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■第26話 学園祭3



 

 

 

焼きそば班の当番が交代のタイミングに合わせ、マドカはリョウを誘っていた。

 

 

 

マドカに連れられやって来た女子高の校舎。


苦手意識が強すぎて近くを通ったことすらなかったというのに、今からこの

不夜城のようなゴテゴテと飾られ光り輝くエリアに足を踏み入れるのだ。

 

 

嫌な緊張が喉元に込み上げる。


自分みたいな人間がここに居ることに、アッチのギャルもコッチのギャルも

不信感100%で首を傾げているのではないかと、被害妄想甚だしく身の置き所

が無い。

 

 

すると、『ん。』 マドカはリョウの前に手の平を出した。


なにをしたらいいのか分からずマドカを黙って見ているリョウに、

『メーガーネっ!』 リョウから無理やりメガネを奪う。

 

 

 

 『ちょっとワタセさん・・・ 


  ほんとに僕、なんにも見えないんですから・・・。』 

 

 

 

不安気に声を上ずらせたリョウに、目をやって瞬時に逸らしたマドカ。

 

 

 

 

  (裸眼のコイツ・・・ 直視できないじゃんか・・・。)

 

 

 

 

一瞬マドカは息を止め躊躇い、そして意を決したようにリョウの手首を

乱暴にとった。

 

 

 

 『あたしから離れなきゃ、ヘーキでしょ?』

 

 

 

そう言って、マドカに強引に掴まれたリョウの手首。


はじめて触れた、マドカのしっとりした指先の感触。

その手はじんわりあたたかくて、リョウのそれはひんやりと冷たかった。

 

 

 

 

 

   どきん どきん どきん どきん・・・


   ドキン ドキン ドキン ドキン・・・

 

 

 

 

 

途端に無言になったふたり。

照れくさくて恥ずかしくて、相手を見られない。

 

 

ほんの小さく、マドカが振り返った。


するとメガネは無いけれどいつも通りの飄々とした顔を向けるリョウがそこに。

 

 

 

 

  (どきどきしてんのは、あたしだけか・・・。)

 

 

 

 

どんどん火照る頬にマドカは面映そうに俯いた。


メガネを奪われ全く見えないリョウは、ただひとつだけ頼れるマドカの

あたたかい指先に緊張して息苦しいのを気付かれないよう、

隠そうと必死だった。


マドカの顔が見えないというのはある意味ラッキーだったかもしれない。

 

 

 

 

  (へ、平気なのかな・・・ ワタセさんは・・・。)

 

 

 

 

リョウの普段青白い頬もまた、今日はほんのり血色が良くなっているのを

余裕がないマドカは気が付けずにいた。

 

 

 

マドカに手首を引かれ、リョウが歩く。


学園祭の大袈裟なくらい飾り付けられた校舎に、たくさんの出店が並び催し物が

開催され耳に痛いくらいのテンションが高い女子のハイトーンボイスと、

それに続くように響く男子の愉しそうな声色。 

どこの国の音楽か分からない大音響のBGM。


賑やかな喧騒の中、マドカとリョウふたりは手を引き引かれゆっくり進んだ。

 

 

 

 『どう・・・? 女子高の学祭・・・ はじめてでしょ?アンタ。』

 

 

 

たまに指をさして出店の説明をしたり自分のクラスを見せながら、

マドカはリョウがココにいることにえらく満足顔だった。

 

 

すると、

 

 

 

 『どうもなにも・・・ 


  メガネ無いんでなにも見えないですよ・・・。』

 

 

 

ぼそり。リョウに言われて初めてそれに気が付いたマドカ。

変装させる事に躍起で、本来の目的が完全に本末転倒になっていた。


マドカは一瞬その場にかたまって、思わず体をよじって大笑いした。

リョウの手首を掴んだままで、ひとりでゲラゲラ笑い続けている。

 

 

そんなマドカにやさしく目を向けると、『そろそろメガネ返して下さい。』

とリョウがぽつり。


『ごめんごめん。』 マドカからそれを渡されると、やっと安心したように

メガネをかけブリッジを中指で上げて、リョウは呆れたように首を振りマドカの

馬鹿さ加減に肩を震わせて笑った。

 

 

そして、



   すぐさま再びマドカの手を取り、そっとつないだ。

 


 

 

 『・・・・・。』


 『・・・・・。』

 

 

 

 『あ・・・ 


  ・・・もう、見えるから・・・ 大丈夫でした・・・。』

 

 

 

慌てて手を離すリョウ。

マドカも目を丸くして見開き、かたまっている。


リョウのメガネ越しの目に、マドカの頬が染まってゆくのが見えた。

マドカの目にもまた、リョウの青白い頬がほんのりさくら色に。

 

 

ふたり、同時に俯いた。

 

 

 


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