■第4話 生きる、の意味
( ”生きてる、人だよね? ”ってどうゆう意味だ?)
アイバ リョウは、見ず知らずの女子から急に掛けられた問いの意味を
考えていた。
(なにかの謎かけ、なのか・・・?)
参考書に戻した目はもうその活字を追うことが出来ず、目線だけそれに
落としてはいるがその不意に突きつけられた ”謎かけ ”のことで頭が
いっぱいになっていた。
(生命があり活動できる状態にある、という意味なのか・・・
生きがいを見出して日々を送っている、という方か・・・?)
前者なら間違いなく、答えはYESだ。
至って普通に呼吸をして、血液は体内を巡り食べ物も水も人並みに
摂取している。
でももし後者だとしたなら、それはきっとNOと言わざるを得ないだろう。
県内有数の進学校に入学したはいいが、極度の人嫌いとコミュニケーション能力
不足の為この春入学したばかりなのに5月中旬の今、もう学校には行かなく
なっていた。
もとい、行けなくなってしまっていた。
人がいるのが嫌なはずなのに、自宅の自室でこもって勉強するのもなんだか
落ち着かなかった。
学校を休みがちになっていた最初の頃、フラフラと当てもなく歩いていた
リョウが見付けたのがこの歩道橋だった。
なんだか中途半端な位置に造られたそれ。
車道向かいの住宅街に入ってゆく住人しか使わなそうなその歩道橋は、
昼間も然程利用する人はいない。
片方の階段側には大きなクスノキがあり、心地良い木漏れ日を落とす。
夜は更に閑散とするそこは、月あかりにしっとり照らされ、多すぎず少なすぎ
ない車の走行音が適度に耳にやさしくて、参考書に目を落とすにはベストの
場所だったのだ。
雨の夜以外は大体そこで月あかりの下、勉強をしていたリョウ。
夜11時くらいになると歩道橋を下りて自宅に帰っていた。
夜の8時から11時くらいまでが、最も集中できる誰にも邪魔されたくない
時間帯だったのだが。
(・・・生きてる、人・・・だよね・・・?)
あの一言がまだ頭をグルグルと巡り、リョウを悩ませた。
『帰って ”生きる ”の意味を辞書で引いてみよう・・・。』
ポツリひとりごちて、その夜は参考書をパタンと閉じた。