表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/50

■第43話 最初で最後のデート



 

 

 

 『ねぇ、ドコ行く~?』

 

 

マドカが月夜の歩道橋で、隣に立つリョウをチラリ覗き見る。


そのメガネの横顔はあの日の飄々とした感情の無いそれとは全く別物だった。

まるでもう考えてあるかのように、しかし照れくさそうに口ごもるリョウ。

 

 

 

 『あのー・・・ ベタでもいいですか・・・?』

 

 

 

すると、『なに? まさか、海??』 マドカが即答した。


肩をすくめ照れ笑いするリョウを見てマドカが笑う。 

『ほんとにベタだね~・・・』

 

 

すると、リョウはまだ続ける。

 

 

 

 『あの・・・ 海に・・・


  自転車で二人乗りして行きたいんです・・・。』

 

 

 

普段の冷静ぶって澄ましたリョウの口から出るとは思えないその言葉にマドカが

可笑しそうに笑って、そして『いいよ。』 と大きく頷いた。


素顔を隠さず見せてくれるそんなリョウが愛おしくて仕方なかった。

 

 

 

 『あのー・・・ それが、ですね・・・


  ひとつ問題が、あり、まし、てー・・・

 

 

  僕、自転車乗れないので・・・


  ワタセさんに運転お願いしてもいいですか・・・?』

 

 

 

マドカが一瞬かたまり、爆笑する。

 

 

 

 『なんだそれっ!! 


  フツウはさー、逆じゃんっ!!

 

 

  ・・・まぁ・・・ いいよ。

 

  じゃ・・・ チャリで海デートだね!』

 

 

 

ふたり、嬉しそうに微笑み合った。

その後もたまに思い出し笑いするように、マドカはぷっと吹き出していた。

 

 

 

 

翌日、マドカはこっそり学校をサボり、自転車を押して制服のまま

待合せ場所に現れた。


手を上げてその姿に合図を送るリョウ。

リョウもいつもの学生服姿だった。

 

 

 

 『サボって大丈夫なんですか?』

 

 

 

ちょっと眉根をひそめたリョウに、『お前がゆーな!』 即座に返して笑った。

 

 

マドカがサドルにまたがり、リョウが後ろの荷台にちょこんと腰掛ける。


男子を後ろに乗せたことのないマドカの運転は、グラグラとふらつきながら

恐ろしくノロいスピードで道を進む。


『今日中に着きますかね?』 リョウが後ろからひょっこり顔を出し声を

掛けると、マドカが『うっせ!』 舌打ちを返した。

 

 

目指す海までの道は、この先延々長い下りの坂道を通る。

今日は眩しいくらいの青空と、手を伸ばせば掴めそうな真っ白でもくもくの

カリフラワーみたいな雲が浮かぶ。


坂道のてっぺんで、一旦自転車を停車させたマドカ。

リョウは遠慮してマドカに掴まることなく、自転車のどこかのパーツを必死に

押さえている。

 

 

 

 『ねぇ・・・ ちゃんと掴まって。 こっから坂道だから。』

 

 

 

振り返ってリョウに目を向けるマドカ。


しかし、どこに掴まったらいいものか分からないリョウ。

『ぇ・・・ でも、どこに・・・。』 ぼそぼそと呟くリョウの腕をぐっと

引っ張りマドカは自分の腰に巻きつかせた。

 

 

 

 『もぞもぞ動いたら ”エッチ! ”って叫ぶからねー!』

 

 

 

ニヤリと悪戯に片頬をあげる。

リョウは呆れて少し頬を緩めると、遠慮がちにマドカの腰にまわした腕に

力を込めた。

 

 

あまり車が通ることのないその坂道は、まっすぐ真下に海が一望できた。

蒼い海と澄み切った真っ青な空と垂直に伸びる白雲のパノラマが、

まるで絵のように美しい。

 

 

一気に坂を駆け抜ける二人乗り自転車。


マドカはペダルから足を離し踏み込むことなく両足伸ばして、ただその傾斜に

身を任せる。

リョウは物凄いスピードで下ってゆく自転車に、ほんの少しの恐怖とワクワク

する気持ちを抑えられずに顔を綻ばす。


爽やかな風が正面から吹き抜け、マドカのポニーテールの髪束がリョウの顔に

ふんわり霞めた。

シャンプーのいい匂いにリョウの胸はどうしようもなく熱く高鳴り、

マドカに気付かれない程度その華奢な背中に寄り添って、そっと目を細めた。

 

 

どんどんスピードを上げてゆく自転車。


道端に立つ電柱が次々と過ぎてゆく。 

海まで突き抜ける平日のその道は人ひとり歩いていなくて

この世界にまるでふたりきりの様に感じさせた。

 

 

 

ふたりはそれに大口を開けてケラケラ笑っていた。


太陽の日差しが眩しくて、あたたかくて、少しだけ触れ合う互いの体温が

恥ずかしくて照れ隠しに思いっきり大笑いしていた。

 

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ