■第7話 人の気持ちの教え方
『数学教えてくれたら、アンタに ”人の気持ち ”ってモンを教えてやるよ。』
耳に聞こえたその自信満々な声色が何かの聞き間違えかと、リョウは一瞬
かたまって脳内リピート再生をしてみる。
何度リピートしても、しても、納得いかない。
念の為、もう一度マドカに確認した。
『・・・ぇ。 ワタセさん、に・・・ 僕が、教わるんですか・・・?』
心からの、純粋な、純真無垢な問いだった。
すると『あーぁ? なに、文句でもあんの?』 目をすがめ顎を上げて不満気に
口を尖らす。
胸の前で腕組みをして、片足は斜め前に放り出しつま先でカツカツと踏み鳴らし
ている。
『いや・・・ あの、はい。』
『 ”はい ”じゃねえ、バーカ! そうゆーとっからだよ、アンタは。』
マドカの言葉遣いが汚すぎて、耳が痛い。
顔をしかめてかぶりを振り、耳珠を人差し指でぐっと押したリョウ。
『コミニュケーションでしょ! なにごとも大事なのはー・・・
返す言葉ひとつで、色々、なんか・・・
・・・なんつーか、さ
・・・相手に与えるモンとかも、ナンカ違うんだよー!』
『コ・ミュ・ニケーション、ですけどね。』
『うっせ、バーカ!』
( ”バカ ”って・・・
返す言葉ひとつで与えるモンが違うんじゃないのかよ。)
『ワタセさんよりバカじゃないと思います。』
しれっと涼しい顔で言ったリョウは、なんだか気が付いたら面倒なことに
なってしまったと内心戸惑っていた。
口の悪い変なギャル女子高生にすっかり絡まれてしまった。
おまけにここ数日、マドカのお陰で歩道橋での勉強が全く進んでいない。
人と関わりたくなくてこの場所にいるのに、これでは以前より酷い有様で。
せっかくべストな場所を見付けたと喜んでいた矢先だというのに。
(どうしよう・・・
どっか、他の場所でも探そうか・・・。)
苦い顔をして、途方に暮れたように溜息を落としたリョウ。
すると、リョウの心の声が聴こえたかのように、マドカが付け足す。
『ぁ、でもさー・・・
アンタの大事なお勉強タイムの邪魔すんのはアレだからー・・・
まぁ、ちょっと休憩時間にでも。的な~?』
(なんだその日本語。 ほんとに、意味が分からない。)
例えば休憩時間を作ったとして、マドカの言うところの ”人の気持ち ”と
やらを何をどうやって教えるつもりなのかリョウには皆目見当がつかなかった。
道徳の教科書でも用意するのか。
熱血学園お涙頂戴モノのDVDでも見せるつもりか。
頭を抱えるように欄干に手をついてうな垂れたリョウに、マドカはケラケラ
笑って言った。
『つっても、さ~・・・
・・・どうやって教えたらいーんだろね?』
呆れ果てて、口を利く気が失せたリョウだった。