■第13話 気にしてなんかいないんだ
『・・・ねぇ、訊いてもいい?』 どこか遠慮がちに呟いてリョウからの返事を
待つことなく『なんで言い返さなかったの? さっき。』 とマドカは勝手に
続けた。
『相手が3人だったから?
でも、もし1人だったらさー・・・
いつもあたしと言い合いしてるみたいに嫌味っぽく言い返した?』
リョウが情けなく目を伏せ、力無く笑う。
少しの間考え込んだ。
『・・・それは・・・ いや。 いつものは ・・・ワタセさんだから。』
言いづらそうに口ごもったリョウに、マドカが少し目を眇める。
『なにっ?! あたしは所詮この制服だから言い負かせる、って?!』
超おバカ高の緩い制服を指でつまんで引っ張り、強調する。
あからさまに癪に障った顔を向け、舌打ちを打つ厚ぼったいその唇。
『・・・・・。』 リョウはバツが悪そうに目を逸らしハハハ。情けなく笑う。
それだけが理由ではないけれど、完全否定も出来ない。
『否定しろっ! バカ。』
マドカは再度舌打ちしてブツブツ文句を呟いている。
『あんなさー・・・
一人じゃなんにも出来ない、
クソもやしなんか気にしてんじゃないよ!ダセェ
なーに卑下しちゃってんの? 意味わかんない。
つかさー・・・
アンタが思ってるより、全っ然、
他人はコッチの事なんか気にしてないんだよ、基本
あのさ、例えばさ・・・
あたしがいつも飲んでるジュース、なんだか分かる~?』
急に訊かれて少し驚いたリョウ。
『ミックスジュース?か、なんかでしたっけ?』
『ちがう。野菜ジュース。 つか、正式名トマトたっぷり野菜ジュース。
毎晩のようにあたしが飲んでても、アンタ、分かんないでしょ~?
それと一緒。
視界には入っても、そんくらい他人は気にしてなんかいないんだよ。』
言われてみれば見ているようで見ていない、全く気にしてなどいなかった事に
気付く。
『他人は他人の事なんか、ショージキ、どーだっていーんだよ。
だから他人の目なんか、基本、気にしなくていーの!
でもさ、それにしても必要最低限のマナー? ・・・つうか
人の気持ちとかを、ちゃんと考えんのが大事でしょ~?
コ・ミュニ・ケ? コ・ミニュ・・・??
まぁ・・・ ソレだ、ソレ!!』
『・・・なるほど。』 まっすぐマドカを見てリョウが頷いた。
だいぶ細かい事をショートカットした乱暴な言い分だが、あながち間違っては
いないように思えた。
『あれ。・・・どした? やけに素直じゃん?』
マドカがどこか拍子抜けして笑う。
『いや・・・ はじめてワタセさんの言ってる事に納得しました。』
『はじめてかよ! 失敬な奴だな。』
ふたりで呆れて笑い合った。
そして、互い、少し口をつぐんで何か考え込むようにそっと目を伏せる。
すると、マドカは言うのを少し躊躇うように、言葉を選びながら静かに
口を開いた。
『まぁ、すべてはジブン次第でしょ~
ガッコだってさ・・・
やっぱ行こうと思ったら、
なんかいいタイミングんトコで行ってみたらいいし
ダメなら辞めんのも別にアリだと思うし・・・
ジブンで、頭から煙出るまで考えんだね~』
なんだかそのマドカの横顔は凛としていて男前で、格好よかった。
今夜も気怠そうに背中を丸めて歩道橋の欄干に手をつく、いつものマドカな
はずなのに。
『まぁ、ひとつだけ自信もって言えんのは、
くっだらねぇ表面上のお友達なんか要らないってこと。
そんなん10人作るくらいなら、
ホンモンが1人いたほがずーっとイイよ。』
『・・・いるんですか?』 リョウが目線を向ける。
すると、マドカが目を細めて微笑んだ。
『いるよー・・・
超お勉強できて、しっかりしてて、すげぇビジンの友達がね・・・
中学ん時の同級生なんだ~
今度アンタに紹介してやるよ、ビジンでまじビビるよー・・・』
嬉しそうに ”その顔 ”を思い浮かべながら、マドカが顔を綻ばす。
はじめて見せたそのやわらかい表情に、リョウは瞬きを忘れた。
『なんでそんな人がワタセさんなんかと?』
『なんかとはナンだ、バーカ!』




