■第24話 学園祭
ふたり、欄干に手をついてせわしなく走り去る車をぼんやり眺めていたその夜。
リョウはピーナッツチョコを食べ、マドカはストローを咥え、
ただ黙って立っていた。
口の中で溶けていくチョコを味わいながら、
左隣に立つマドカにリョウの意識は集中していた。
細長い蛇腹のプラスティックを奥歯で噛みつつも、
右隣に佇むリョウに向けマドカの五感は研ぎ澄まされていた。
すると、
『あ。 そうだ・・・
あのさー もうすぐウチの高校の学祭あんだよね~
あたし、焼きそば焼くの~』
『へぇ・・・。』 嬉しそうに話すマドカに相槌を打ったリョウ。
やはり中学の学校祭とは違って、高校のそれは規模が違うんだろうな。などと
ぼんやり考えていた時。
『アンタ、来ればいーじゃん。』
この歩道橋だけじゃなくて、他の場所にもリョウを連れ出したい気持ちが
沸き起こる。 リョウにとっても決して悪いことではないはずだ。
『え?????』
『え、じゃなくて。
来なよ! おもしろいよ、来たらいーよ。』
『ないないないない!』 慌てて胸の前で手を ”イヤイヤ ”と高速で振る。
自分の学校さえ行けないリョウが、女子高の学祭になんか行ける訳がなかった。
しかも世の中で一番苦手な人種 ”ギャル ”ばかりの女子高なんて。
『ぁ・・・ 誰かに会ったら気まずいか・・・。』 ぼそり呟いて、
『変装すればいーじゃんっ!!』 目をキラキラさせて身を乗り出すマドカ。
すると、両手を伸ばしてリョウの銀縁メガネのツルを引き抜きさっとはずした。
マドカの突飛な行動に、パチパチとせわしなく瞬きしたリョウ。
『な、なんですか・・・ メガネ、返してくださいよ・・・。』
不安気な声色。
目を細めて全く見えはしないメガネを探し、両腕が見当外れな空を彷徨う。
その時。
はじめて見る裸眼のリョウに、マドカはかたまっていた。
声が出ない。
見入っていた。
レンズ一枚挟まないだけで、こんなに人は変わるものか。
『ぁ、アンタ・・・
メガネとると、だいぶ・・・ 印象違うから、絶対バレないよ・・・。』
尚もリョウの顔に見入ってしまって、無意識のうちに瞬きがおざなりに
なっていた。
頬がどんどん熱くなってゆく。
思わずメガネをぎゅっと握りかけて、慌てて手の力を抜いた。
『いや、無いとなんにも見えないから無理ですよ。』
マドカが目の前にいるというぼんやりしたシルエットしか見えていないリョウは
まさかマドカにまっすぐ見つめられているなんて思いもせず、またどうせ
からかって愉しんでいるのだろうと目を細め眉根をひそめて困った顔を向ける。
『あたしの後ろ、くっ付いてたらいーじゃん! ね、行こう行こう!!』
やたらと強引なマドカに押し切られ、人生初、リョウは女子高の学園祭に行く
ことになってしまった。
やっと返してもらったメガネをかけ、ブリッジを中指で押し上げると頭を抱えて
大きな大きな溜息をついたリョウ。
そんなリョウを横目に、マドカは少しだけ目を伏せてぽつり言った。
『ダイジョーブだよ・・・ サツキも来るからさ・・・。』
『え?』 言われている意味が分からず、リョウは首を傾げた。




