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■第34話 興奮気味なその姿



 

 

 

マドカはしゃがんだままそのパンフレットに目を落としていた。

 

 

そしてサブバッグからそれを取り出すと、どこか遠慮がちに自信なさそうに

手を差し出してリョウに見せる。

 

 

 

 『あのさー・・・ コレ、どう思う・・・?』

 

 

 

それは地元の女子大の栄養学科に関するものだった。


表紙を一瞥すると、『どうって・・・?』 状況が飲み込めず質問返しをする。

まさか勉強嫌いのマドカが大学進学を考えているなんて、想像だにした事が

無かったリョウ。

 

 

 

 『あたしさー・・・ 料理すんの好きなのよ、実は・・・


  毎日お弁当は自分で作ってるし、


  他は全然ダメだけど料理カンケーだけは・・・


  ・・・でね。


  あたし、子供も好きなのよ・・・ こう見えても。』

 

 

 

マドカが子供好きというのは納得な気がした。

元々面倒見も良いし、マドカ自身が裏表ない純真な子供みたいだから

好かれそうに見える。

 

 

 

 『だからさー・・・


  管理栄養士?とかゆうヤツになって、


  小学校の給食のメニュー考える仕事がしたいなー、って・・・


  ・・・思って、るんだ・・・けど・・・。』

 

 

 

リョウが目を見開いてかたまっている。 

メガネのレンズ越しにでも、その目の驚きの色は容易く伝わるほどに。 

ポカンと口も開いてしまっている。


マドカが、この気怠いギャル風のマドカがこんなにしっかり将来の事を

考えていたという事にリョウは心の底から感動して言葉を失っていた。

 

 

 

 『ねぇ・・・。』


 『いいと思いますっ!!』

 

 

 

リョウが珍しく興奮気味に身を乗り出す。 


そして再度マドカからパンフレットを奪うと、それを熟読し少しズレたメガネの

ブリッジを中指で押し戻しながら、うんうんと頷いてひとり納得している。

 

 

『もっと勉強しましょう!!』 リョウが顔を高揚させて、マドカに詰め寄る。

 

 

するとパンフレットをめくり受験科目にざっと目を通すと、少し眉根をひそめ

『あと1年半でなんとかなるか・・・ いや、なんとかしよう!』 

ブツブツとひとりごちる。

 

 

 

 『休みの日に、昼間も勉強しましょう!』

 

 

 

リョウの頭の中が高速回転して ”マドカ試験勉強スケジュール ”の

ソロバンをはじく。


『ぇ、でも・・・ アンタ、迷惑じゃないの?』 マドカが心苦しそうに眉を

しかめ足元では自信なさげにモジモジとローファーの靴先が擦り合っている。

 

 

 

 『全っ然です!』

 

 

 

こんなに張り切って興奮するリョウを見るのははじめてで、マドカはそれに

少し気圧されながらも自分のことで懸命になってくれる姿が嬉しくないはず

が無かった。

 

 

 

 『じゃぁ・・・ お言葉に甘えて、お願いします。


  あ! あのさ、せめてものお礼ってゆーか・・・


  あたし、そん時お弁当作って持ってっから!


  毎回買ってたら、お金かかるしさ・・・。』

 

 

 

丁寧にリョウにお礼を言いつつ、瞬時に浮かんだ

”リョウに手作り弁当を食べてもらう ”

という案にマドカは胸の高鳴りを抑えられずにいた。

 

 

 

 

  (ヤバい・・・ 嬉しすぎて死ぬ・・・。)

 

 

 

 

それはリョウも同じだった。 

休日も一緒にいられて、更にマドカの役に立てるかもしれないのだ。 


しかし飛び上がりたいくらいの興奮と比例して、ほんの少し小さな焦りが

胸に生まれた。

 

 

 

 

  (すごいじゃないか、ワタセさん・・・


   僕も・・・ 中途半端なことしてないで、ちゃんとしなきゃ・・・。)

  

 

 


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