風呂事情
2015/01/04 改行を本編に近い形に修正。字下げ、句読点の位置を修正。
「では、私は残りの仕事に戻ります。リョーダさんはどうしますか」
「そうだなー、一旦部屋にいこうかな」
「わかりました。部屋のカギは宿の受付でミリーさんから受け取ってください。では失礼します」
コリンはそう言うと魔法薬の陳列に向かっていく。
こちらも宿に向かう。
宿と商店は違う建物だが隣接しており、一度外に出る必要はない。
「やあ、ミリーちゃん。こんにちは」
宿の受付にいるミリーに声を掛ける。
ミリーは赤茶けた髪で髪型をポニーテールにしており、愛らしい丸顔だ。背は低いが、みずみずしい健康な体でふっくらしたやわらかみがある。ただ動きやすそうな小ぶりの胸が残念といったところか。
こんなことを考えている自分は変態なのかもしれない。
「あ、こんにちは、リョーダさん! お話はヘレンさんから聞いてます! こちらがお部屋の鍵です!」
ミリーが元気いっぱいに鍵を差し出してくる。背の低さから上目遣いになっており、子犬的な可愛さだ。思わず頭をなでたくなる。
「ありがと、ちなみに今日ってお風呂ある日?」
部屋の鍵をミリーから受け取り、風呂について尋ねる。断じて変な意味では無い。
この世界にも風呂はあるが、一般家庭で家に風呂がある所は少ない。
水道や湯沸かし器があるわけでもないので用意が大変なのだ。風呂を持っているのは貴族かよっぽどの金持ちだ。風呂のある宿屋もあまりないそうだが、ここはヘレンの父親の趣味で宿泊者や従業員が利用できる浴場が用意されている。ただ、準備が大変なのでお湯を張るのは三日に一度だ。
「ごめんなさい、リョーダさん。お風呂は明日です」
歩きっぱなしで疲れている今日入れないのは残念だが、明日入れるのであれば問題ないだろう。タイミングによっては入れない時もある。前回は入れなかった。
「代わりにお湯をお持ちしましょうか」
普段風呂に入らないこの世界の人は、お湯や水で体を拭くのが一般的だ。この村の様に川が綺麗ならそこで水浴びをすることもある。
俺も普段は、家の横を流れている川で水浴びをしている。
「いや~、水浴びでもしてくるよ」
一日歩きっぱなしで汗も相当かいているので、拭くだけではもの足りないだろう。
ミリーに見送られ、二階にある自分が泊まる部屋へ向かう。ケレーレンとは別の部屋だが隣同士だ。
部屋は三畳くらいの大きさと言った所だろうか。
入口の正面にそこそこ大きい窓、窓から向かって左側にベッドが置かれている。ベッドの反対側にはこじんまりした机と椅子。トイレも水道も共同なので部屋には無く、ちょっと高めの飲み物が入っている冷蔵庫やテレビなんてものはもちろんない。
どうでもよい事かもしれないが、布団派なのでベッドには違和感を感じてしまう。
部屋ある机に荷物を置き、宿の裏口から出て浴場に向かう。
浴場は宿の裏にある三メートル程の崖下にあり、川沿いに建てられている。川の水をそのまま浴槽に流すためだ。ちなみに今日の様にお湯を沸かさない日は、川の水のかけ流しになっている。
浴場には隣接している脱衣場もあるので、そこで服を脱ぎ浴場へ向かう。ただ体を洗おうにも石鹸はないので、文字通り水だけ浴びる。石鹸もどきは存在するが、それでも大きな街にでも行かない限り手に入らない高級品だ。
石鹸の作り方は知っているが、苛性ソーダが手に入らないので作れない。
水を浴びを終え、さっぱりした体で部屋に戻る。
戻る途中で宿の受付近くにあるラウンジっぽい場所で、ケレーレンとヘレンを見つけたので声を掛けた。
「もう用事は済んだの?」
「もうちょっとかな、今は休憩中」
基本的にケレーレンとはいつも一緒にいるので、こういう時に何をしているのか気になってしまう。
「なにやってるの?」
聞いてみたが、ケレーレンに微笑みながら「内緒」と言われてしまった。秘密にされると余計気になる。ちょっとねばってみるが教えてくれない。
「まあ、いいじゃない、後でわかるわよ」
ヘレンがケレーレンに助け船を出した。
これ以上粘ってもいい事は無いだろう。それに後でわかるとのことなので、この話はもう聞かないことにした。
「あとで分かるならいいかな。ちなみに夕飯はいつ頃です?」
歩きっぱなしだったこともあり、結構お腹がすいてきているので、ヘレンに尋ねてみた。ここの食事は若干薄味に感じるが結構おいしいので楽しみでもある。
「そうね、あと一時間位かしら。あの時計の砂が全部下に落ちるころね」
ヘレンがそう言い、カウンターの横に置かれている巨大な砂時計を指して言った。
「わかった。時間あるようだし、散歩でもしてくるわ」
「いってらっしゃい。じゃあこっちも休憩は終わりにしましょ」
ケレーレンはそう言うと、ヘレンと共に店の奥へ入って行った。