったように笑って口を開いた。


「質問に答える義理はないかな?」


淡海ははっと我に返ると、慌てたように言う。


「いえ…ご無沙汰しておりました。申し訳ありません」


淡海がしゃがみ頭をさげる。その姿はまるで跪くようだった。その光景を目にして、潮は少女と淡海に交互に目をやった。

恐らく淡海の言動からするに、少女は淡海より目上の人物であるというのは、潮にも理解できた。

それを見た少女は淡海を馬鹿にするように小さな手で自分のお腹を抱え、体を少し下りながら笑った。


「あっはははは!そんなことしなくていいよ。というかやめてくれない?笑いが止まらなくなっちゃうからねえ」


とても可笑しそうに無邪気に笑う少女。淡海は無表情のままゆっくり頭を上げる。少女はまだ笑いながら口を開いた。


「むしろおそんなことをされても支配欲は満たされないしねえ。お前も罵ってる方が好きでしょう?」


少女がまるで挑発するような目で淡海を見た。すると淡海はふっと嫌そうに笑って吐き捨てるように言う。


「ええ、そうですとも。このクソガキ」


敵意のようなものを剥き出しにする淡海に、少女は声をあげて大笑いをしているが、潮は全く面白くなかった。何に対して可笑しいのかもわからないし、どちらかというと驚愕していた。

いつも淑やかで大人の女性なイメージがある淡海の口から、「クソガキ」という単語が出たことに軽いショックを受けていたのだ。

少女は少し落ちつき、ふふふっと笑って言う。


「あら、おばさんにそんなこと言われなくないなあ」


「おばさん?お言葉ですが、貴女の方がお歳を召されてるのでしょう?」


「さあ、どうでしょう」


「なら私におばさんと言うのはどうかと思うのですがそこについてはどうお考えですか?」


「おや、思い込みはいけないよ。私は否定も肯定もしてない」


「私と知り合う以前よりそのお姿だと聞いたことがありますが」


「ふふふ。私は永遠の10代だからねえ」


「殺しますよ」


「あら、出来るのならやって見せてほしいねえ。どうやって殺すのかとても気なるなあ。まあ物理的に殺せるものならさっきお前に殺されているよ」


不敵な笑みを浮かべる2人の会話を聞いた潮の頭は混乱していた。もう潮の脳内の淡海のビジョンは完全に崩壊していた。


「ところで、貴方は…」


そう言いながら少女がふと潮を見た。潮も少女のその美しい顔が自分を見つめていることに少し緊張しつつも見つめ返した。少女は何も言わずしばらく潮を見つめ続けた。音のない時間が続く。潮にはとても長く感じた。考えたような顔をしてから少女はおもむろに口を開いた。


「…何だろうねえ。欠けているせいか、いまいちわからないなあ。貴方が何者なのかが」


潮には、少女の言っている事の意味がわからなかった。淡海の表情もいまいち少女の発言の意味を理解している様子ではなかった。少女は未だ難しい面持ちのままだ。

しかしふうとため息をつくとすぐに踵を返し、自分の手で車椅子を押して淡海に背を向けてしまった。そのまま進み出す。


「ち、ちょっと!?元帥様!何処へ行くんですか!」


急に帰ろうとする少女を淡海が止めた。すると、少女は一度止まってから肩越しに話した。


「何処へ?あら、賢いお前にそんな質問をされるなんて思ってもみなかったねえ」


呆れたような顔の少女。腑に落ちないのか、「でも…」という淡海。それを全く気にする様子もなく、少女は再び進みだした。


「任務は達成したから帰るんだよ。暇じゃあないしねえ。まあ、気が向いたら手紙でも送るよ」


そう言い残すと、少女は道を曲がっていなくなってしまった。


その後、潮と淡海は2人で歩いてフェイまで帰った。子供達は先に帰っていたらしい。淡海は忘れていたが、切断された腕がくっついたことは言わなかった。


「さっきの女の子は、淡海さんの知り合いなんですか?」


帰り道、そんなことを淡海に聞いてみると、淡海は苦笑いを浮かべた。


「そうね。上官にあたるわ。元帥っていって、シャンバラの軍事機関コロニーのトップよ。知り合いといえば知り合いなんだけど、私の現役時代と人が変わってるのよ。けど、同じ人といえば同じ人ね」


「え?人格が変わったって事ですか?」


「う〜ん、そうなのかもしれないわね。間違ってはいないと思うけど、正解でもないわ」


淡海の言っていることはいまいち理解できなかった。

それから程なくしてフェイについた。

潮自身すっかり疲れていて、お風呂に入り、ご飯を食べるとすぐにベッドへ潜り込んだ。

さて、寝ようと思った時、何故だかふと少女が言ったことを思い出した。


『…何だろうねえ。欠けているせいか、いまいちわからないなあ。貴方が何者なのかが』


(…なんでこんなことを思い出すんだろう?)


すると、ふとあることが頭をよぎる。


『ところで、それは一体どうなっているのかな?とっても興味深いなあ』


少女がそう言って指差した潮の腕はくっついていた。

潮はふと自分を右腕に触れてみる。

しっかりと繋がっている。

動かしてみるが、しっかりと動いた。


『…何だろうねえ。欠けているせいか、いまいちわからないなあ。貴方が何者なのかが』


しばらく潮の頭の中で、その言葉がぐるぐる繰り返されていた。

【地上世界】

・地球の一番外側の層にあたる場所。

・唯一、太陽の光を浴びることのできる場所。


【地底人】

・地底に住んでいる人類。

・陽光を浴びないため、黒髪や黒人黄色人は混血でない限り存在しない。

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