■第19話 込み上げる焦燥感
『ど・・・どうしたんですか?』
突然のその姿に、リョウがせわしなく瞬きを繰り返した。
久々に全速力で走ったため呼吸はひどく乱れ、運動不足な体を嫌というほど
思い知らされる。
急なサツキの姿にあまりに緊張して、少し声も上ずってしまったかもしれない。
サツキは今夜もやわらかい雰囲気をまとって、
見とれるほどに端正な顔立ちで笑う。
『バイトの後にマドカと待合せしてるの。
ちょっと早目に着いたから、リョウ君トコででも待とうかと思ってー』
(バイト・・・。)
リョウは先ほど見掛けたマドカの姿を思い返していた。
思い切ってサツキに訊いてみようか。
でも、なんて訊けばいいのか。
”ワタセさんは僕以外にも男友達いるんですか? ”とでも訊こうか。
馬鹿らしい。
格好悪い。
情けないにも程がある。
少し伏し目がちに考え込んだリョウへ、『ぁ。 勉強の邪魔んなっちゃう?』
覗き込むようにキレイな目でサツキに見澄まされ、リョウが照れくさそうに目を
逸らした。
『いや、全然・・・
邪魔だったらいつも、散々ワタセさんにされてますし・・・。』
サツキがそれにケラケラ愉しそうに笑う。
マドカとリョウの軽快な掛け合いが面白くて仕方ないらしい。
『マドカってさー・・・
あんなギャル風にしてなきゃ、実はすっごい可愛いって知ってたー?
ほんと照れ屋だから、わざと言葉遣いとかも汚くしてさ・・・
めちゃめちゃ面倒見いいし、やさしいし、カッコいいんだよねー・・・。』
その嬉しそうにマドカのことを話すサツキを横目に、
リョウが目を細めそっと笑う。
つけまつ毛をしていないシンプルな目元の、あの夜のどこか幼い顔が浮かぶ。
(なんだか、無性にワタセさんに会いたい・・・。)
『・・・ワタセさんも。 サツキさんの事、ベタ褒めしてましたよ。』
『私たち、両想いだからね~!
っていうか・・・ 気持ち悪くなーい?
お互い褒め合って、喜んでんの。』
ふたり、ケラケラ笑い合った。
マドカがいない所で、マドカの話をして嬉しそうに微笑み合う。
欄干に肘をついた姿勢で愉しそうに笑うふたりの声が、車の走行音に
混じり響いた。
その時。
バイトが終わり歩道橋へ向かうマドカの目に、遠くリョウとサツキが
ふたり並んで笑い合う姿が見えた。
なんだか、胸にこみ上げる原因不明の焦燥感に苛まれる。
遠く歩道橋を見上げ、息を呑んだマドカの足がかたまり動けなくなっていた。




