表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/55

夕食

2015/01/06 改行を本編に近い形に修正。字下げ、句読点の位置を修正。

 日が沈む寸前に宿に戻った。

 宿の砂時計を見ると大量の砂が下に落ちている。砂がすべて落ちたので逆にしたのだろう。


「あ! やっと帰ってきた、待ってたよ」


 ケレーレンが笑顔で迎えてくれる。


「ごめんごめん。ちょっと親方と話し込んじゃって」

「大丈夫。じゃあ夕食にしましょう」


 ケレーレンと共にキッチンの隣にある部屋に入る。食堂は別にあるのだが、初日はいつもヘレンの家族を交えてこの別室で食事をしている。


 部屋の中にはヘレン一人だけがおり、テーブルには料理が置かれていた。


「リョーダ、おかえり」

「ただいま。待たせちゃったみたいですみません」

「そんなに待ってないから大丈夫よ」


 ヘレンが笑顔で応えてくれる。二人ともやさしい。


 席に着き、三人で食事前のお祈りをする。古代語らしく何を言ってるかわからないが、朝食と夕食の度に繰り返しているので覚えてしまった。


 お祈りが終わり食事を始まった。

 今日の食事はなにかの動物のステーキ、鶏肉のスープ、野菜と卵の炒めもの。あとは蒸かしたジャガイモだ。


 よかった。今回は虫が無い。

 この国の人は虫を食べる食文化があるらしく、虫が食卓に並ぶ。郷に入れば郷に従えを実践しようとしているが、虫だけは何度食べても慣れない。正直あまり食べたくない。だからなのか今日の夕飯は楽しく食べれそうな気がする。


「そういえば、旦那さんと親父さんは?」


 いつもいる二人組が居ないので、ヘレンに尋ねてみる。


「二人で一緒に海都に行ってるのよ。多分帰ってくるのは明後日くらいだと思うけど」


 海都マリンディ。

 この村の北。徒歩で約三日の距離にある海沿いの交易都市だ。

 俺は行ったことは無いのでなんとも言えないが、この国で二番目に大きい都市らしい。


「そうかですか。残念です」


 ケレーレンが口を布切れで拭き、俺の方を向いた。セクシーだ。つい見惚れてしまう。


「なにか用事でもあった?」

「面白いものが手に入ったから見せようかと思ってたんだけどね。留守ならしょうがない」


 口に食べ物を入れたまま応える。

 俺の行儀が悪いのか、ケレーレンが上品なのか。まあ前者だろうな。


「もう一泊していく?私はかまわないけど」

「ん、いいのか」

「ええ。私もあの二人の顔みておきたいし」

「そっか、ありがと」


 ケレーレンはいつもこうやって気を使ってくれる。以前、なんでこんなに親切にしてくれるのかと聞いてみたが、「困ってる人を助けるのに理由が必要?」と言われてしまった。


 ヘレンにもう一泊することを正式に伝える。大歓迎のようだ。


 なんの動物かわからなかったステーキは結構おいしい。聞いてみると山に生息している猪の様な動物とのことだ。家に戻ったら探してみるのもいいかもしれない。狩るのはケレーレン任せになりそうだが。


 スープも多少塩気が足りない気がするがおいしい。ジャガイモはジャガイモだ。数を食べていると飽きてくる。バターが欲しい。


 ケレーレンとヘレンがじっと俺を見ている。

 野菜と卵の炒めものに手を付けようとしているだけなのだが。これに何かあるのか? 辛いとか。


 ピンときた。

 ケレーレンとヘレンは料理を作っていたのだろう。もしくはケレーレンがヘレンに料理を習っていたか。そしてこれはケレーレンが作ったものなのだ。きっと。


 ちなみにケレーレンは食べれれば何でも同じという考え方をしており、家で作る料理は全てごった煮だ。ただ鍋に材料と水をいれて火にかけただけなので料理とは呼べないかもしれないが。


 そして味も酷い。

 味付けもしなければ、灰汁もとらないのだから当然か。ケレーレン曰く、愛情が入っているらしいのだがな。そんな味は微塵も感じられない。


 家ではケレーレンと一緒に料理を作っている。

 俺は学生時代に食堂のキッチンで数年バイトをしていたことがあり、料理の腕には多少の自信がある。ただ残念ながら調理道具が鍋しかないので、腕を発揮する機会は少ない。


 ケレーレンが作る煮料理以外を食べるのは初めてかもしれない。


 卵を一口。

 えぐい味がする。吐きそうだ。


 野菜は。

 すごい青臭い。目に染みる。


 両方一緒に。

 気付けにいいかもしれない。


 両方一緒に食べた時の破壊力は素晴らしいの一言だ。野菜、卵の順に別々に食べよう。


 完食した。間違いなく愛情は入ってないだろう。


「おいしかった?」


 ヘレンがにやついた表情で聞いてくる。この顔は味を知っている顔だ。


「ああ。すごい不味い」


 俺がそう言うと脛に激痛が走った。

 ケレーレンが蹴ったようだ。痛すぎて声が出ない。


「ん、どうかした?」


 ケレーレンが苦痛の表情を浮かべている俺に対して、まるで無関係かのように聞いてくる。


「大丈夫。なんでもない、です」


「ん~、私の負けね」


 ヘレンが笑顔で敗北宣言をしている。

 ケレーレンは「勝ってもうれしくない」と拗ねている。


 どうやら俺が食べた時の反応で賭けをしていたようだ。もちろん対象はケレーレンが作った野菜と卵の炒めもののことだ。


 ヘレンは俺がおいしいと言う方に賭け、ケレーレンはまずいと言う方に賭けていたようだ。


 そして二人ともさっきの料理がまずいことを味見で知っていた。自分でもまずいと思っているなら蹴らないでくださいよ。ねえケレーレンさん。


 その後は特に痛い思いをせず、平穏に夕食を終えることができた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ