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■第6話 ココにいる理由



 

 

 『だーかーらー・・・ アンタ、名前はぁ~?』

 

 

 

これで会話をフェイドアウトさせようと思っていたリョウに、尚も詰め寄る

その顔は互いの3メートルの物理的な距離は決して詰めようとはせず、

しかし執拗に ”名前名前 ”とうんざりするほど繰り返す。

 

 

分かりやすく、ひとつ。溜息をついて見せたリョウ。


そして、

 

 

 

 『・・・アイバ、です。』

 

 

 

ぼそっと最大限の不機嫌顔で呟くと、即座に『下は? 下の名前。』 

そう返って来た。


『・・・リョウ。』 そう告げると、マドカは満足気に言った。

 

 

 

 『ねぇ、アンタ。 目ぇ悪くするよ~。


  ・・・こんなトコで、そんな小っさい文字読んでたら。』

 

 

 

 

  ( ”アンタ ”って・・・


   名前で呼ぶ気ないなら、しつこく訊くなよな・・・。)

 

 

 

 

心の底からげんなりしながら、『ぁ、いや別に。』 と口癖となっている一言が

突いて出た。

 

 

すると、


『 ”別に ”ってなんだよ。』 

なんだか呆れているみたいに肩をすくめてケラケラ笑う。

 

 

 

 『ねぇ・・・ な~んで、こんなトコで勉強してんの~?


  アンタ着てんの、スーパー賢い高校の制服だよね?


  フツー、塾?とか。 なんかそーゆー系のトコで勉強すんじゃないの~?』

 

 

 

さくらんぼみたいにグロスでテカったマドカの分厚い唇からは、プライバシーも

へったくれも無い矢継ぎ早な質問が止まらない。


横目で一瞥し参考書に目を戻すが、マドカは質問をやめる気などさらさら無い

風でお構いなしにそれを浴びせ続ける。

 

 

 

 『塾とか必要ないくらいなー・・・


  スーパー・ミラクル・スペシャルで・・・ 


  デラックスな感じの賢さな訳~ぇ?』

 

 

 

チョイスするワードの小学生並みのお粗末さに、聞いているだけで嫌気が差す。


もっと読書をして、正しい日本語を学ぼうという気にはならないのだろうかと

心の底から気の毒に思った。

 

 

 

 『・・・キライなんで。』

 

 

 

別にご丁寧に返事なんかする必要はまるで無いのに、何故かこの時リョウは

この問いに答えた。

 

 

 

 『塾とか、人がいるトコ。 キライなんで。』

 

 

 『んな事ゆったら、学校なんか人だらけじゃーん。』

 

 

 

即座に珍しく真っ当な意見が戻る。


リョウが言っている ”本当に伝えたい意味 ”が全く伝わっていないようなので

もう一度、ゆっくりハッキリ言った。

 

 

 

 『・・・人、が。 キライ、なんで。』

 

 

 

それには ”マドカ ”も含まれるという意味が伝わったかどうか、

リョウは静かに顔を横に向けて目を遣った。

 

 

すると、マドカは気怠そうに欄干に手をつき背中を丸めていた姿勢を

まっすぐ正した。

小さく溜息のような息をついて、斜め前方に見える赤色の信号機を見つめる。


そして、

 

 

 

 『無人島にでも行かない限り、あっちも、こっちも。


  ・・・どっちに顔向けたって、人ばっかじゃ~ん。』

 

 

 

その緩い口調とは裏腹に一瞬リョウをまっすぐ射るようにすがめたその眼差し。


すると、なにか頭をよぎったかのように瞬時にパッと明るい表情を向けた。

見た目と同じせわしなく落ち着きのない、クルクル変わるその表情。

 

 

 

 『 ”キライ ”なんじゃなくて、”苦手 ”なんじゃないの~?


  あたしも数学、チョォ~苦手だもん。 教科書見たくもない・・・


  アンタもさ~、アレじゃん? 避けてるだけなんじゃん?』

 

 

 

 

  (僕のなにを知ってて、そんな偉そうなこと言ってんだよ・・・。)

 

 

 

 

マドカの説教染みた言葉にうんざりと溜息を落とそうとした、その時。

 

 

 

 

 『数学教えてくれたら、アンタに ”人の気持ち ”ってモンを教えてやるよ。』

 

 

 

 

自信満々に言い放ったその顔は、雲の隙間から現れた月のあかりに照らされて

眩しくて、なんだかどこか神々しくさえ見えた。

 

 

 


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