服のプレゼント
あれ?鍵がかかってる。
泊まる部屋は、ここで間違い無いはずだが。いないのかな?
「ケレーレンいるー?」
ノックをしつつ、声をかけてみる。
「リョーダ?」
ああ、居た。
はい、そうです。一芝居打ったリョーダさんですよ。
「そうだよ」
そう答えると、勢いよく足音が近づき、音が止むのと同時に勢いよくドアが開いた。
「おかえりなさい」
「ただいま」
なんかいいな、こういうのも。
まだ鎧を着ているのか。今日はもう外に出る予定も無いのだから脱げばいいのに。
「夕食のこと、何か聞いてる?」
「ううん。なにも」
「日が暮れたら食堂に来てくれってさ。まあもう暮れてるけど」
「うん」
「はい、これ」
買ってきた青い服を、ケレーレンに差し出す。
「これ、さっきのお店にあった」
「うん。欲しそうだったから」
なんか微妙な表情だ。うれしさと……戸惑いか?
まあ、いいか。この後、受け取りを拒否してくるはず。そのあとは用意していた小細工でと。
「ありがとう」
あれ?予想外の反応。どういう心変わりだ?
「どうしたの?」
しまった。動揺が表に出てしまった。何を言えば。ダメだ。考え込むと逆にあやしい。
「いや、断られた場合の事を考えてて」
ああ、俺は何を言っているんだ。ダメだ。俺はアドリブに弱い。
「断られたらどうしてたの?」
「う。それはですね」
「え?」
ううう。洗いざらい白状させられてしまった。
まさかファビオから全部聞いた上で、受け取るように頼まれていたとは。俺もまだまだだな。
とはいえ、目的は達した。気持ちを切り替えていこう。
って、あれ?着ないのか?
大事そうに扱ってくれるのは嬉しいが、着てもらうために買ったのだが。
「着てみてよ」
「夕食後じゃダメ?」
ああ、耳か。というか鎧のまま行く気なのか。
「せっかく……買ったのに……」
四つん這いになり、これでもかと言う位に項垂れてみる。
「でも……」
よし、効果は抜群だ。もうひと押し。
ケレーレンが俺をじっと見て、両手を兜に当てている。そこが耳の場所なのだろう。
「大丈夫。俺にいい考えがある」
「え……うん。わかった」
ちょっと悩んだようだが、俺を信じてくれるようだ。
古今東西。このセリフだと碌な考えじゃないが、俺のは問題ないはずだ。きっと大丈夫。
「……」
着ないのか?わかってくれたんじゃ無いのか?
「ねえ。外で待ってて」
あー、そういうことか。
ドアの前で待つ。まるで立たされているようだ。食事時ということで誰にも見られていないのが唯一の救いか。
「入ってもいいよ」
許可がでたので、部屋に戻る。
おおおおお。これはひどい。笑ってしまいそうだ。
美人は何を着ても似合うと思っていたが、そんなことは無かった。
「似合うかな?」
青いケレーレンが、くるっと一回転する。
似合うとか、似合わないとか、それ以前の問題だ。
「うん。すごい。上にこれを着て見て」
「これも買ったの?」
「うん」
「ありがと……すごい綺麗」
ケレーレンが薄いワンピースを着ていく。
おおおおお。これはすごい。ひれ伏してしまいそうだ。
美人には美しいものが似合うと思っていたが、その通りだった。
「どう?」
「……」
「リョーダ?」
「ああ……あ、ごめん。みとれてた」
女神だ。女神がいる。
マイナス方面にすごかった青い服に、ワンピースが重なることで、プラスのすごさに変わった。
ワンピースの花柄と青い服のコラボレーションにより、青色の花が咲く。
あの鮮やかな青も、ワンピースの白色で落ち着いた色になり、銀髪との素晴らしいコントラストを生み出している。
そして、動きやすいようにと、ワンピースを切って作ったスリットが艶やかさを演出している。生足だったら完璧だった。
どこかで見た事があると思ったが、あれだ。チャイナ服とアオザイを足して二で割ったような感じだ。細身のケレーレンにとても良く似合っている。
「褒めてもなにもでないよ」
本当の事を言っただけだ。それくらい綺麗だ。
さて、これに手を加えるのはもったいないが、耳を隠すためだ。涙をのんで諦めよう。
布の袋を改造した帽子を、ケレーレンにかぶせる。形はニット帽に近い。
駄目だ。耳のところが出っ張って、イカの頭みたいになっている。
ちょっと吹いたのを見られてしまったようで、ケレーレンが帽子を外して拗ねてしまった。
とはいえ、耳が障害になることは想定していたので、解決策も考えてある。想定外だったのはイカくらいか。
「ちょっとごめんね」
美しい銀髪をかきあげ、耳全体を露出させる。さらさらの髪だ。
耳の手触りも素晴らしい。人間と違って柔らかい毛が生えている。
用意した布を鉢巻きのように、耳を押さえつける形で巻いていく。
耳がピクピクと動くのが堪らなくかわいい。
無駄に耳を撫でていると「んっ」とケレーレンの甘い声が漏れてきた。もしかして性感帯なのだろうか。
「リョーダ!」
怒られてしまった。真面目にやろう。
布を巻き終え、先程の帽子をかぶせる。今回はイカにならずに済んだようだ。
「耳、大丈夫?痛かったりしない?」
「うん。兜つけた時より楽だよ」
音も問題なく聞こえているようだ。
完成だ。帽子は無い方が良いと思うが、これはこれで素晴らしい。
ワンポイントに花か何か欲しいが、今はこれでいいだろう。
本人の感想を聞きたいが、鏡が無いので諦めるしか無いか。
「……自分じゃ無いみたい」
なんだこれ?ケレーレンの前に鏡が出現した。
魔法か?何の魔法だ?
水だ。静止した水が、板状になって浮いている。
即席の鏡といったところだろうか。こんなことも出来るとは。
それにしても、この水はどうするんだろう。戻せるのか?
ケレーレンが水板に手を伸ばすと、水が沸騰し始めた。
ダメだ、頭が追い付かない。どうなってるんだ、これも魔法なのか?
水板が小さくなるにつれ、空中に球体が現れ始めた。
水蒸気の玉だろうか。デカいガラス玉みたいだ。この玉が魔法の範囲というものなのだろうか。
これ大丈夫なのか?爆発したりしないよな。
「なあ、ケレーレン。これは……」
「すぐ終わるから待ってて」
何がすぐ終わるのだろうか。俺の命運か?確かに身の危険を感じるが。
不安になってきた、これは安全なのだろうか。
「ケレーレン。同じ事を何度かやってるんだよな」
「ううん。ないよ」
無いのかよ。
ああ、水蒸気の球体が、心なし揺れてきている気がする。いや、間違いなく揺れている。
「この球体になってる魔法?、強度はどれくらい?」
「強度なんかないよ?万能魔法だから。でも壊れるよ」
意味がわからん。どういうことだ?
ただ、壊れるということはわかった。
球体内部の水が減らなくなってきた。蒸気圧のせいで沸点が変わっているのだろう。
化学にはそんなに詳しくないが、このままでは危険なことはわかる。
「おかしいなぁ」
ケレーレンが首を傾げている。水が減らなくなってきたことが不思議なようだ。
それにしても、あの球体の中に肉を放り込めば簡単に柔らかくなりそうだな。水を減らして調味料をいれれば角煮の完成か。うーん。今度やってみよう。
おっと、それどころじゃなかった。早いとこ、魔法をやめさせなくては。
「ケレーレン!魔法はそこでストップ!」
「すとぷ?」
あああああ、通じない。おおお、揺れが酷くなってきた。
「スタァァップ!」
「?」
そういうことじゃなかった!
「魔法をやめてくれ!あああ、いや。その丸いのだけは残して!」
「え?」
「はやく!」
「リョーダ……怖いよ。なんで怒鳴るの?もうやめたから……」
ケレーレンが泣きそうに。俺も泣きそうだ。
球体の下部に水が溜まり始めてきた。
球体の震えも止まったようだ。危険度は順調に低下している。
水魔法や氷魔法を球体内部に入れれば、早く冷やせそうだが、いまいち何が起こるかわからない。このまま自然に冷やそう。




