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■第18話 込み上げるモヤモヤ



 

 

 

珍しくやたらと喉が渇いて一旦参考書をめくる手を止め、カバンに常備している

ペットボトルを取り出すもそれはもう空だった。

 

 

リョウはひとつ息をつくと参考書に落とす目を上げぼんやり今夜の月を眺める。

薄雲がかかって霞んだ月が、遠慮がちにそこに覗いている。


ふと、マドカから以前言われた事を思い出した。

 

 

 

 

  ”角のコンビニでバイトしてんの。 今度おいでよ。”

 

 

 

 

普段あまりコンビニは利用しないのだが、近くの自販機まで行くとそれはもう

コンビニに行くのと変わらない距離だった。

なんとなく行ってみようかと思いたった、その薄月の夜。

 

 

歩道橋の手摺りに手を当てながら、階段の段差を駆け下りるその足音はまるで

ステップでも刻みそうな軽快なものだった。


歩道橋を下りたその道をまっすぐ行った通り沿いにそれはあった。

煌々と照明が照らすガラス張りのその中には、雑誌コーナー前で立ち読みする

学生らしき姿が数人。


通りに向けて貼られている ”初夏のおすすめスイーツ ”というポスターの写真が

やけに美味しそうだ。 

女子のハートを鷲掴みするんだろうな、なんてぼんやり考える。

 

 

自動ドアの明かりに群がる蛾が羽音を立てて、入店する人が不快な顔を向ける。


車で来た客は今はいないようだった。

ガラ空きの駐車場のあたりから、そっとレジの方を眺めてみたリョウ。

 

 

 

突然来られて、マドカは驚くのだろうか。


喜ぶのか。 マドカのことだから、前もって言っておけとでも言うか。

またうるさく夕飯抜きをまくし立てて何か買わされそうだ。 

歩道橋で立ち食いはあまり好ましくないのだけれど。


色々な想像をして少し笑いを堪えながら、反応をどこか愉しみにしつつ

自動ドアを進もうとしたその時。

 

 

 

レジ前に立つ男性客と、親しそうに愉しそうに話すマドカの姿が目に入った。


その客は同年代だろうか。 

一目でクラスでの人気がありそうな雰囲気が見てとれる。

背が高くて、スポーツをしているのか色黒で引き締まった体だというのが

Tシャツ越しでもすぐ分かった。 

知合いなのだろうか、やけに慣れ親しんだ感じで。

 

 

『マドカからは言うなよ!』 リョウの耳に、その客が ”マドカ ”と呼び捨てに

したのが聴こえた。 店から出る他の客に自動ドアが開いた一瞬のことだった。

 

 

 

思わず、リョウの足がかたまり動けなくなる。


瞬時に頭の中で目まぐるしく色々なことを考える。

その明るく眩しい光の当たる自動ドアは、弱々しい月夜の歩道橋に佇むことしか

出来ない自分には踏み入る事など出来ない境界線のように思えた。

 

 

踵を返し、仄暗い歩道橋へと引き返す。


コンビニには入らず、ドリンクも買わず、そのままいつもの歩道橋へと。

その足はだんだんと早足になり、仕舞には全力で駆け出していた。


マドカのことは、歩道橋の月あかりの下で話す小1時間の顔しか知らない。

何故か全て知っているみたいなつもりでいたけれど、その小1時間以外の顔は

なにも知らないのだとその時ハッキリ痛感していた。


リョウ以外にも仲良く話す相手はたくさんいて、学校には友達がたくさんいて、

本当はリョウにただ付き合ってくれているだけなのかもしれない。

”人の気持ち ”が分からない、人として不完全なリョウに。

 

 

考えだしたらまるでつんのめり坂を転がり落ちるように、悪い方に悪い方に

考えてしまっていた。


モヤモヤする。

胸の奥が不明瞭な不安や焦りや苛立ちでモヤモヤと重苦しくて、

どうしようもない。

 

 

 

全速力で来た道を戻り歩道橋の階段を一足飛びで駆け上がると、

リョウがいつも立つあたり。

欄干に手をつき佇むサツキの姿が目に入った。 


サツキもリョウの姿を捉え、軽く手を上げて左右に振る。

 

 

 

サツキの形良い薄い唇から白い歯がやさしくこぼれた。

 

 

 


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