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■第36話 名前で呼ばないふたり



 

 

 

その日、バイトが休みだったマドカはサツキの家に遊びに来ていた。

 

 

 

久々のサツキの部屋。

 

 

女子高生のそれとは思えない程の飾り気ないシンプルさに、

マドカはいつ来ても笑ってしまう。

カーテンひとつとってみても、水色無地でまるで男の子の部屋と言っても

分からない程。


マドカの方がベッドサイドにぬいぐるみがあったり、壁に写真を飾ったり

可愛らしい花柄のカーテンを掛けたりと女子っぽかった。


他愛無い話で笑い合っていた時、サツキがふと思い出したように口を開いた。

 

 

 

 『そう言えばさー・・・


  先週マドカがバイト休みだった日に、リョウ君に会ったよ。』

 

 

 

サツキの口から出た ”リョウ ”という固有名詞に、瞬時にマドカの顔色が

変わった。 マグカップを掴む指先に不意に力が入る。

 

 

『へぇ、そうなんだ・・・。』 

そんな事ひとこともリョウからは聞いていなかった。


敢えて隠していたのだろうかと、変に悪い方にばかり考えてしまう。

サツキの口から聞かされた事にマドカの胸はざわめき立つ。

 

 

 

 『コンビニに寄ったら、たまたまマドカが休みの日でさー


  ついでだから、リョウ君トコ顔出してみたんだけどね・・・

 

   

  なんかさー・・・


  色々相談うけたよ、私・・・


  ”マドカ本人には言えないこと ”だったみたいでさー・・・。』

 

 

 

サツキは、ニヤリとほくそ笑みながらマドカにけしかける。


”マドカ本人には言えない ”相談が、”マドカへの想い ”に直結すると

分かりやすく匂わしたつもりでニヤニヤと嬉しそうに頬を緩めていたのだが。

 

 

 

 『へぇ・・・。』

 

 

 

完全に疑心暗鬼になっているマドカには、そんなサツキの思惑など読み取れる

余裕は全く無かった。

マドカ ”なんか ”には言えない ”大切な話 ”と、ひとりで勝手に尾ひれを

付けて。

 

 

 

 

  (相談役まで外されたんだ、あたし・・・。)

 

 

 

 

心の中がドロドロとしたドス黒いもので満たされてゆく。

そのドス黒いものは、マドカを飲み込む程に込み上げあと少しで

溺れそうなくらいで。


夜の帰り道に家まで送ってくれるのも、休日に勉強を教えてくれるのも、

ただの親切心なのだ。

気を遣わずに喧々と言い合い出来る友達というだけの事。

でもサツキに対しては大切な相談事までするくらいに仲は深まっている。

 

 

サツキが悪い訳ではない。


そんなこと分かってはいるけれど、どうしてもトゲトゲした醜い気持ちが

見え隠れしてしまうのを抑えられなくなってきていた。

 

 

 

 『最近さー・・・


  マドカ、リョウ君の話ばっかするよね~?』

 

 

 

追い打ちをかけるように更にサツキの口から ”リョウ ”という名称が

再び突いて出る。

 

 

 

 『そんなこと無いけど・・・。』

 

 

 『そんなことあるでしょー


  なんか、リョウ君といるときのマドカ、愉しそうだもんね?』

 

 

 

やわらかく微笑むサツキの、この笑顔の意味が分からなかった。


サツキはリョウから好かれているという事を気付かずに、マドカにこう言って

いるのか。

もし気付いていて言っているとしたら・・・

考えかけて、マドカはかぶりを振った。 

サツキは親友なのだ。 そんな事をするはずがない。

そんな事をする子ではないって、マドカ自身が誰よりも分かっている。

 

 

 

 『アイツさ・・・


  いつまで経っても、絶対あたしのこと


  ”ワタセさん ”って、苗字で呼ぶんだよね・・・

 

 

  ・・・ほんと、感じ悪いったらナイわ・・・。』

 

 

 

どこか不貞腐れたように諦めたように、マドカが呟くと。

 

 

 

 『だってマドカだって ”アイツ ”って、絶対名前で呼ばないじゃない?』 

 

 

 

サツキが可笑しそうにクスクス笑っている。

ベッドに背をもたれてラグに体育座りをするサツキが、子供のように不満顔を

向けるマドカにやわらかい視線を送る。

 

 

 

 『・・・そうだけど。


  アイツ、サツキのことは ”サツキさん ”って呼ぶじゃん・・・?

 

 

  ・・・あれかな、


  やっぱ、男はビジンに弱いんだろーなーぁ・・・。』

 

 

 

そうどこか投げやりに言うと、マドカは俯いてそれ以上は口を開かなくなった。


サツキが不思議そうにそんなマドカをただ黙って見つめていた。

 

 

 


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