惨劇
「なんだてめぇ!」
男が叫ぶ。
次の瞬間には足と胴体が真っ二つになっていた。
赤いパーカーの少女は、大剣を振り回し、事務所内の人間を片っ端からいともあっさりと殺害していった。
一階から上へ、すべての部屋を、人を切り刻み、最上階。少女はとうとうジードと相対した。
趣味の悪い紫色のスーツ、金髪に、青白い肌。右目には銀色に輝くクレジットパネルをはめ込んでいる、尖った鼻の男、ジードが部屋の中央で、レーザーガンを構えていた。
「ガキが、調子に乗りすぎだ」
ジードがレーザーガンを少女に向けて放つ。少女はそれを避ける。
ジードは少女に打ち続ける。
少女は光線を避けつつ、時には大剣で防ぎつつ、ジードに肉薄した。
「母さんはどこ?」
少女は無表情にジードに問う。
ジードはそれには答えずに、至近距離でレーザーをぶっぱなす。
少女は大剣で打ち払い、そのままジードの両手を切り落とした。肉が焼ける匂いが充満した。
大剣で切られた物は、切られると同時に、超高温で傷口を焼かれる。すなわち焼き切られるのである。ジードは痛みのあまり、床にのたうちまわった。
「ぐあああぁあ!!!」
「母さんはどこ?」
無残な光景を創り出した張本人、少女は眉一つ動かさない。
無表情は変わらない。
ジードは恐怖した。
(なんだこのガキは!?)
(いきなり現れて、部下を殺して、俺を殺す? 何故? クソっ、腕がいてぇ、死にたくねぇ!)
少女は大剣を振りかざし、ジードの右足を根元から焼き切る。
絶叫が部屋に響き渡った。
「何の話だ!? 俺はしらねえ!」
激痛の中、息も絶え絶えになりながら、ジードが顔を歪めて言った。
少女の頬は赤く蒸気し、初めて表情を変えた。
「嘘をつかないで。あなたたちが、連れて行った」
言うと同時に、ジードの左足を焼き切る。
薄れゆく意識の中、ジードは、両手足の痛みと、死への恐怖と、走馬灯と色々なものがごちゃまぜになった脳内のなか、この少女に殺されたくないがため、少女が望む、答えを頭の中から引き出した。
それがジードにとって幸運かどうかは、わからない。
ジードの言葉を聞いた少女は、彼の頭を切り落とした。
死ぬ一瞬、両手足の痛みが消えて、ジードは安堵した。
*
ユウトとジードの部屋に入るのと、少女がジードの頭を切り落とすのが同時だった。
「このガキっ!」
「撃つなっ!」
私はとっさにユウトの腕を掴む。照準がズレて、少女の足元が黒く焦げ付いた。
少女はこちらから目を離さず。じりじりと後退した。透き通るような青い目だ。
赤いパーカーは血を大量に吸って、赤というより黒に近い色になっている。顔にも返り値を浴びていた。けれども、私は、彼女が普通の少女に見えた。
「ジャック! 手を離せ!」
ユウトが喚く。私はユウトが彼女に発砲できないように、レーザーの発射口を手で掴んでいた。
「お嬢ちゃん、武器をおいて、こっちにくるんだ」
私の言葉に反して、少女はくるりとこちらに背を向けると、窓を突き破った。
「なにっ!」
私は窓に駆け寄る。ジードの事務所の最上階、6階建てのビル。
落ちて無事なわけがない。私は当然地面に赤い花が広がっている光景を想像した。
けれども、少女は普通ではなかった。落下中、見事に体勢を整えて、地面に着地する。傷一つなく。
「どけジャック!」
ユウトが私を押しのけて、レーザーガンを撃つ。
けれども無駄だった。ユウトの攻撃をいとも簡単に避け、少女はその場から走り去った。
ユウトが私の胸ぐらを掴み、怒鳴る。
「ジャック! なんで邪魔した!?」
「まだ子供だった」
「ふざけんな! 子供がだるまの死体をこさえてたまるか!」
ジードの死体を指差す。彼の死体は無残にも四肢が焼き切られていた。出血がほとんどないのは少女が使用した武器が大剣だったからだろうか。辺りには肉の焼ける匂いが充満していた。
「ジャック、あれは化物だ! 下の階だって酷い有様だぜ! それともなにか? 急にフェニミズムに目覚めたか?」
ユウトは人きしり怒鳴ると、ぺっと床につばを吐いた。
「そのことについてはまた後で話そう。今は警察が来る前に、ジードだ」
「はっ、そこに転がってる頭と会話でもするってのかよ」
「惜しいな、銃を貸してくれ」
私はまだ怒っているユウトから銃を借りると、グリップでジードの頭を叩き割る。そして中に手を突っ込んだ。
「おいおい、フェニミズムにめざめたかと思いきや、今度はサイコパスかよ」
顔をしかめるユウト。私はジードの脳みそから、硬いものを探り当てる。
「シリコン製のマイクロチップた」
「なんだって?」
「データを管理する時、もっとも安全な場所は自分の頭の中だ。寿命貸しなんて職業はなおさらデータをきちんと管理しなければならない」
私は取り出したチップにこびりついたジードの脳を取りながら話した。
ユウトはおえっと嘔吐く。
「だがらっていきなり頭をかち割るか、普通」
「所長が最近業界でこういうデータの保存方法が流行っていると言っていたのをおもいだしてね。彼女も、流行にあやかって、チップを埋め込んだそうだよ」
「ぞっとしないね」
「埋め込んだのは、ユウト、お前の頭にだ」
「……」
「冗談だ」
「マジに信じたじゃねーか!」
「ともかく、これで、データは手に入った」
警察のサイレンが聞こえる。今度は本物のサイレンだ。
私はチップをポケットに入れ、ユウトとともに、足早にその場を去った。
戦闘描写がお粗末……。全体的にお粗末です。