■第23話 画面に現れた一枚の画像
背が高く肩幅がガッチリした色黒が、狭い自室をウロウロと背中を丸めて
歩き回りながら片耳にケータイを当てている。
その耳は、燃えるように赤く染まってまるで湯気でも立ちそうで。
『うん、そう・・・ 学祭、学祭。 そう、マドカんトコの・・・』
『ほら、マドカと3人でさー・・・
そうそう、マドカ。 アイツ、焼きそば屋やるらしいからさ、
アイツに焼きそば奢らせよーぜ?
うん、そうそう・・・ 3人で、3人で。』
『え、マジで?! うん、うん・・・ じゃあ、詳しいことはまた後日。
うん・・・ た、愉しみにしてっからさー・・・・
うん、じゃあ・・・ また・・・。』
耳からケータイを離すと、暫しそのケータイ画面を呆然と見つめたまま
かたまっている。
再度耳に当ててみて、確実にその相手との通話は終わっていることを確認する。
すると、その長身はしゃがみ込んで思いっきりガッツポーズした。
頬は高揚し、目は潤み、口許は嬉しさで緩みまくっている。
喜びいさんでじっとしていられず、慌てて自室のドアを飛び出すと
丁度バイトから帰宅したマドカと廊下で鉢合わせした。
『な、なに?! ニヤニヤして気持ち悪い・・・。』
マドカが目を眇め、怪訝そうに顔を歪ませる。
問い掛けたくせにニヤニヤの理由も聞かずに、さっさと自室に入ってゆこうと
するマドカを慌てて引き留め、マドカの部屋の開けかけたドアをゴツい手で
押して閉めた。
『学祭! お前んトコの学祭・・・ 行くって! 今、電話してて・・・。』
飛び上がりそうなくらいに喜ぶ、デカい図体した目の前の弟ダイゴに呆れてちょっと笑ったマドカ。
『お前からは言ってないよな?』 しつこいくらい何度も訊いてくる。
『ゆってないってばー・・・
アンタがわざわざバイト先まで来てうるっさく言うから、
あの後すぐ会ったけど、あたしからは誘わなかったよ~
つかさ・・・ あたしから誘ったら一発じゃーん?』
すると、モゴモゴと歯切れ悪く口ごもったダイゴ。
『いや。 俺から誘って、来てもらうことに意味があんだよ・・・』
ほんの数分前まで ”その相手 ”と繋がっていたケータイを乙女のように
大切そうに日焼けしたゴツい手で包む。
放っといたら頬にでもケータイを当ててうっとり溜息でも落としそうな気配だ。
『つか、さ~・・・
アンタもしつこいっつーか、めげないっつーか・・・
ガッツあるよね? ガッツっつか、ジョーネツっつーか・・・
おんなじ高校まで通ってんだから、
さっさと早く告って散ればいーのに・・・。』
舌打ちをしてマドカをジロリ睨んだダイゴ。
随分と気安く言ってくれるその一言に、不満気に。
”告る ”の部分にも ”散れば ”の部分にも各々異論があった。
ダイゴのケータイのロック解除すると画面に現れた一枚の待受画像。
豪快に大口開けてサツキが笑っていた。




