■第31話 満月の引力
突然歩道橋に現れたサツキの姿に、リョウが驚きそしてペコリと小さく
会釈をした。
『近くまで来たからマドカんトコ寄ったんだけどさー・・・
マドカ、今日シフト入ってないんだね、いなかったわ。』
昨夜、マドカが休みなのは聞いていたリョウ。
『ぁ、はい。 今日はバイト休みです。』 まるで自分のことのように
ごく自然に告げるリョウに、サツキは嬉しそうに目を細めてクククと笑った。
『寂しいでしょ~?』 欄干に手をつきリョウの隣に立って、少し体を屈めて
覗き込むように頬をニヤリ緩めている。
『そうですね。
うるさく邪魔する人がいないと、勉強が進み過ぎてしっくりこないです。』
涼しい顔をしてサラリ誘導尋問をかわしたリョウに、サツキは流石とばかり
声をあげて笑った。
今夜は満月だった。
その明るく眩しい光は、隅から隅までくまなく照らすようで。
心の中なんて全て見透かされ、隠し事など出来そうにないと思わせる。
あまりに見事なそれに、思わずマドカに今すぐ教えてあげたくなって
そっと目を伏せた。
サツキはその、リョウのなにかを考え込んでいるような横顔を
やさしく見ていた。
『ねぇ、リョウ君・・・
マドカ先生から ”人の気持ち ”を教わってるんだって?』
可笑しそうに頬を綻ばせるサツキにリョウは照れくさそうに顔をしかめ頷いた。
すると、『私もひとつ、いい?』 サツキの言葉に、
『ん?』 リョウは小さく首を傾げる。
『想ってても言葉に出さないなら、
それは、相手にとっては想われてないのと一緒だよ。』
サツキは嬉しそうに微笑む。
『マドカ・・・ 最近ほんっと可愛くなったよねー
元々可愛い子だけど、なんか・・・ キラキラしてる、ってゆうのかな?
親友の私としては、寂しいの半分、嬉しいの半分って感じでさー・・・。
なんかね、ふたりを見てると・・・
こう・・・ なんてゆーか、やさしい気持ちが湧いてくるってゆうか
あったかい気持ちで満たされるってゆうか・・・。
伝えたい言葉はさー・・・
難しい言葉なんか使わなくていいし、
カッコよくなんかなくていいんだよ・・・
単純な言葉で充分なんだよ、シンプルでいいの。
きっとリョウ君は、元々頭いいからさ・・・
人より何倍も頭で考え過ぎちゃうんでしょ~?
大事な場面こそ、幼稚園児にでもなったつもりでいいんだよ・・・。』
リョウが赤くなってサツキの言葉に俯いていた。
これだけマドカへの気持ちがバレていたらもうサツキには誤魔化す必要もない。
人嫌いで人と向き合うことが苦手な、弱々しくてちっぽけなリョウが
ほんの少しだけ丸めた背中を伸ばし胸を張った。
そして今夜の満月の引力に引っ張られるように、
顔を上げるとひとつ息をついて笑った。




