役割と本音
「戻ったよ、夕食にしましょう」
ケレーレンが扉越しに声を掛けてくる。
「今行くー」
結局レーザーはレの字すら出せなかった。練習あるのみだ。コツをあとで聞こう。
特に準備することも無いので、すぐに食堂へ向かう。
今日の献立は魚を煮たもの、茸とジャガイモを炒めたもの、スープ、そしてジャガイモ。あとは虫だ。
虫には一切手を付けない。正直テーブルの上にも置いて欲しく無い。
それにしてもケレーレンの様な美人が、虫を食べている所を見ると何とも言えない感じがする。
これって偏見か。いや感想だ。
食事の途中で何度か足を蹴られた。緑パンツの件がバレたようだ。
ここでケレーレンの下着の色を聞いたらどうなるのだろうか。足を折られそうな気もするが、ちょっと試してみたい。
とはいえ、ケレーレンの下着の色は知っている。白だ。というか白しか持ってない。一緒に住んでいるとどうしてもわかってしまう。
食事を終え、ヘレンを交えて少々雑談した後、ケレーレンと共に部屋に戻る。さっきの続きだ。
ずっとわからなかった役割について聞いてみた。
役割は二種類あるらしい。
戦士と魔法士だ。
戦士と魔法士は、予想通り物理系と魔法系だった。
それぞれ役割を決めることで、万能魔法とやらが使える様になるようだ。これは光や火といった系統は関係なく使える様になるらしい。
役割が決まると、魔法士であれば総魔力量が増えるという、神の加護という名の特典が付くという。
戦士の特典は身体能力の強化が魔法士より効率的に行えるというものだ。効果○倍といったところだろうか。
そして魔法の封じ込め等には、この万能魔法をないと駄目だという。
役割を決めるのは神殿で行うようだが、この村には無い。
一番近い神殿は王都か海都のようだ。出張所とか無いのだろうか。
ケレーレンやミリーは魔法士、ヘレンは戦士だという。
リョーダもそろそろ決めておいた方がいいと言われたが、これは悩む。
生き残り易い方は、戦士だろうが、戦士になったらきっとレーザーは使えないだろう。
「あと他に聞きたい事ある?」
「さっきの俺がレーザーって呼んでたやつなんだけど、こんな感じにはできるんだけど」
俺は、ケレーレンの前に手を出し、手全体の光を指先に集中させる。
「どうしてもケレーレンみたいにならないんだよね。光源が小さくなるだけ」
「それって役割についてないからじゃないかしら」
また役割か。どうやら万能魔法を使える様にならないと、体から離れる様な魔法は使えないらしい。
光に関係あるのかと思ったが、ある見たいなので納得せざるおえない。
さっきまでの練習が無駄だったとおもうと、やる気が無くなってくる。
肩を落としている俺を見てケレーレンが声を掛けてくれる。
「どうかした?」
「いや、なんでもない。助かったよありがとね。今日はもう大丈夫」
「じゃあ、そろそろ戻るわね。忘れてないと思うけど、帰るのは明日じゃないからね」
「大丈夫、覚えてるよ」
今回はヘレンの旦那と親父さんに会う為に一泊長く泊まっている。
旦那さんは、誠実で真面目一辺倒。もともと王国の騎士か何かをやっていたらしい。
ヘレンの親父さんは、道楽者で不真面目だ。若いころ、ケレーレンに付きまとってボコボコにされたらしい。ざまあ。
二人とも前回来たときは会えなかったので、今回会えるのが楽しみだ。
「それじゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ」
「あ、そうだちょっとまって」
扉に向かって歩いているケレーレンを呼び止める。
「どうかした?」
「渡そうと思ってたものがあったんだけど、いいタイミングが無くてね」
本当は忘れていたのだが、それは内緒だ。
「なあに?」
ケレーレンがこちらに戻ってくる。
「ちょっとまってね」
袋から工房で作ってもらったブレスレットを取り出す。
「はいこれ。いつもありがとう」
今までのお礼を込めてブレスレットをケレーレンに渡す。正直こんなんでは足りないのは分かっているが、まあ第一弾だ。
「え、これってもしかして金?」
「いや、金色だけど違うよ。正直金と比べると価値は低いとは思うけど、その金属は世界にそれしかないと思う」
親方も知らなかったし、少なくともこの国には無いと思われる。多少盛っても問題ないはずだ。
「そんな貴重なもの貰えないよ」
この世界ではまだ珍しいが材料も安く、一度作っているので作るのも次作るのは簡単な黄銅でこういわれると、騙している様な気になってくる。かといって安物だからとも言えない。
「いや、受け取ってくれ。あげた物を返されるのはつらい」
「あ、ごめんなさい。そうだよね、ありがとう」
「裏に書いてあるこれは」
ケレーレンがブレスレットの裏側を見ている。親方が彫った文字に気が付いたようだ。
「あー、俺の気持ちかな」
なんて書いてあるのか知らんが、悪い事じゃないといっていたのでこれでいいだろう。多分。
ケレーレンがブレスレットを両手に包み、大事そうに胸の方に引き寄せる。その後、うつむいてなにかぼそっと言っているが、良く聞き取れない。
「ありがとう、とってもうれしい」
ケレーレンが顔を上げる。とても笑顔が輝いている。
こちらもなんというか幸福感というかそういうもので満たされていくのを感じる。
「じゃあ、また明日。おやすみ」
「おやすみなさい」
ケレーレンが自分の部屋に戻っていくのを見送った。
ベットに横になる。
正直な所、このままケレーレンと一緒にいたいと思う自分が少しいる。
いや少しじゃない結構多い。だがそれは俺にとって元の世界に帰ることをほぼ諦めるに等しい行為だ。
だが、俺はまだ元の世界に帰ることを諦めることはできない。
戻りたい明確な理由がある訳じゃない。ただ何か漠然としているが帰りたいと思っている自分がいる。




