■第45話 最初で最後のデート3
昼食を済ませまたぼんやり防波堤に座る、ふたり。
遠く沖のほうの海の色は、深くなるほどに濃紺の青をつくりだしている。
潮の匂いがする緩い風がふたりの頬をやさしく撫でてゆく。
再び、穏やかな時間が流れていた。
なにも話さなくてもただ隣にいられるだけで、充分幸せなふたりだった。
マドカはふと、右隣に座るリョウの痩せて筋張った手を見つめた。
お化け屋敷でつながれて、ストーカーから助けてくれた帰り道にも
つないでくれたその手。 胸がきゅっと面映く高鳴る。
リョウも、ふと左隣に座るマドカの華奢な手を盗み見ていた。
学園祭で手首をつかんで引っ張ってもらった事を思い出し、
あの時のときめきに目を細める。
ほんの少し、防波堤に置くリョウの左手の甲とマドカの右手のそれが
触れ合った。
すると、どちらからともなく、そっとその手をつないで指を絡めた。
それは、あたたかくて、やさしくて、涙が込み上げるような感触。
胸がじんわり熱くなって、それに合わせてかすかに視界も滲む。
『やっぱ、好きだわ・・・。』
マドカが思い切って呟いた。
その瞬間、ひときわ大きな波が波消しブロックに打ち寄せ、
呆気なくそれはかき消された。
『ん?』 リョウが聞き取れずに、マドカへ目を向け聞き返す。
『好・・・』 言い掛けた途端、また続けて大波が。
またリョウが『え?』 とまじまじと見ている。
そのもどかしさにイライラしたマドカ。
『好きだって言ってんのぉぉぉおおおおおお!!!』
大声で叫んだ瞬間、まるで弄ばれているかのように波は鎮まり途端に凪いだ。
マドカの絶叫は海辺に物の見事に響き渡り、向こうの釣り人ですらこちらを
見ている。
肩を震わせ体をよじらせて笑うリョウ。
実は最初の2回もしっかり聴こえていた。
もっと言ってほしくて聴こえないフリしていたのだが、3度目の正直で
こんな絶叫されるとは夢にも思わず。
すると、真っ赤になって唇を噛むマドカ。
不機嫌そうに鋭い眼光で下唇を突き出している。
ジロリ、リョウを睨んで『・・・なんか、言いなさいよね・・・。』
モゴモゴと口ごもる。
『・・・ぁ、はい・・・。』
『はい、じゃねえ!!
・・・まったく、アンタって人は・・・
・・・もう・・・ まぁ、いいや。』
マドカが呆れたように笑った。
『ほんとに、いいんですか?』 リョウが笑いながらとぼけ顔を向ける。
『それより・・・
ねぇ、そろそろ苗字じゃなくて名前で呼んでみてもいーんじゃない?』
どうしてもどうしても ”マドカ ”と呼んでほしくて、ずっと言えずにいた事を
切り出してみる。
『今更どうしてですか?』
わざと飄々と答えるその憎たらしい顔。
最後だっていうのに相変わらずのリョウに、少しイライラしたマドカ。
『どうしてもだよ!』
『でもワタセさんだって僕のこと・・・。』
『あたしはいーんだよ!』
『それはどうゆう理屈ですか?』
『ったく・・・
理屈じゃない事が世の中にはいっぱいあんの!』
『・・・そうなんですか?』
『そーなんデスヨ!!
そんな減らず口叩く前に、チャリ乗れるようになりなさいよねー!』
ふたり、相変わらずの言い合いが出来ることが嬉しくて仕方なかった。
なにかあると上げ足をとるように、互いに口を挟み合って笑っていた。




