■第46話 最初で最後のデート4
散々お腹を抱えて笑い合い、笑い疲れたマドカがそっとリョウを見つめる。
遠く水平線を見つめているその銀縁メガネの横顔。
『あ。 ねぇ、まつ毛になんかついてるよ・・・』
ほらほらと指でリョウの目元をさして、教えようとしている。
『ん??』 リョウが銀縁メガネをはずし、目元をこするように手の甲で
やさしく撫でた。
『ん~・・・ 取れてないなぁ・・・
ぁ、あたしがとってあげるからさ・・・ ちょ、目ぇつぶって・・・。』
頷いて、リョウが目をつぶった。
スッと通った鼻筋、薄くて形のいい唇、切れ長の目元、痩せて浮き出た喉仏。
(やっぱ、裸眼のリョウはカッコよすぎる・・・。)
すると、マドカはそっと顔を傾けるとリョウの顔に近付いた。
唇に触れようとして、一瞬ためらうと、急に恥ずかしくなってしまって唇の横の
やわらかい部分に、目をつぶって自分のぽってり厚い唇をぐっと押し付けた。
その突然の感触に、慌てて目を見張るリョウ。
一時停止ボタンを押したかのように、かたまっている。
マドカは人差し指と親指をくっ付けて、まるでなにか掴んだような
素振りで言う。
『ほら、綿ゴミ。』
リョウが真っ赤になって、シドロモドロになりながらたじろぐ。
『いや・・・ わ、綿ゴミの問題じゃ、なく、て・・・ですね・・・。』
『ん?』 マドカがとぼけ顔で小首を傾げる。
『いいいいいいい今・・・・ 僕、に・・・・・・・・・・・。』
『なに? どした??』 マドカはいつまでもケラケラ笑っていた。
生ぬるい海風がやさしくふたりにそよいでいた。
気が付けばもう夕暮れで、水面は目映いオレンジ色を飲み込むように
キラキラ輝いている。
更にぴったり互いの体の側面をくっ付けて防波堤に座る、ふたり。
マドカがリョウの肩にそっと頭を寄せ、絡め合う指は決して離れないよう
力を込めて。
大きなオレンジは完全に濃紺に沈んだ。
最初で最後のデートが幕を閉じようとしていた。




