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■第38話 その手のぬくもりを



 

 

 

雨の中、傘を道路に放り出して暫く抱き合ったふたりは、

動揺が少しずつおさまるにつれ密着する互いの体温にどうしようもなく

恥ずかしくなっていった。

 

 

顔が上げられない。

相手の顔なんて見られるはずがない。

第一声なんて言ったらいいのか、なんと言われるのか。

雨に冷えたはずなのに、頬と耳だけはジリジリと熱を上げてゆく。

 

 

すると、どちらからともなくまるで覚悟を決めたように、

ゆっくり体を離すと静かに立ち上がった。


そして離れた途端に、相手のぬくもりが無くなってしまった事に

寂しそうに俯く。

 

 

 

 『ちゃんと送りますから・・・ 安心して下さい。』

 

 

 

リョウが少しだけマドカから目線をはずし、小さく呟く。


コクリと頷きマドカはポケットからハンカチを出すと、すっかり濡れて

透けてしまったリョウのカッターシャツの肩をそのハンカチで押さえ、

『ごめんね・・・。』 と申し訳なさそうに謝った。

 

 

 

 『なんで謝るんですかー


  別にワタセさん悪くないでしょ・・・?


  それに、ここまで濡れちゃったらもう諦めましょう。


  急いで帰って、お風呂入ってあったまらないと!』

 

 

 

道路に放置されたカバンと傘を掴み、ふたり、まだどこかぼんやりと

今夜の様々な出来事が整理できないまま家路へ向かった。

 

 

いつと変わらない暗い帰り道なはずが、今夜はなんだか怖くて仕方がない。

 

 

マドカはリョウの後ろを俯いて歩き、無言で手を伸ばしてリョウの制服ズボンの

ベルト通しに指をかけた。


黙ったままトボトボと歩くふたりの足音に、雨音と少しずつ強まる風の音が

交ざる。 すると一瞬強い風が吹いて、暗い住宅街に不気味な風音がひときわ

大きく響き渡った。

 

 

その音に驚きビクッと体が跳ねあがったマドカ。

掴まれたリョウのベルト通しにその衝撃が小さく伝わる。

 

 

すると、リョウが立ち止まり振り返った。


そして黙ってマドカの手をとり、握る。

暗がりでリョウの表情は見えなかったけれど、その手のぬくもりとしっかり

握りしめてくれる指の強さにマドカの瞳から再び涙の雫がこぼれ落ちた。

 

 

 

 

  (もう・・・ 好きだってば・・・


   ・・・いい加減気付けよ、バカー・・・。)

 

 

 

 

そのまま手をつないで、ふたり。


なにも話さずに暗い雨の道を歩いた。

 

 

 

リョウの胸に、マドカへのどうしようもない想いが込み上げる。

もうその気持ちには逆らえそうにないし、素直にそれに従いたかった。

 

 

 

 

  (ワタセさんは、どうするんだろう・・・


   僕に好きだって言われたら、困るのかな・・・。)

 

 

 

 

もうすぐマドカの家に着く。

もうすぐこの手を離さなければならなくなる。

 

 

 

リョウが立ち止まった。

 

 

傘に隠れたその表情は、これからマドカに伝えようとする想いに溢れ

どこか不安気にまるで泣き出してしまいそうに情けなかった。

  

 

 


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