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第7話

「いやーうまくいきましたね先輩」


「いやまあ確かに小魚が入部してくれるのは嬉しいんだが……。もしかしてただ面白そうだから引き止めたとかそういうことか?」


 放課後僕たちは家へと帰るべく昇降口へと歩いていた。窓からは陰ってきた夕日が差し込んでいる。


「いやいやまあ確かにそれもありますけど……」


「あるのかよ!?」


 そんな気がしていたのを無理やりごまかしてきたのに……。まあ凛らしいといえばらしい。……ん? まさか曲がり角大作戦の時も面白半分だったのか!? そうじゃなかったことを信じたい限りだ。


「あくまで面白半分です。残り半分は善意でできていますから」


「薬の売り文句か! しかも前者が悪意に満ちてるせいでフォローできてないし!」


 凛がハハッと、状態を反らして快活に笑う。しかし持ち前の黒髪と端正な顔立ちのおかげで決して下品に見えない。


 ほんとこの笑顔を見ると色々とどうでもよくなるから不思議だ。


「先輩靴箱あちらですよね?」


 と、凛と話している間にもう昇降口に着いてしまった。もう時間が遅いせいか辺りはひどく閑散(かんさん)としていた。


「…………か?」


 うん? 誰かいるのか? 


「先輩置いて行きますよ」


 今何か昇降口の隅の方から話し声が聞こえた気がしたんだが……。気のせいか。それにわざわざ詮索(せんさく)するようなことでもないしな。


「待ってくれ。今行く」


 そうして僕たちは校門で別れそれぞれの帰路に付いた。







  ✽      ✽







「おい! 兄。牛乳持って来い! ま、さ、か、断るなんて選択肢は無いよなー」


 帰宅を告げる自宅のドアを開けた僕を迎えたのは「お帰り! お兄ちゃん!」でも「ワタシずっと待ってたんだから……。寂しかった……」でもなく僕をあろうことか兄、という可愛げも何もない無機質な呼び方をする僕の可愛い? 妹の命令だった。


 兄、だぞ。まだ兄貴と呼ばれた方がマシだ。


 しかも当事者である僕の妹は玄関にも来てくれない。おそらく毎度のごとくリビングのソファーにでも寝転んでいるのだろう。おそらくあいつは僕のことを召使のような存在だと思っているのではないのだろうか。


 いや、ただの下僕ロボットとしか思っていないのかもしれないな……。


「なに黄昏(たそがれ)てんだよ。早く持ってきてくれよー兄」


 分かるのか!? 見えてもないくせに? 


 と、いっても反抗するとどんな反撃をくらうのか分かったものじゃない……。ここは素直に従おう。


 これが中学二年生の妹を持つ男子高校生の日常です。妹萌えなんていうものはハアァ? としか言いようがない。


 キッチンにある冷蔵庫を開けると残り少ないパック型の牛乳があった。妹の好きな特濃だ。


 それをコップに注いで妹のいるリビングのドアを開ける。


 案の定僕の妹はソファに足をだらしなく投げ出し、寝転がっていた。


 当然、衣服がはだけて下着が見えるとかそういった(たぐい)のものはない。極めて健全な姿である。


「おい火鳴(かなり)持ってきたぞ」


「おおー。苦しゅうない我がもとへ」


「突然何キャラだよ!?」


「ありがとうお兄ちっ」


「お兄ちゃんと言いかけて舌打ちするなよ。一瞬昔みたいに呼んでくれると思ったじゃないか」


「ワタシ兄をそんな屈辱的な呼び方で呼んだことあったけか? そんなのあったらショックでお嫁どころか家の外にも行けなくなっちゃうね」


「いや、あったよね! 僕に無邪気に擦り寄ってきていた時期が……?」


 いやいやあったはずだよね。妹を持つ兄なら誰もが経験した最高に幸せな時期が…………。


 そうそう。あの時とか……。


 おいあにぃー!


 いたっ。痛い痛い。強く抱きしめすぎだって。そんなにお兄ちゃんのことが好きなのかい? もうホントに可愛いなあ。


 もういいや。ワタチげーせん行ってくるね。


 あ、うん。わかった。いってらっしゃい。


 ……………………そういえばその後……、僕の財布少し軽くなってたんだよな……。


 うん。思い出した。僕今まで妹からお兄ちゃん、なんて呼ばれたことなかったな。しかも実の妹から金スられてるし。火鳴のやつ昔から無邪気どころか邪気しかないじゃん。


「なに拳握りしめて泣いてんだよ。気持ち悪いなあ。滑稽どころか哀れだな。見る価値もないどころか見たくもないな」


 散々な言いようだな! ここまで妹から虐められる兄も珍しいんじゃないか!?


「まあ。取り敢えずありがとありがと。ここはワタシの寛大な心に免じて許してやるよ」


「ここ許しを請う場面だったのか!? しかも免ぜられるのは僕の献身的(けんしんてき)な態度の方だろ」


 いや、それもおかしいな。


 まあ、いいや。これ以上話していても僕の凛や小魚から受けた傷を(えぐ)られるだけだ。


「なら僕は行くからな、他に用事はないか?」


「いやいや待て待て。今日はどうだったんだ?」


 そう言って体を起こし、初めて僕と顔を合わせる。


 性格をそのまま具現したような荒々しい双眸(そうぼう)と凛ほどではないが長く伸びた髪。髪の手入れなどは何もしていないのだろう、所々がはねている。


 黙っていれば今でも可愛いんだけどな。


「はいはいわかったよ。やればいいんだろ?」


「返事は?」


「はあ。一回ですね。はい」


「イエスマムだろうが」


「軍隊か!」


 そうして僕は火鳴に今日の報告をするのだった。

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