■第44話 最初で最後のデート2
平日の昼間の海は、あまり人はいなかった。
こんなに天気がいいのに、なんだか勿体ない気がしてしまう。
遠く防波堤に釣り糸を垂らす中年男性の姿だけチラホラ見える。
学生服姿の男女がこんな所にいたら、あきらかに学校をサボってデートして
いるとバレてしまうが、ふたりにとってはそんな事どうでも良かった。
釣り人から少し離れた防波堤に、ふたり腰掛けた。
足を投げ出して座ると、ブラブラと子供のようにご機嫌に揺らしているマドカ。
それを隣で目を細め笑って見ているリョウ。
波消しブロックに小さく波が寄せ、白い飛沫を作ってはすぐ消えてゆく。
ふたり、ただ黙って海を眺めていた。
さざ波が寄せたり引いたりする音を、ただ黙って聴いていた。
静かな時間だった。
穏やかで緩やかで、まるでこのままこの時間が続くのではないかと思う程だ。
マドカが腕をそっと伸ばす。
すると照り付ける日差しにほんの少しそれは赤くなっている。
リョウも同じように伸ばした。 青白い不健康なそれもほんのり赤い。
ふたりで顔を見合わせて笑い合った。
まるで今日という日をその体に焼きつけようとするかのようにふたり、
太陽に向けて腕を伸ばした。
気が付けば太陽はもう真南を差し、少ないひと気は更にその姿を消す。
マドカは持参したバッグから弁当箱を取り出し目の高さに掲げると、
ニヤっとリョウに向けてほくそ笑んだ。
『ぁ・・・ 作ってきてくれたんですか?』
リョウが嬉しそうに頬を緩める。
あまり食に興味がある方ではないリョウも、マドカが作ってくれるもの
だけは喜んだ。
マドカが少し勿体ぶってフタを開けると、そこにはサンドイッチがあった。
変わった色のパンに野菜やハムや玉子が挟まっているそれ。
見た目も鮮やかでキレイ。
ふと、小さめの容器に入った肉料理に目を向けたリョウ。
『これは?』
『これは、タンドリーチキン。 ちょっとスパイシーにしてみた。』
マドカの料理の腕には本当に感心する。
きちんと持参したウェットティッシュで手を拭いてから、『いただきます!』
と手を合わせリョウが嬉しそうにサンドイッチを手に取って、大きく一口
かぶり付いた。
『・・・どう??』 マドカがどこか半笑いでニヤニヤしている。
『美味しいですよ? このパンがほんのり甘くてすごく美味しいです。』
すると、マドカはケラケラ笑った。
『それ、人参練り込んだパンなんだよ?』
リョウは人参が食べられなかった。
以前休日に勉強会をした時、マドカが持参した野菜ジュースを頑なに
飲まなかった事があった。
人参だけがとにかくダメで、母親がどう工夫してもそれだけは克服
出来なかったのだが。
目を見開いてかたまるリョウ。 『全然・・・ 分かんなかった・・・。』
マドカが指をVにしてピースを作ると、嬉しそうにニヤリと笑った。




